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第七話 出社しただけで拍手される男

翌朝。

王都冒険者ギルド。

朝八時五十分。

俺はいつものように出勤した。

エマがいる。

リリアもいる。

ギルドマスターもいる。

珍しくガルドもいる。


「おはようございます」

「おはようございます!」


平和だった。

だが九時ちょうど。


ギィィィ……

扉が開いた。


全員が固まる。

誰も動かない。

空気が止まる。

俺も振り向いた。

そこにいたのは――


レオンだった。

「おはよう」


静まり返るギルド。

レオンも困惑している。

「……なんだ?」


次の瞬間。

パチ。

誰かが拍手した。

パチパチ。

パチパチパチパチ。

大拍手。

スタンディングオベーション。

「おおおおお!」

「レオンが来たぞ!」

「生きてたのか!」

「三年ぶりだ!」

「奇跡だ!」


レオンが一歩下がった。

「怖い」


王国最強が怯えていた。


十分後、レオンは受付前で座っていた。

居心地が悪そうだ。

エマは泣いている。

「レオンさん……」


「なんだ」


「本当に来てくれたんですね」


「うるさい」


「感動です」


「うるさい」

照れている。

完全に照れている。

見た目とのギャップが激しい。


その時、ガルドが近づいてきた。


「レオン」


「なんだ」


「会議だ」


レオンが嫌そうな顔をする。

「帰る」


「座れ」


「嫌だ」


「十分で終わる」


「本当か?」


「勇者が言うなら」

俺を見る。

俺は頷いた。


「十分だ」

レオンは座った。

王都最強、チョロかった。


会議開始。

俺は前に立つ。

参加者百五十八名。

先週より増えている。


「今日は新制度の説明だ」


ざわつく冒険者たち。

嫌な予感がしている顔だ。

その予感は当たっている。

俺は黒板を出した。


ドン。


【冒険者評価制度】


「評価ぁ!?」

「なんだそれ!」

「学校か!」


前世でも聞いた。

会社でも同じ反応だった。

俺は説明する。

「頑張った人が得をする制度だ」


静かになる。

「今までは違った」


「どういうことだ?」

ガルドが聞く。


「サボった奴も」


「うむ」


「頑張った奴も」


「うむ」


「同じ扱いだった」


「たしかに」

みんな頷く。


俺は黒板に書く。

【評価項目】

依頼達成率

報告提出率

後輩育成

協力実績

以上。


「シンプルだろ」


「たしかに」


「わかりやすい」


意外と好評だった。

だが一人だけ不機嫌な男がいた。

レオンだ。


「どうした」


「後輩育成」


「うん」


「無理だ」

即答だった。


「なぜ?」


「人と話したくない」


会場が爆笑した。

レオンは真面目だった。

本気で言っている。

俺は頭を抱えた。

「お前それでよく生きてこれたな」


「強いからな」


万能回答。


会議終了後。

エマが駆け寄ってきた。

「勇者様!」


「なんだ」


「見てください!」


掲示板を指差す。

依頼受注数。

先週三十二件、今週七十八件。

倍以上。


「増えたな」


「みんなやる気になってます!」


なるほど。

人間は単純だ。

評価されると動く。

前世もそうだった。

問題は評価されないことだった。

その時、ギルドの扉が開いた。


バン!勢いよく兵士が飛び込んできた。

顔色が悪い。

息も切れている。

嫌な予感がした。

こういう時は大体ロクな話じゃない。


「大変です!」


「どうした」

ギルドマスターが聞く。


兵士は叫んだ。

「北の森にオークの大群が!」


ざわっ。

空気が変わる。

冒険者たちの顔が引き締まる。


「数は!?」


「約三百!」


ギルドが騒然となった。

三百。

小規模な軍隊だ。

放置すれば村が滅ぶ。

ガルドが立ち上がる。

「行くぞ!」


「待て」

俺は止めた。


「なぜだ!」


「情報不足だ」


ガルドが固まる。

冒険者たちも固まる。

また始まった。

そんな顔だった。


俺は聞く。

「三百は確認したのか?」


「目撃情報です」


「どこから?」


「村人です」


「戦闘経験は?」


「ありません」


「つまり推測だな」


兵士が黙る。

俺は続ける。

「進行方向は?」


「不明」


「指揮官は?」


「不明」


「補給は?」


「不明」


「目的は?」


「不明」


沈黙。

俺はため息をついた。

「それで突撃する気だったのか」


ガルドたちが目を逸らした。

図星らしい。

その時だった。

レオンが立ち上がる。

全員が見る。

王国最強、災厄のレオン。

彼は静かに言った。

「勇者」


「なんだ」


「偵察なら俺が行く」


全員が驚いた。

レオンが自分から動く。

初めてだった。


「一人で?」


「十分で戻る」


どこかで聞いた台詞だった。

俺は笑った。

「頼んだ」


レオンは頷く。

そして窓から飛び出した。

ドガァァァン!

壁が少し壊れた。


「出口使え!」

もう見えなかった。


レオンが消えた後。

ギルドは静まり返っていた。

そしてギルドマスターがぽつりと言う。

「変わったな」


「誰が?」


「レオンだ」


たしかに。

少し前までなら。

「面倒だ」

で終わっていた。

だが今は違う。

報告しようとしている。

組織の一員として動こうとしている。

それは小さな変化だった。


だが組織が変わる時は、いつも小さな変化から始まる。

そして誰も知らない。


十分後。

レオンが持ち帰る情報が、王国を揺るがす大事件の始まりになることを。

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