我々は魔王を探している~異世界転移者の唯一の欠点
おまえを○○にしてやる、と急に言われても困るし、言われないともっと困りますよね
我々は魔王を探している。
剣士ユミナ、魔法使いチョーコ、神官イネス、そして俺。
女ばかりのパーティーに俺が合流したのは約1年前のこと。
当初はぎこちなかったが今ではすっかり打ち解けて、まあ、3人とは良い関係を築けてる。
出会いの場であった魔の森を抜けるまでの死闘の数々、それからの魔王を探す長い旅。
吊り橋効果じゃないが苦楽をともにしていれば情も湧くって奴だな。
で、色々あって良好な関係にはなっても、なんというか、一歩踏み込めていない。
三股自体は別に問題ないらしい。互いが了承してさえいれば一夫多妻も一妻多夫もあり得るとか。
この世界、階級社会だからな。
貴族がいて、平民がいて、奴隷階級もいる。
階級社会だと家を保つのが重要で、そのために子供は沢山いるわけで、一夫一妻じゃ限度がある。ロマンもへったくれも無い現実的な問題があるから一夫多妻があるわけだ。
家を継ぐ者、その子になにかあったときの予備、他家との政略のために送り出す子供。
家が大きければ大きいほど、子供は数がいる。
人権とか人の尊厳とか、かなり緩い。
人が死ぬのが日常の世界じゃ、それに合わせて増やさないといけないしな。
だから権力者、有力者の一夫多妻は普通にある。逆に一妻多夫は余りない。駄目なのではなく、必要性の問題だな。
そんな世界だから俺が3人のうちの誰を選ぼうと、また3人ともを選んだとしても問題にはならない。
ただ俺たちには魔王を探し出し、可能ならば討つ、という役目がある。
正確には俺はオマケだけどな。
俺はただの異世界人。
……。
日本が懐かしかよ。
なんでこんなところに来たんだか。
理由も原因もさっぱり分からない。向こうでトラックに撥ねられた覚えも、過労で寝込んだ記憶もない。
普通に寝て、起きたら森の中だった。
それにこちらで赤ん坊として生まれ落ちたわけじゃないから、寝てる間に死んだ、とかでも無さそうだ。
次元の間に落ちたか、この世界の神様にピックアップされたか。
目覚める前に神様に会った記憶はないから、ヘッドハントされたってわけではなさそうだし、神様の手違いでうっかり死んじゃった、というわけでも無い、と思う。
寝間着で寝てたのに、気付いたら素っ裸だった。
この気持ち、分かって貰えるだろうか?
夜、普通に部屋のベッドで眠ったのに、朝起きたら見知らぬ森の中で裸族になっていた。
一体どういうことだ、と戸惑っていたら、剣を持ったおっさんたちに囲まれた。
おっさん、と言っても実際は俺と大差なかった。
ただ髭を生やしてたから俺より老けて見えただけで。
そのおっさんが俺に剣を突きつけてなにか厳しい口調で言い、後ろに魔法使いと騎士風の男がいた。
明らかに敵対的で、おっさんの眼は殺意に満ちていた。
その後のことは、余り思い出したくない。
襲われ、気付いたら3人分の肉塊が転がっていた。
恐かった。
自分がやったことだと思いたくなかった。
そりゃ、命を守るために仕方のないことだった。あいつらが襲って来なければあんなことにはならなかった。
それでも、できればやりたくなかった。
その後、川で血を洗い流していたときにユミナたちに出会った。
「なんかね、偉い占い師さんが魔王がこの森に現れるって予言をしたんだよね。
それで、名の通った冒険者たちに魔王捜索と可能なら討伐の命令がギルド本部から出たわけ。
いくつかの国の連名での依頼だって」とユミナ。
「滅多にないことだけれど、主要5カ国が協力して魔王討伐を決めたの」
そう言ってチョーコがかいつまんで歴史を教えてくれた。
歴史上、魔王を名乗る者は度々現れて世界に大きな被害をもたらして来た。
だからまだ魔王が力を付ける前に見つけて、悪即斬、しようという方針で国家間の意見が固まったとか。
「国内であれば、それぞれの国が軍を差し向けることもできます。
けれど、そうでない場所、ここ魔の森もそうですが、どこの領土でもない場所となると下手に軍を動かすのは揉める元になってしまいます」
イネスは嘆かわしい、と首を横に振った。
どっかの国の領土なら、その国が責任を持てば良い。
けどそうでない土地に国が軍を送ると、近隣国から要らん疑いを持たれたりするから、表向き無所属の冒険者ギルドの面々の出番となる。
明確に魔王の存在が確認されたなら国同士で話し合って軍の編成、となるらしい。
最初っから国際チームを組織する、ってことはできないっぽいな。信頼が足らないのかもしれない。
魔王という脅威があっても、国同士が互いに出し抜こうとする姿勢を崩さないとか、闇が深いな。
「ギルドは国を跨ぐ組織ですから、特定の国の肩は持たない原則なんです。
そのギルドのトップクラスのパーティーやクランが魔の森に入ったんです」
ユミナたちは一応トップクラス。
ただ、今回動いた冒険者たちの中では下位の方だということだ。
下位でもさ、まだ二十歳にならない若い娘たちが実力者ってだけで十分凄いと思う。
