表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔王と花嫁の宇宙旅行

作者: 名無しの魔王

 これは、日本で暮らす魔王とその花嫁の毎年恒例の旅行の話。

 魔王と花嫁は夕暮れ時、今晩のご飯の材料を買いに近所のスーパーへと歩いていた。


魔王:「我が妻よ。今度の旅行の行き先だが、宇宙旅行はどうだ?」

花嫁:「宇宙?呼吸はどうするのよ?」

魔王:「案ずるな、我が妻よ。俺は魔王だぞ。宇宙で呼吸する方法などいくらでもある。」

花嫁:「ならいいわね~。宇宙にしましょうか。」


魔王:「よし!ならば宇宙旅行のためにいろいろ買わなくてはな。」

花嫁:「買うって、何買うのよ?宇宙旅行なら日帰りでしょ?宇宙食?」


魔王:「無論食べ物は買うがな。最初に買うべきものは地球の手土産だ。この間テレビでやっていたが、どうやら宇宙人は実在するらしいぞ。だから、手土産を渡し交流すれば、宇宙船とか面白いものをプレゼントしてくれる(強奪できる)かもしれんぞ。」


花嫁:「……あなた、本気で言ってるの? テレビの特番を信じて、宇宙人に手土産だなんて。しかも交流とか言いながら、最後はプレゼントを強奪と読んだでしょう?やってることがただの銀河系ヤクザじゃない!!」


魔王:「いいか、我が妻よ。交渉で大事なのは相手に選ばせることだ。そして、こちらからはそれを理由に、欲しいものを引き出すのだ。つまり、宇宙人に土産を選ばせて渡し、その後それを理由にこちらの欲しいものを要求する。断れば力ずくで奪う。……これが魔王流の『オハナシ』というものだ。クハハハハ。」


花嫁:「呆れた。……まあいいわよ。どうせなら、宇宙人達に『これが地球の美学よ!』って叩きつけてやりたいしね。手土産なら、一流どころの和菓子とか、最高級の織物、あとはハイテクなおもちゃとかかしら?」


 花嫁はツッコミを入れながらも、魔王の突拍子もない「遊び心」に、愛しさを感じ付き合うことにした。


魔王:「?そんないいものを渡すつもりだったのか?俺はスーパーで売ってるスナック菓子で十分だと思っていたが。」

花嫁:「嘘でしょ!?そんなもので宇宙船要求しようとしてたの!?」


魔王:「何を言う。あの完成された美味しさ……。あれは地球の叡智の結晶だぞ。未知の知性体が、あの旨さに目が眩まんことを祈るばかりだがな。あれを渡しておけば、宇宙船をうb……もらうことなど造作もない。もしかしたら、スナック菓子に感動して涙を流しながら、母星を差し出してくるかもしれん。夢が広がるな。」


花嫁:「隠せてないわよ。あなた今,奪うって言おうとしたわよね。それにその涙は確実に感動の涙ではないわね。」


 魔王たちがそんな話をしながら住宅街を歩いていると、スーパーへとたどり着いた。花嫁が本日の特売コーナーを物色していると、土産を探してくると離れていた魔王が帰ってきた。


花嫁:「……ちょっと、まさか本当にスナック菓子渡す気!? 宇宙への手土産が、袋菓子一つって、あなたの魔王としてのプライドはどうなってんのよ。…あーもう、分かったわよ! せめて私が宇宙人が好きそうなのを選んであげるから!」


 そう言って、花嫁はお菓子コーナーへと向かっていく。自信のあった一品を否定された魔王は肩を落とし、花嫁の後をついていくのだった。


 旅行当日、住宅街の朝の喧騒を遥か眼下に臨みながら、魔王と花嫁は重力を置き去りにして天へと昇った。魔王の放つ圧倒的な魔力は成層圏を容易く突破し、二人の周囲には、音も空気もないはずの宇宙空間に、地上よりも清浄な空気の繭が展開された。


