15 オレンジの街灯
楽屋で六年生が泣き崩れていた。だが、笑い泣きだ。
「おーい、早く退館準備しなさい。」
顧問がやって来た。外はもう夜。八時半過ぎだ。設楽は六年生を横目に、忘れ物はないかチェックして回った。花束はひとみと笹井が担当だ。見つからないよう外に出す手筈にはなっている。
全員が退館し、大ホールの搬出口が閉められた。六年生はこれで引退だ。前に並び、現部長が感謝の言葉を述べる。すすり泣きも聞こえた。花束と色紙を渡し、パートごとに集まって記念写真を撮る。本来なら、ここで流れ解散だ。だが―。
「設楽くーん。」
時岡の声に素直に従い、前へ進み出た。次に耳に入ったのは。
「西川さーん、あ、姉の方で。」
ひとみがぎくっとして、だが前へ出た。設楽は血の気が引くのが分かった。時岡がにやりと笑う。
「言ったでしょー、協力するって。」
「これのどこが・・・。」
周りが一斉に囃し立てる。女子の中には何人か複雑そうな表情も混じる。設楽はひとみから目を逸らした。何かがデジャヴュした。
「お?設楽君、皆こんなに応援してるんだぜ。逃げるのか?」
時岡がいやらしく聞いてくる。
「いや、そういうわけじゃ・・・。」
「んじゃ行け!男だろーが!」
背中をどん、と押され、ひとみの前へよろめいた。顔を上げると目が合った。思わず一歩後ずさる。
「設楽ー。」
この声、木村か。ちくしょう、なんて拷問だ。だがもうヤケだ。セリフはどうせ気の利かないものだ。全てを演技だと思えばいい。
「言わないのかー、おい。」
「うるさい黙れっ。」
設楽は再びひとみの方を向くと、割と大きな声で言った。
「俺・・・西川が、好きだっ。付き合って下さいっ。」
言葉が詰まり、目をつむって思わずそっぽを向いた。
また聞き飽きた答えが返ってくると思った。しかし、聞こえた言葉は。
「ありがとう・・・私も、設楽君のことが、好き・・・です・・・。」
最後は消え入りそうな程小さい。設楽は理解できずに、立ち尽くした。一瞬の静寂の後、周りが騒ぎ立てた。それと同時に聞こえてきたのは―。
「あ・・・!」
半年前、脇役で出演した学園恋愛もののドラマで使われたBGM。思い出した。何のデジャヴュかと思えば、それだ。夜、公園で告白する。俺がやった役だ。OKをもらって、その後は・・・。
頭の中で、台本をめくる。その後は・・・。