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1-3 「誰が殺したのか」

九、7月21日午後3時1分 ひるがお市・路地裏


笹村絵真が目を覚ますと、目の前には悪夢が広がっていた。

血まみれの黒服が三人、そのうち一人は体がばらばらになって地面に転がっており、そのうち一人は皮膚や顔がただれており、そのうち一人は体中が焼け焦げていて所々、肉が見え隠れしている。

絵真は吐き気をこらえ少年を探した。立ち上がると体に痛みが走って自分の体がぼろぼろになっていることに気付く。

少年は工事の材料置き場の影に数本の細い鉄パイプの下敷きになって倒れていた。真っ白の制服は返り血を浴び過ぎて元の面影がほとんどない。

本当はそっとしてやりたかったが緊急事態だ。ぐいぐい押してたたき起こす。しばらくすると少年は朝起きるようにめんどくさそうに起き上がる。

「・・・つかさ君、大丈夫?」

「ああ、うん。大丈夫、」

起きあがった少年を良く見ると服の所々が焼き焦げていて肌が見えている。

「あ、あのさ、つかさ君?質問していいかな?」

「ああ、いいけど急いでね。もう結構時間が経ってる。」

「これ、あなたがやったの?」

眼の前には惨劇が広がっている。この血の海の元凶がこの軟弱そうな少年であると絵真はどうも考えられなかった。

「違う。あのバラバラの死体と戦ってた時はともかく、残りの二人相手に、僕はただ殴られていただけだ。」

「じゃ、だれがやったの?」

「自滅したんだよ。」

「自滅?」

信じられない。黒服達は能力の代償こそあれ戦いのプロのハズだ。そんな人間が自分の能力で自滅したりするのだろうか。

「そこの瞬間移動能力者テレポーターは瞬間移動のときに体がばらばらになったらしい。そこの皮膚がとけてる人は自分の起こした日に巻き込まれて、そこの焼き焦げた人は・・・たぶん電流が逆流したんだと思う。最初、手の周りがバチバチ光ってた」

「ふーん、なんで?」

「どうもさ、瞬間移動の黒服が取りだした青白い液体、あれが原因だと思うんだよ。能力を強化するって言ってたし・・・ということは副作用とかでさ…」

「まあ、一理あるけど・・・」

確かに一理はあるのだ。能力が強化された結果、それを制御できずに暴走させ、自滅する。一応、理屈は通っている。しかし、本当にそうだろうか。黒服達は裏の人間だ。彼らの目的は社会に見せられないものを内々に処理すること。能力等の裏の情報を表に出さないように尽力している連中が、能力を暴走させ一般人に気付かれるような危険を冒し手まで強い能力を手に入れようとするかは疑問だ。しかも自分たちのような中学生に。最初の黒服は追い詰められていたからうなずけるが、壮の証言通りなら他の黒服も薬を服用したということだ。どうもそんな風には考えられない。ということは他の要因があるはずだ。

「つかさ君、黒服が自滅してた時、君は何してた?」

「?、そんなこと聞いてどうするの?」

「いいから」

「一人目のときはキレてたから何も覚えてないけど、気付いたらバラバラになって倒れてた。二、三人目のときは、最初のうちは向こうも能力が使えてたみたいなんだけど、俺を的にしてゲームをし始めたあたりで能力の調子が「変」って言い出した。」

「ふーん(キレてた、ねぇ・・・)。あのさ、そのゲームし始めたあたりの状況を詳しく説明して」

絵真の思惑をまるで何も飲み込めていない壮はとりあえずよくわからない顔で話し始める。

「えーと、気付いたら黒服がばらばらになってて、どれで他の黒服が後続に来てたんだけど、俺、キレてたから鉄パイプ持って突っ込んだら案の定ぼこぼこにされて、そしたら黒服の一人が「ゲームをしよう、あのガキを能力を使って殺せば勝ちだ」って言い出したから必死に逃げて、それから何初か攻撃を食らった後に転んじゃって、黒服が「一発ずつ当てて行こう。ちょうど殺したら勝ちだ」とか言い出したあたりから能力の調子がおかしいって言い出して黒服の体に火がついてそいつは体がドロドロ。ここらへんでだいぶ意識が朦朧としてきたんだけど電気使いの方も結局自滅」

「私が寝てる間に結構壮絶な目にあってたんだね・・・」

「まあ必死だったからあんまり記憶がないけど」

「ふーん・・・」

絵真は状況を整理してみることにした。まず自分が気を失っている間に壮は三人の能力者と戦った。一人目は瞬間移動能力者、彼は体がばらばらになっている。二人目は発火能力者パイロキネシス体全体が焼けただれており、おそらく体の内部器官も同様に溶けていると考えられる。三人目は電流操作。体のあちこちが黒く焼け焦げていて、内臓器官が破壊されたと考えられる。ただ二人目より圧倒的に外部の損傷が少ない。体の外への損傷は一人目、二人目と少しずつ少なくなっている。

