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1-2 「対 瞬間移動能力者」

七、7月21日午後1時37分 ひるがお市・路地裏


絵真と黒服は10mほどの間隔をあけたまま睨みあっていた。絵真は銃を構えたままだが黒服は丸腰。

「(と、なると、こちらをナメてる=銃を持っていないと思っている、は確定。適当に間合いを詰めて殴りかかってくるつもりだろう。笹村さんが躊躇しなければ銃一発でイチコロ。問題は何の能力者かってことだけど・・・)」

壮は工事の材料が積まれたところに隠れてその間から笹村の戦いを眺めていた。右手には鉄パイプ、左手には150cmほどの鉄板が握られている。一人の少女に戦いを任せるのは心もとないが、今、自分が飛び出しても何の役にも立たない。それよりも今自分のすべきことは後続の黒服に戦いを邪魔させないことだ。1対1でも心配なのに、それが2対1になったらかなり絶望的だ。それだけは避けたい。だから物陰に隠れて不意打ちの機会をうかがっているのだが、ほかの黒服達の来る気配が一向にない。ただし、

銃弾なら来ている。

壮は鉄板でそれを防ぐ。弾が来る直前に独特の風切り音がするので簡単にわかった。幸い鉄板は二枚重ねしてあったし、一枚目は貫通しても二枚目でなんとか食い止められた。

松岡が気流を操って弾丸の軌道ををねじ曲げているのだろう。しかし、弾丸が笹村の方へ行かないということは不可視部分へ弾を誘導することに関して精密さがそこまでなく、黒服に当たる危険を避けるためにこちらにばかり発砲してくるのだろう。

「(さすがにそこまでだったらピストル一本で世界の誰でも暗殺できるもんな、とりあえずこっちは大丈夫だろう。笹村さん大丈夫かな?)」

壮は絵真のほうを見たがさっきと全く変わっていない。非常にまずい。他の黒服が応援に来たらアウトだ。自分が備えているとはいえ手持ちは鉄パイプ一本だ。敵は銃を持っているしもっと強力な武器を使ってくるかもしれない。だから黒服にとってこの妙な間合いはラッキー、そもそも向こうは絵真の拳銃に銃弾が入っていると思ってはいないだろうが、念には念を、どうせただ待っているだけで勝てるのだ。圧倒的有利。

「(どうする?どうする?どうする?)」

そう思っていると絵真はホルスターから素早く銃を取り出し銃の引き金を引いた。取り出すのが早すぎてまたもや水色の何かがおもいっきり見えたがその直後風切り音が来たので一瞬しか見えなかった。銃弾は眼で捉えられないスピードで黒服のほうへ向かって言ったが、銃が到達するころには、そこに黒服の姿はなかった。

「消えた!?」

と絵真が感じて数秒もかからず眼の前に黒服が現れた。「銃を構えよう」という思考が働いたころには地面に叩きつけられていた。慌てて受け身をとった少女の目の前には体格のいい黒服が立っていた。慌てて銃を撃ったが黒服はまたもや消えて、気付くとさっきと同じ場所にいた。

「ほう?銃を持っていたんだな」

瞬間移動能力者テレポーター?」

笹村絵真は動じない。ただこの男を倒すことだけに全神経を張り巡らせていた。

「そうだ」

「(喋った!?)・・・さっき札束移動させたのもあなたってこと?」

「そういうことだ」

くだらない質問をしている間に絵真は策謀を張り巡らせる。相手は瞬間移動能力者、札束を動かせたことから物質・人間を問わず。いや、そうしたら二人が逃げたときに能力を使って瞬時に自分達を追えばよかったのだから自分を含め人間(質量の大きなものかもしれない)は動かせないか、もしくは特殊な手筈が必要。と、なると乱発できるものじゃないはずだ。少しずつ攻めていけば銃を使って倒せる。とは思うのだが、残る銃は9発、松岡に3発使う勘定で行くともう1発も使えない。勿論そんなことも言っていられないが、今後のことを考えると銃を乱発することはできない。