 宇宙へと足を踏み入れた二人の前に、突如として銀色に輝く巨大な円盤――正真正銘のUFOがその姿を現した。


魔王:「まさか、本当に宇宙人がいるとは思わなかったぞ。」

花嫁:「え!?信じてなかったの!?」

魔王:「む?お前まさか本気で信じていたのか?意外とメルヘンチックなのだな。」

花嫁:「あ、あなたねぇ〜」


魔王:「とにかく、買ってきた土産が無駄にならずに済んだな。だが、どこから入れば良いのだ?出入り口など見当たらんしな。」

花嫁:「えっ?入るの?」

魔王:「無論だ。直接会わねば土産も渡せん。仕方あるまい、船の壁に穴を開けて入るしかないか。」

花嫁:「ちょっ・・・」


 花嫁の制止が間に合うはずもなく、魔王は魔力を込めた一撃で、未知の合金で造られた船体を無造作にぶち抜いた。警報が鳴り響く艦内へ、二人は平然と足を踏み入れる。


魔王:「ふむ。これが宇宙船の中か。実物を見ると感動するな。」

花嫁:「ちょっと、何してるのよ。絶対怒られるわよ。」

魔王:「む?みろ、我が妻よ。何か、叫びながら近づいてくる生物がいるぞ。あれが宇宙人か?俺たちと出会えたことを喜んでいるのだろう。」


宇宙人A:「@@&Q’#&$%’#&`」

宇宙人B:「#%‘%$$&%#%(%&#’#)」

宇宙人C&D「#“$‘%#&%#$#’%$$%”&#‘%」


花嫁:「絶対違うと思うわ。」

魔王:「なんだ、あいつら。ビームを打ってきたぞ。俺たちが何をしたというんだ。危ないじゃないか。俺たちは友好的存在だぞ。」

花嫁:「当たり前でしょ。壁壊してるのよ。敵対者以外の何者でもないわ。」


 花嫁は白けた目をしながら魔王へとツッコんだ。


魔王:「おい、やめろ。宇宙人ども。俺たちは敵じゃない。お前達と会話をしにきたのだ。銃を捨てて話し合おう。」

花嫁:「な、なんて説得力がないの。」

宇宙人E&F&G&H「%&#$#&%#%$“%$#&”&%“$$”%$“%&$%&」


魔王:「我が妻よ、どうやらこいつら日本語が通じないようだ。仕方あるまい。この下からも生物の気配がある。下には日本語がわかる個体がいることを信じて、下に降りよう。」

花嫁:「下に降りようたってどうやって?って、あなたまさか!」

魔王:「無論。ぶち抜く。」


 最短距離を突き進む魔王は、足を踏み抜くことにより、床に穴を開けて階下へと強引に移動した。数多の隔壁を破壊し、辿り着いた先は、無数の光が明滅する操縦室のような部屋でした。


魔王:「ここは操縦室か?SFで見たような部屋だな。」

宇宙人司令官:「オマエタチカ。ワレラガフネニ、シンニュウシタトイウ、フトドキモノワ。」

魔王:「お前日本語が喋れるのか。やっと意思疎通できる者に会えたぞ。」


宇宙人司令官:「コタエロ、チキュウジン。オマエタチハ、ナニヲシニキタ。アメリカセイフヤ、ニホンセイフカラハ、シシャガクルナド、キイテナイゾ。」


魔王:「俺たちの間には誤解がある。まず俺たちは侵入などしていないし、お前達の敵じゃない。そして政府の使者などではない。」

花嫁:「しらじらしいわ、あなた。」


宇宙人司令官:「デハ、オマエタチハダレデナニヲシニキタ。」

魔王:「俺たちは地球から宇宙に来た旅行客だ。大気圏を抜けたら本物の宇宙船がいたから遊びに来ただけだ。」


宇宙人司令官:「アソビニキタダト?フザケテイルノカ?アソビニキタモノガ、カベヲコワシテ、ハイルモノカ。ワレラハダマサレナイゾ。シンニュウシャメ。」


花嫁:「正論だわ。」

魔王:「嘘じゃない!こうして手土産も持ってきた。」


 魔王は悠々とスーパーの袋を取り出した。そこには先日、夕ご飯のついでに「交渉の切り札」として花嫁により厳選されたちょっとお高めのポテチが入っていた。


魔王:「これはうまいぞ。俺達が誠意を込めて一生懸命選んだ品だ。」

花嫁:「あなた、嘘はよくないわ。達じゃなくて私ね。と言うか、あなた相手に選ばせることが大事とか言って一種類しか買ってないじゃない。」


魔王:「……さあ、受け取れ。地球の、そして日本の企業戦士たちの血と汗と涙が生み出した最高傑作だ。」

花嫁:「誤魔化したわね。」


 魔王は宇宙人司令官にポテチを手渡した。


宇宙人司令官:「コノポテチトヤラハ、ズイブントリョウガ、スクナイノダナ。ソレホドキチョウナシナ、トイウコトダナ。」


魔王:「あぁ、世知辛い世の中だ。最近の日本では気づいたら量が減ってるなど、よくあることだ。世間ではそのことを企業努力と呼んでいるぞ。」


宇宙人司令官:「ソウナノカ。ソレハタイヘンダナ。ソレデ、コレハドノクライノ、カチガアルノダ?」

魔王:「お前達、日本円というものは知っているか?わが国の通貨なのだが。」


宇宙人司令官:「ムロンダ。ワレラハ二ホンセイフトモ、トリヒキヲシテイル。カベヲコワシテマデ、ワタソウトシタモノダ。サイテイデモ、100オクハコエテイルノダロウ?」