つまり、能力の暴走はだんだん少なくなっていったのではないかと考えられる。

そしてそれは、式場壮の意識が朦朧としてきた時間とぴったりだ。つまり考えられることは一つ、

「(つかさ君が能力者ってことだね。)」

ということしか考えられなかった。自分たちがテロリストで見方からも裏切られたことを考える限り、ほかの誰かが助けてくれたというのはあり得ない。

「(私の幸運の能力が暴走しないところを見るとどうやらいつも能力が発動するわけじゃない。一人目のときはキレてた。に、三人目のときは「死にたくない」という感情が働いていた。と、なると結論は「感情に比例して他の能力を暴走させる」ってとこかな?)」

そんなところだろう。と絵真は結論をまとめる。とりあえず現段階では彼の能力にも頼る必要があるのだが壮に教えるのはやめておくことにした。壮の能力は分類上「起動型」というカテゴリーに当てはまる。ある一定の条件に当てはまることで能力が強制発動される。という不安定な能力のようだし、それを彼に教えてもし能力に支障があったらこの先生き残れそうもないので教えないほうが賢明だろう。

絵真の長時間の思案を露程も知らない壮彼女が何やら考えているうちには黒服達の胸ポケットをガサゴソ漁っていたようで拳銃と青白い液体の入った小瓶を並べていろいろいじっていた。

「笹村さん。三丁あったから二丁は俺がもらうけどいい?」

「この短時間で確実にたくましくなってるね・・・」

「あのさ、笹村さん」

「何?」

壮は血まみれの制服を脱いでいるがそれでも血が点々とにじんでいる。その赤黒い液体は本当にその少年には似合わなかった。

「俺、あの黒服達を殺したんだよね?」

少年はなんだか悲しげな眼で絵真を見ている。そのはずだ、現にこちらを向いて自分としゃべっている思想であるはずだ。それでも絵真には彼があの死体達を見ているとしか思えなかった。

「・・・能力が暴走したんでしょ?」

「確かに俺自身は殺してないよ。でもそれは殺せなかっただけで確実にあの人たちを殺そうとしてたし、結果的に彼らは死んだ。それって僕が殺したことになるんじゃないのかな?」

「殺すのが嫌なの?」

「当たり前だろ!?嫌に決まってるよ」

「ふざけないで!」

「・・・・!」

「そんな事言ってられる状況じゃないってわかってるよね?そんなこと考えたって生き残れない!今は「生きる」そのことだけを考えるべきだよ!」

「ごめん」

「謝る必要なんかないよ。私が付き合わせちゃったことだし・・・本当にごめん」

そうだ。元はと言えば自分が付き合わせたことなのだ。この罪のない少年を巻き込んだのは自分だ。彼は許してくれるのか。くれないだろう。謝ってもどうにもならない。絵真はゆっくりと、気まずそうに壮のほうを見た。

壮はこちらを見据えていた。

はっきりと完全にこちらを見ていた。もう死体を見ているあのやりきれない目ではない。かといって絵真の不甲斐なさに憤っているわけでもない。しっかりとした、明確な意思を持つ目だった。

「・・・生き残ろう」

「ごめん」とは言えなかった。ただ「うん」と頷くことしかできなかった。


十、7月21日午後3時18分 ひるがお市・霞町・駅前


二人はあの場から離れることにした。お互い体はボロボロだったが、相手に自分たちの位置を把握させたくなかったし、人ごみに紛れ込むことができれば、敵が裏の人間である以上手出しはできない。

「これ大丈夫なのかな?」

「私は大丈夫だと思うけど・・」

自分の口を切ってその血が袖にたれた程度の絵真はよかったのだが、完全に血まみれだった壮は一番被害の少ない三人目の黒服が来ていた服を拝借したのだが、サイズが完全に大きすぎる。テレビでよく見るSPのような体格をした黒服の持ち物だったので仕方がないのだがが、制服買いたての中学一年生よりもさらにぶかぶかでとても歩きにくい。

「家に戻らない?替えがあるし」

「家に手榴弾投げ込まれても知らないよ。それでもいいならどうぞ」

「・・・遠慮しておきます」

二人が歩いているのはひるがお市の大通り、夏休みということもあって人通りは多くが学。知り合いに会わないか心配だが、まずは生き残ることを考えなくてはならない。二人の歩む一歩一歩には何かしら緊張が含まれていた。

壮は通りの真ん中、ちょうど大きな商社ビルのあるあたりにそびえたつ巨大なディスプレーをながめていた。ニュース番組が流れていて、お隣のあさがお市で、テロリストが音響兵器を使って街を襲撃したというニュースが流れていた。この音響兵器というのも実は何かの能力者の力で、その人も自分たちと同じような境遇なのかもしれないな、と考えているとニュースが切れる。真っ暗になった画面から声が響いた。

「この地域にテロリストが潜伏しています。市民の皆さんは速やかに避難してください」

その数秒後、人々はパニックに陥る。散り散りになってその場から逃げまどう人、恐怖でその場にうずくまる人、彼らは確実に恐怖している。ただ、彼らはその真相を知らない。身元の分からない者から追われるのは恐怖だ。助かる方法が見えない。だからこそ人々はアナウンスで消えた「避難」という言葉にすがるしかない。その光景は一種の暴動のようだった。