「危険な相手なんだろ?」
「魔王ですから。ただ、現在の魔王がどれだけの力を持っているかは不明です。まだ軍勢は持っていないでしょうが、単騎でも危険ではあります。
ですから、探索が主目的で可能なら討伐、なんです」
イネスは俺の疑問に丁寧に答えてくれた。
魔王の存在を確認するのが最重要。殺れそうなら殺っちゃえ、という話らしい。
「纏まって動いた方が良くないか?」
探索、捜索にしろ討伐にしろ、バラバラよりそっちの方が効率がいいし安全性も高いだろうに。
「冒険者同士というのは敵じゃありませんが仲間というのとも違います。同業者、競争相手ですからね。同じ標的の討伐依頼を受けた場合は早い者勝ちなんです。
もちろん、脅威度が予めはっきりしていれば最初から共闘する場合もあります。けれど今回は魔王がどれほどのものか分からないですし、腕自慢が多いですから」
つまりは、自分たちだけで大丈夫、というパーティーだらけだから協力体制なんて取れない、というわけだ。
自分たちだけで仕留められたら報酬は丸儲け。けど、どこかと手を組めば分け前が減る。
相手の強さがはっきりしない状況で、いきなり報酬が減る算段はやりにくいってことか。
念のために共闘態勢を整えました。魔王、思ったよりクソ雑魚でした。でも、報酬は山分けです、じゃ損だからな。
腕っ節で食って行こうというのが冒険者、それも討伐任務を好む連中。
そんな連中だから保険を掛ける、なんて気にはならないんだろう。
それから俺は3人と行動をともにするようになった。
自分でもどうして森に来たか分からない。自分の家にいたのに、知らぬ場所で目覚めた。そういう話を3人は信じてくれた。嘘じゃないから信じて貰えないと困るけどな。
彼女たちに会う前に見知らぬ男たちに襲われたことや、そいつらを殺したことは黙っていた。
後から知ったことだが、あの男たちは冒険者、それも一番の呼び声高い連中だったらしい。
だとすれば、いきなり襲って来た理由は察しが付く。
けど、あいつらの言葉は分からなかった。だから話し合えなかった。なのに、ユミナたちの言葉は分かる。いや、ユミナたちと出会って以降は会話も読み書きも困ったことがない。
まあ、言葉が通じたところであの男たちと交渉できたとは思えないけどな。取り敢えず、殺しちまえ、って勢いだったから。
あいつらは行方不明という扱いになってる。
魔の森は、危険な場所だからそんな物騒な呼び名がついてるわけで、そこで人が消えても誰も怪しまない。
そして、魔の森での魔王捜索は不発に終わった。
「ステータス」
火の番をしながら小声で呟くと、俺の前にゲームなんぞで見慣れたステータスウインドウが表れる。
ウインドの向こうの焚き火が透けて見えるのは仕様だろう。視界を完全に遮られない反面、ちょっと見にくい。
この世界の住人たちはステータスに管理されてる?
そんなことはない。これが出るのも見えるのも俺だけ。
俺に与えられた(誰からか知らんが)チート能力の1つ。
俺自身だけじゃなく、他人のステータスも見える。
この数値が正しいとするなら、そこらの人と俺の数値を比べたとき、エグいほどの差がある。
ま、実戦というのは数値だけで決まるものじゃないから参考値だけどな。それでも油断さえしなけりゃ、そうそう負けることは無さそうだ。
この1年で俺は戦い方を学んだし、野営のやり方も教わった。
冒険者としてやっていける最低限の知識と経験はものにした、と思う。
今じゃユミナたちの足を引っ張ることもなく、戦力として数に入ってる。
最初は酷いもんだったからな。
大変だったよ、ホント。
いくらステータス上でいい数値でも、生き物殺すとか、刃物振り回すとか、慣れるまでが大変だった。
ユミナたちと行き会わなかったらどうなってたか。
見ず知らずの俺に親身になって色々教えてくれた彼女たちにはいくら感謝してもしきれない。
今だって、俺を信頼して良く寝てる。
そろそろ、次の段階に行くべきだとは思う。
流されるだけじゃなく、自分で意識して彼女たちを引っ張れるぐらいにならないと。
これまで、何度か予言を受けて魔王を探して4人で旅をした。
一度として魔王は見つかっていない。
予言者も、魔王の予言に関しては信頼を失いつつあるとか。ただ、他の予言は当ててるから失業ってことはないらしい。
実際は、一度も外していないことを俺は知ってるけどな。
西の山、東の竜の谷、暗い沼地、屍の廃都
予言者はそれらの場所に魔王が現れると言い、俺たちは魔王を求めてそこへ行った。
魔王は見つからなかったが魔王は居た。予言者の予言通りに、そこに来ていた。
ユミナが身を起こして伸びをする。
「交代にはまだ早いぞ」
夜の火の番は交代制。
俺の次がユミナ。
「そっか。でもいいよ、少し話でもしよ」
俺の隣に来てちょこんと座る。
剣士だけあって力は強いけど、筋肉だらけってことはない。
赤茶けた髪をポニーテールにしてる。
チョーコたちに言わせると、前よりずっと身嗜みに気を遣うようになってるらしい。
俺のためにそうしてくれている、と思うのは自惚れか?
