01 日常の続き
「好きです・・・付き合って下さい!」
相手が何て言ったのか、よく覚えていない。しかし、口の動きと目で理解した。
「なあ・・・お前、そろそろ諦めたら?」
沈んだ表情の少年の隣で、机に腰掛けた少年が呟いた。
「嫌だ。」
「嫌だって・・・お前、フられたの、今日で何回目よ?」
「・・・三八回目。」
二人同時に溜め息をついた。
「思うんだけどさ、その・・・何と言うか、よく飽きないよな。」
「飽きるわけないだろ。」
広々とした学校の図書館で話しているのは、設楽優基と浜原大輔だ。二人は図書委員をしている。中高一貫校なので、二人は高校二年生ではあるものの、学年の呼称としては五年生だ。
図書館は校舎からは独立して建っている。窓は大き目で、開くことは出来ないが、開放的だ。水色とも薄緑ともつかない色合いのブラインドの隙間から、傾きかけた陽の光が差し込んでいる。一つ、ブラインドが上がりきっている。すぐ外には花壇があり、一年を通して綺麗な花が咲く。設楽は、その花壇を見るのが好きだった。今は、薔薇が咲き誇っている。
「ちょっと、机に座らない!」
司書室から顔を出したのは、中年で細身の女性だ。
「あっ、すいません。」
浜原は学ランの裾を気遣いながら、ぴょん、と飛び降りた。放課後なのに二人以外に人がいないので、浜原は気兼ねなく、普通の声量で喋った。
「でもさ、お前みたいな奴、恋する相手は芸能人とか、女優とかモデルの娘だろうと思ってた。」
浜原は設楽の顔を見た。黒い艶やかな髪。整った顔。陸上部で日に焼けている自分と違い、白い肌。気も利くし、性格もいい方だと思う。しかも、今世間でじわじわと人気の出ている天才的な才能を持つ俳優だ。
「何で?」
純粋な目がこちらを向いた。