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不幸の天才、至福の凡人  作者: 沖津 奏
第1章 Green clover
16/44

16 飛んで火に入る

 一歩下がった所に、花壇がある。ここには花ではなく、背の低い木が植えられ、刈り込まれている。流れるような動作で一歩退き、新芽の枝を一つ摘み取る。ゆっくりと右回りで振り向く。相手に近づき、髪留めにひっかける。本当は、白い小さな花のついた枝だった。そのまま右足を半歩ほど後ろへ引き、左手を差し出し、屈んだ。次のセリフはこうだ。

「許してくれますか。」

 相手はこう答える。

「永遠に。」

 そして手をとる。暫く間があって、わっと拍手が起こった。設楽は何が起きたか飲み込めずにいた。

「この野郎、今度何か奢れーっ。」

「設楽ー、何だよ今のクサイ演技は!」 友人が次々に絡み付いてくる。目を上げると、時岡と目が合った。見れば、アルトサックスを持っている。時岡だけではない。六年生は、皆自分の楽器を持っていた。あのBGMは彼らだったのだ。おそらく合わせたのもさっきが初めてだ。

「先輩・・・。」

「設楽君、どうだった?俺達からの最後のプレゼント。」

「いや、本当に・・・あの・・・。」

 涙声に自分で驚いた。

「ははっ、時岡が昼にすげえこと思いついた、なんて言うから。」

「ああ、時岡が音感あって良かった。昼に手書きの楽譜渡されてさあ。一発で合わせるからって。」

「いろいろ・・・すみません。」 六年生は笑いあっている。

「いいのいいの、おかげで面白いもの見せてもらったし。」

「ああ、良かったな、設楽。こっからも頑張れよ。」

 興奮覚めやらぬまま、一人、また一人と帰途についた。


 設楽はひとみと並んで歩いて帰った。さとみは、同じマンションの同級生と少し離れた後ろを歩いている。

「あの・・・ありがとう。」

 切り出したのはひとみだった。

「いや、それ俺のセリフだ。」

 暫く黙って歩いた。後ろからの話し声だけが夜空に吸い込まれる。

「あのさ、俺、本当は知ってたんだ。」

「何を?」

 設楽は空を見上げた。星がせわしなくまたたいている。

「五月初め頃に、三八回目に言った日の晩。ベランダで電話したろ?」

「さあ・・・覚えてない。」

 ひとみは首を捻った。

「あの時誰かに言ってた。俺のことが、その・・・好きだって。」

 ひとみは思い出した。たしか、笹井との会話だ。

「一つ聞きたい。何で、三九回も断ったの?」

「それは・・・。」

 目を逸らした。

「それは?」

「笑わないでね・・・小さい頃に、お祖母ちゃんがこう言ったの。大きくなって、四〇回以上お前のことを好きだと言ってくれる奴じゃないと、一緒にいるなって。」

「・・・は?」

 設楽はびっくりした。本当に?

「それだけ?」

「・・・悪い?」

 ひとみが突っ掛かるように言った。ムキになっている。そういえば、西川のお祖母ちゃんは、占い師もどきのようなことをやっていた。だが、良い悪いではなく・・・。

「四〇回なんて、んな無茶な・・・。」

「でも、設楽君言ってくれたじゃない!」

 たしかに。俺は馬鹿みたいに、四〇回も好きだと言い続けた。あまりのことに、ため息が出そうだ。

「じゃあ、確認するけどさ。」


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