「(慎重にならないと・・・)」

銃を構える。男はそこに突っ立ったままだ。とりあえず彼をどうやって倒すかだ。

そもそもテレポーターというのは1対1での戦いではAランクを凌駕するほどの実力を持つ能力者のハズだ。驚異的な移動能力、これで回避と移動をいっぺんにこなせる。そして、他の能力とは全く違う攻撃方法、彼らは物質を特定の座標に移動させることができる。例えばそこに転がっている鉄くぎを人の頭の中に移動させたとする。すると鉄くぎは脳を押しのけてそこに出現する、結果的には脳を破壊することになる。という防御不能の攻撃方法。この二つがあればほとんどの人間を倒すことができる。それこそただ運のいいだけの自分など瞬殺されていいはずだ。なのに、それをしてこない。ということは・・・

「(能力の発動に限定条件がある。それも1つじゃない)」

まずそれを発見することだ。いくら相手が大男だといってもこちらは拳銃を持っているのだ一発ぶち抜けば致命傷。弱点を発見すれば勝てない相手ではない。

「つかさ君!銃撃止まった?」

壮は相変わらず材料置き場の影に隠れていたが、絵真の位置姿から見えるし銃弾が通る余裕もありそうなので隠れている意味は実質なかった。

「多分、止まったよ!」

依然として後続が来ないか心配している少年のけなげな様子に少し感動した絵真だったがそんなことはどうだっていい。

「(ということは既に松岡はビルから移動して、最悪こっちに向かっているってこと・・・早く決着つけなきゃ)・・・つかさ君!鉄パイプ1本・・・いや2本貸して!」

「了解!」

壮は積み上げてある鉄パイプを二つとって絵真のほうへ転がす。絵真は銃をホルスターにしまって鉄パイプを手に取る。

「ふっふっふ、鉄パイプ二刀流」

「それでどうする気だ」

黒服は胸ポケットから銃を取り出していた。安全装置を引いてそのまま発砲する。しかし銃弾は鉄パイプに当たって軌道をそらし路地裏の壁に当たって砕け散った。絵真は不敵な笑みを浮かべている。黒服は少しびっくりした様子だ。

「銃?やめといた方がいいと思う。私には当たらないよ」

「な、何の能力だ!?」

「運」

話にならないと思ったのだろうか黒服はもう一度発砲したがやはり鉄パイプに当たってあらぬ方向へ反射した。絶妙な角度で当たったのか、鉄パイプは少しへこんだ程度でまったく影響がない。

「だからぁ、その距離からの銃は効かないの、いい加減気付いたら?」

「なら、・・・実際に殴ればいいだけだ」

男は消える。すると間もなく絵真の目の前に現れる。いや、厳密にはさっきまで絵真のいた位置の前、だ。現在の絵真はその真後ろにいた。

「ビンゴだね。あなたの能力には消えてから現れるまでに多少のタイムラグがあった。消えてから現れる座標を決めるのか、現れる座標を決めてから消えるのか良くわかんなかったけど、たぶん私に後ろとられたってことはおそらく後者。どう、あってる?」

「分かったからなんだって言うんだ?能力を使わなきゃいい話だ。」

「今、私の手には銃が握られている。」

絵真は手に持った金属の塊の先端を黒服の背中に押し付ける。銃なんかではない。ただの鉄パイプだ。しかし絵真の真後ろの黒服にはそれが見えない。

「!・・・いや、嘘だな。さっきまで鉄パイプ握ってたのに俺の背後に回って音もなく鉄パイプを下し、銃を構えるなんて芸当は不可能だ。」

「でもそれを証明する証拠は足りない。なぜならあなたは今、私を見ていない。そしてもし、私の言っていることが事実だった場合、あなたは死ぬ。」

「チッ」

「どうするのぉ?死にたくなかったら能力使えば?」

「・・・調子に乗るなよ!」

黒服が消える。「別に銃なんか構えてなかったのに」絵真はにやりと笑い持っていた鉄パイプを真横に移動させた。少々のタイムラグを置いて彼は絵真の真横に現れる。そして絵真は、一瞬のタイムラグの間に持っていた鉄パイプを黒服の出現する位置に移動させていた。黒服と鉄パイプ、二つの位置が重なっている。つまり、