もしそうなら非常に嬉しい。
「今回も無駄足かなあ」
魔王が現れると予言された場所に行くのはこれで何度目か。
「かもな」
「まあ、調査だけでも報酬は出るから赤字はないけど、なんで魔王がいないんだろ」
いやいや、居るんだよ。
「あれ、倒さないとまずいんだろ?」
「そそそそ。魔王がいるだけで魔物や魔族の活動が活発になるんだって。魔王が強くなればそれに比例して眷属も力を持つらしいから、早くやっつけないといけないのに。
なんで見つからないかな」
「こう言ったらあれだけど、ユミナたちとこうして旅してるのも悪くないけどな」
「いや、そうなんだけどさ。この仕事が終わらないと、落ち着けないから」
言いながら猫のように身を擦り寄せて来る。
ユミナは時々猫になる。
いや、比喩だ。猫獣人とかではない。そういう人もいるけど。
魔王の問題が解決しないと各国も冒険者たちも休めない。
休めないと、ユミナたちとのことも話を進められない。
ううん、そろそろ限界なんだけどな。色々と。
「なんで魔王いないんだろ」
居るよ。
この世界の人間は魔王を恐れてる。恐れてるから弱いうちに仕留めておきたい。
でも、魔王を探知する方法はない。予言者が大まかなことを言うだけで、はっきりとしたことは分からない。
魔王の姿も伝わってるのが何通りもあって、どれがそうなのか分からない。
巨人なのか、翼を生やしているのか、角があるのか、腕が6本なのか。
要するに、魔王が出ると予言された場所に行って、怪しい奴をとっ捕まえるか、やっちまおうっていう乱暴な話だ。
「いっそ、冒険者を辞めたら?」
ユミナはきょとんとして、
「考えたことなかった。そりゃいつかは引退するけど、今は駄目だよ。魔王は人類の敵なんだから、始末してからでないと。
その、家庭を持ってもさ、いつ魔王が攻めて来るか分からないと安心して子供も産めないし」
ユミナはそっぽを向いてしまった。
耳まで真っ赤にしてる。
誰の子供、と聞くのはやめておこう。意地悪したいわけじゃない。
確かユミナが一番若くて17だったかな。
この世界じゃ、一般的な女性なら結婚して子供がいてもおかしくない年齢だ。
ユミナたちも良い相手さえいれば、と考えては居たそうだ。
冒険者だと良い男との出会いが少ないとか。同業者は大体が暑苦しい連中で、そういう対象には見れない、というのはユミナたちの好みの問題だろう。
聞いた話だと、冒険者は冒険者とくっつくことが多い。
まあ、戦斧振り翳して魔物狩ってるような女性はあんまり妻として求められていない。
荒々しい女性を許容するのは、やっぱり荒々しい仕事をしてる男が多いんだろう。
俺は気にしないけどな。
俺は女性の扱いが特に上手いというわけじゃない。フェミニストってわけでもない。
ただ、俺の常識的行動がこの世界の女性にはとても紳士的で女性に優しい、と映るようで、ユミナたちが俺を気に入ってくれたのもそこだ。
普通のことをしてるつもりなんだけどな。
理由はどうあれ、折角の良好な関係を壊したくない。
元の世界に戻る方法も分からないのだから、ユミナたちと別れてしまうと正直心細いし寂しい。
どうせ帰れないのなら、彼女たちと家庭を持ちたい、というのが今の希望だ。
いや、帰れたとしてもこっちのがいいかな。別に良い思い出のある世界でもなかった。こちらでユミナたちと居る方が毎日充実してる。
だから、なんとしても隠し続けないといけない。
ステータスのクラスの欄に表示されている2文字については。
クラス:魔王
異世界でチート能力を持って、可愛い子たちに囲まれて。
……クラス以外は完璧なんだけどなあ。
ううん、些細で重大な問題
これはただの勘だけれど、今後も魔王は見つからないんじゃないだろうか




