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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第1章 Green clover
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02 y=∞x

「いや、だってさ。世間で騒がれる俳優の恋愛とかってさ、全部とは言わないけど、ほとんど相手は芸能人とか女優だろ?お前は小さい頃からそっちにいたから、てっきりそうなのかと・・・。」

「そうか。でも俺はあいつ以外嫌なんだ。」

 浜原は、設楽の隣に腰かけた。顔を覗き込むと、今更ながらこいつ本当に童顔だな、と感じた。

「で?その当のひとみちゃんとはどうなわけ?」

 設楽は苦笑いした。

「どうもこうも・・・さっきフられたって言ったろ。」

 浜原は大げさに溜め息をついてみせた。

「せっかく同じ部活なのに、もったいない。チャンスはもっとあるぜ。」

「でも仕方ないだろ。俺はマネージャーなんだから。それに、仕事があるし、土日練習なんか、この五年間で数えるくらいしか行ったことないんだぜ。」

「悪いね、俺の兄貴が無理矢理引き込んで。」

 図書館に入って来たのは、同級生の笹井佳宏だ。

「笹井。部活は?」

「んー、休憩。」

 笹井は、設楽と同じ吹奏楽部だ。設楽とは違う切れ長の目と、染めてもいないのに茶色い髪が特徴的だ。

「あれ、設楽を吹奏に引き込んだ先輩って、笹井の兄ちゃんだったの?」

「え、言ってなかった?俺の兄貴だよ。仕事あるし、こいつは無理って俺も言ってたんだけど、顧問もマネージャーでいいから―って。まあ、兄貴は本当は自分とこの・・・クラリネットに引きずり込む予定だったらしいけど。」

「何だよそれ、初耳だぞ。」

 設楽が驚いた表情で、半分笑いながら言った。

「そういえば、設楽。今日、西川部活出てるけど。図書委員はいつもみたいに浜原に任せれば?お前、なかなか部活にも来れないだろ。」

 設楽の顔が引きつった。

「いや・・・いつも浜原には、俺の平日の穴埋めやってもらってるし・・・。」

「まあ、俺は本が好きだから構わないけど。」

 設楽は一層声を落として呟いた。

「今行くのは気まずいっつーか・・・さっきフられたばっかだし・・・。」

 笹井は一瞬、きょとんとした顔になった。

「さっきって・・・またかよ!懲りねえ奴だな、お前も!世界記録更新してんじゃねえか?」

「うるさい。」

 しかしこの一途さにはもう呆れるしかない。本当のところはどうだか知らないが、知っているだけで、中学一年の時、初めての席替えで隣になってからだと聞く。だが、西川ひとみとは幼馴染だから、もしかするとそれより前、というのもあり得る。

「とにかく、図書館は五時閉館だから、今日は終わったら最後まで部活出るよ。」

 あと十五分。

「じゃ、俺部活に戻るわ。」

 笹井はそのまま出て行った。

「ちっ、お節介め。」

 設楽は呟いたが、どこか嬉しそうだった。


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