黒服の肩が鉄パイプに貫かれていた。

「うぐっ・・・」

悲痛な声を漏らす黒服の肩に生えた鉄パイプを絵真は躊躇せずに引き抜き、もう一方の鉄パイプで黒服の胴を思い切り殴った。黒服は痛みでのたうち回る。

「これで一人は片付けた・・・」

絵真は乱れた息を整える

「どうやって俺の出現位置を割り出した?」

黒服は肩のあたりを抑えてヘタり込んでいる。傷口からは赤黒い液体が流れ出ていた。

「ああ、私ものすごく運がいいんだよ。つかさ君、行こ」

「・・・ああ、はい」

さっきまでの壮絶な戦いを茫然と眺めていた壮は、はっと我に返り、小走りで絵馬の横にたどり着く。二人は歩きだした。

「やっと一人、残り四人だよ」

「流石だよ・・・この調子で生き残ろう」

「甘い、あいつはたぶんD~Eランク、話にならない」

「そうか・・・でも頑張ろ!」

「うん」

壮が絵真の息が整うのを待って歩いている後ろで「待て!」という声がした。やられた黒服だ。傷口を抑えながら何とか立ち上がっていた。サングラスは割れている。

「まだ終わっちゃいない!」

「しつこいなぁ、何度やっても同じだよ。私さっき「運」って言ったけどある程度までは計算できてたんだからね。あなたの能力は「止まっていて・近い場所にある・見えている」物を、指定した「見えている」座標に少し時間をおいて移動させる」っていう、限定条件だらけのザコ能力。きっとあの状況なら、「私の目の前に反転して」現れるか「角度的に一番遠い範囲」、人間の視覚は約210度だからちょうど私の真横あたり、に移動する。2分の1の確率で私は後者を選んだ結果、当たったってだけ。自分の手の内がバレてちゃ勝てるものも勝てないよ」

壮は「あの状況でそこまで計算していたのか」と感心している。が、黒服は笑みを浮かべていた。

「何?やるの?」

「なあ、お前らが運んでくるはずだった「麻薬」って何のことかわかるか?」

「いきなり何?」

「ああ、しらねぇようだから教えとくよ。あれは厳密には麻薬じゃあない。」

「そんなこと知ってるよ」

「みんなそこまでは知ってる。だったら何なのかわかるか?」

「・・・知らない」

「だろうなぁ、一部の人間しか知らない」

「そんなこと今は関係ないでしょ?・・・これ以上抵抗すると撃つよ?」

絵真は銃を構えた。なおも黒服は続ける。

Etherエーテルって代物だ。麻薬って言ったら白い粉を創造しそうだがこれは液体・・・ほら」

黒服は服の内ポケットをガサゴソやって手のひらに収まる程度の小瓶を取り出す。中には青白く輝く液体が入っていた。何からできているのか想像もできない。

「なんだかしらねぇが、これを飲むとよォ、能力者は能力が強化されるんだ。俺の場合、ざっと2ランク分、2ランク分、俺の能力は進化するんだ。お前が言ったとおり俺のランクはE、能力は限定条件だらけのザコだ。でも2ランクも上がったらどうなると思う?」

「ありえない」

「わかってんだろ?おまえの目の前で起こっていることはすべて事実だ。」

男は小瓶の蓋を取り、中に入った青白い液体をすべて飲み干して、息をついた。

「ま、信じなくてもいいさ、これから実際に起こることだ」

銃声。絵真の構えた銃からだった。しかし銃弾の通過した点にはもう既に黒服はいない

「おいおい、いきなりかよ。さすがに驚いたぜ、え?」

後ろから声が聞こえ、振り返ると黒服がいた。黒服は傷口を破ったシャツで巻いて止血している。どうしてたった1,2秒のタイムラグでそんな動作に移れるんだ?と壮はびっくりしたが絵真が「つかさ君、下がってて、」と言ったのでまた物陰に隠れる。

止血を終えた黒服はサングラスを外して不気味の微笑む。

「ま、賢い選択だな。能力を発動する前に息の根を止める。とっても賢い作戦だったが、失敗しちまったなぁ」

絵真は銃を構える。腕が細かく震えていて、明らかに力が入っているのがわかった

「さぁて、これからが本番だ・・・」

黒服は消えた。


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