「相手は裏の組織だから表の人間の力は借りれないんじゃなかったの?」

「んー、市民を避難させたところで竜巻でも起こして街もろとも私たちを殺すって腹じゃないかな?」

「それは、穏やかじゃないな・・・」

二人は立ち止まって逃げまどう人々を眺めている。もう少しで戦いが始まるのだが、不思議と心は落ち着いていた。人間、意思が固まると強いのかもしれない。

「君たち何しているんだ!!はやく逃げろ」

快いおじさんが話しかけてくれたが無視する。しかしこのお節介なおっさんは引き下がらない。血走った眼で壮たちの説得を試みている。

「早くしろ!テロリストが来るんだ!」

「あ、大丈夫です」

「大丈夫じゃない!君たちが死んだらお父さんもお母さんも悲しむだろ!」

壮は必死に応対してみるがどうもうまくいかない。ここは逃げるふりをして適当にまくのがいいのだろうが、このおっさんのお節介ぶりを見る限り家まで送ってきそうなので適当に応対しなければならない。正直こっちは死を覚悟していたのにこういう何も知らない人がすべてを知っているかのように自分たちをぐいぐい引っ張っていこうとすると調子が狂う。

「早く!早くしないとテロリストが来るって言ってるだろ!?」

「あ、あの、その、なんていうか、その」

「なんだ、はやくしなさい!」

「僕達がそのテロリストなんですけど・・」

「いいだろ別に」という感じにサインをそれとなく送る。絵真はそんなことには動じない。というか彼女はもう銃を取り出して安全装置を引いているところだった。こんな不用心なテロリストほかにいないと思う。

「・・何バカなこといってるんだ。君もそんな玩具はしまいなさい!」

「つかさ君・・・撃っていいかな?」

「ダメに決まってるだろ」

「もういい!引きずってでも連れていくぞ、うわ、なんだ!?」

その瞬間街に強い風が吹く。おっさんが後ろを向くと、遠くの方で黒い点が飛びまわっている。その中の一つがこちらまで急速に近づいてきて、地面に落ちる。それは、死体。まるで御伽噺おとぎばなしのようだった。しかも、風は強くなり、それは「恐怖」が急速に近づいてくることを意味している。

「つかさ君!!」

絵真は壮の腕を掴んで巨大ディスプレイの近くにある商社ビルに駆け込む。ビルの中にはまだ人がいて、何事もないように仕事をしていた。

「避難命令が聞こえてなかったのかな?」

「そんなことは今どうでもいい!」

そう言って絵真は受付のカウンターのようになった所に飛び込む、壮もそれに続いた。

「伏せて!!」

そう言い終わるか終らないかのところでガラスの砕け散る音がしてすさまじい風が轟音と共に吹き込んでくる。絵真は壮を張り倒してその上に乗っかるように覆いかぶさった。壮がびっくりして手を彼女の背中にまわしたため丁度、抱きあうような格好になった。

数十秒後、静かになったところで二人は起きあがる。

辺りは地獄絵図だった。

突然の事に対応しきれなかった会社員たちがそこら中で倒れている。ガラスの破片が体中に突き刺さって血を流している。頭を打ったのか、死んだように動かない。あるいは死んだのかもしれない。

「大丈夫ですか!?」

「つかさ君!」

近寄ろうとした壮を絵真が制す。

「今は松岡ぶっ飛ばすのが先でしょ!?」

「でも、このひと死んじゃうよ!?」

「あなたにその人を助ける力はないんでしょ?さっさとあいつを倒して医療機関がここに入れるようにするのが先決だよ!」

「で、でも・・」

「勘違いしないで、私は薄情者じゃない。これが最善と判断したからやってるの」

「わ、わかった。でさ、松岡本人はどこにいるの?」

「知らない」

「えー・・・」

「ま、大丈夫だよ。私ものすごく運がいいから適当にうろうろしてればきっと会うって」

「(本当は無茶苦茶なこと言ってるはずなんだけど「能力」だからなぁ)分かった、じゃあ行こう」

二人は、倒れる人を飛び越えてビルを出る。外にはもう人はいなかったが吹き飛んだもう人ではない姿態がそこらじゅうに転がっている。

「ひどい、ここまでやるのか・・・」

「この事件全部、私たちのせいになるから」

「・・・そうなんだ」

許せないとか可哀想とかそんなことを考えている段階ではない。生きなくてはならない。絶対に。絶対に。拳を強く握った。向こうのほうから歩いてくる人がいる。二人はそれがだれか知っていた。壮は唇をかみしめる。

「結構早く見つかったね」

「うん・・・」

歩いてくるのは一人の黒服、黒いフレームのメガネ、やせ細った体。

「ほう?生きていたか。残念だったなぁ・・・もう楽に死ぬなんて甘いことぁむりだなぁ?え?オイ?」

不気味な笑顔、人が何人死のうが自分には無関係だという高笑い、それは自信な驚異的な「力」に裏づけされてた。松岡洋右は手を軽く上げる。大気がうねりをあげそこに集中しているのが分かった。

「行くよ、つかさ君」

「わかってる」

壮は銃を取り出し、安全装置を外し、引き金に手をかけた。

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