 宇宙人司令官の期待に反して、花嫁は隣でとても気まずそうな顔をしていました。


魔王:「500円だ。」

宇宙人司令官:「スマナイ。キキマチガエタヨウダ。500オクエント、イッタノカ?ソレトモ、500チョウエントイッタノカ?」

魔王:「いや、500円だ。」


 一瞬の静寂の後、宇宙人司令官は怒りに震え、受け取ったポテチを床に叩きつけた。


宇宙人司令官:「500エンダト!?ソンナモノヲワタスタメニ、ワレワレノフネノカベヤ、ユカヲコワシタノカ!?」

魔王:「?そうだが?友好の品を渡しにくるのは当然だろう。」

宇宙人司令官:「フザケルナ!!モウイイ、テキタイノイシガアルカナイカナド、ドウデモイイ。ワレラハオマエタチヲ、テキトミナス。ミナノモノ、ヤツヲウチコロセ。」


魔王:「我が親愛なる友人諸君に、我が国が誇る熱き魂を持つ者の格言を教えてやろう.そいつは国にいるかいないかで気温が変わると噂されているほど熱い男でな。そいつ曰く『壁は壊して進むべし』らしい。」

花嫁:「いや、それは物理的な壁じゃないでしょう。」


魔王:「ならこれはどうだ?地球のとある宗教の三日で生き返っちゃう系の神の子のありがた~~~いお言葉だ。『汝隣人を愛せ、そのためなら壁の二、三枚気にするな』だ。良いこと言うよな~」

花嫁:「合ってるの前半だけだし、脈絡がなさすぎるわよ。」


魔王:「むぅ、我が妻は文句が多いな。ならこれはどうだ。これはとある魔王の言葉なのだがな。『壁の二、三枚いいじゃない。魔王だもの。』。」

花嫁:「とある魔王ってあなたのことじゃない。後半はパクリだし。」

魔王:「ええぃ!!ならこんどこs」


宇宙人司令官:「ウルサイ。イツマデクダラナイコトヲ、イッテルツモリダ。ソレニ、オマエガコワシタカベハ、2、3マイデハナク、18マイダ。」

花嫁:「ま、待って。誤解なの。私達には本当に敵対の意思なんかないの!!ほら、あなたも早く謝って。」


魔王:「ふむ。そうだな、宇宙人達よ、俺はお前達に言いたいことがある。」

宇宙人司令官:「マタクダラナイコトヲ、イウツモリカ!?」


 魔王は、床に投げ捨てられたポテチを指さしながら言った。


魔王:「お前達、俺達の土産を受け取ったよな?今地面に落ちてるけど。」

花嫁:「あ、あなたまさか!」

宇宙人司令官:「ダカラナンダ!!?」

魔王:「友好の品に何かよこせ。この船でいいぞ。」

宇宙人司令官:「!!!!コロセ!!!!!ナニガナンデモヤツヲコロセ!!」


魔王:「クッ、俺の善意は伝わらなかった。俺たちは戦う運命にあるのか!?」

花嫁:「あんなこと言ったら当たり前でしょ!?怒らせてどうするのよ!?」

魔王:「まぁ仕方あるまい。気は乗らないが、やるしかないか。」


 魔王はそう吐き捨てると、次の瞬間には影のように動き、放たれた光線ごと宇宙人の兵士たちを瞬殺。圧倒的な暴力の前に、宇宙船の乗組員たちは一瞬にして戦意を喪失し、床にへたりこんだ。


宇宙人司令官:「スミマセンデシタ。コレモ、アゲマス。ダカラカエッテクダサイ。」


 ボコボコにされた宇宙人司令官は、涙ながらに謎の高度なテクノロジー製品を差し出した。


魔王:「む、いいのか。悪いな。宇宙船に続いてこんな良さげなものまで。お前達はなんていう星から来たんだ?」

宇宙人司令官:「!?ボセイハ、ボセイダケハ、カンベンシテクダサイ。ホカノモノハ、ゼンブアゲマスノデ。カエッテクダサイ。」


魔王:「いやいや、そんな悪いぞ。言ったろ、俺達は遊びに来た友好者だと。だが、お前達がそこまで言うのなら貰っておこう。で、お前達はなんていう星から来たんだ。」

宇宙人司令官:「ホ、ホントウニ、ボセイハ、カンベンシテクダサイ。アゲラレルモノハアゲマシタ。カエッテクダサイ。オネガイシマス。」


魔王:「おいおい。それじゃあ、俺たちがまるで悪者の強盗みたいじゃないか。俺たちは友達だろ?」

花嫁:「今のあなた、みたいじゃなくてほんとうにただの強盗よ。」

魔王:「なぁ、この船どうやって動かすんだ。動かし方のわからないものをもらっても困るんだが。」

宇宙人司令官:「エ!?コレハアゲラレマセンガ!?」


魔王:「宇宙人は冗談がうまいのだな。俺は最初にコレをくれと言って、お前達はなんでもあげると言ったじゃないか。ほら、早く教えてくれ。できればお前達の母星への行き方も教えてくれ。」

宇宙人司令官:「カ、カンベンシテクダサイ。オネガイシマス。ワレワレガデキルコトハ、ナンデモシマスノデ。ボセイダケハナニトゾ。」


 泣き叫ぶ宇宙人達をよそに、魔王は満足そうに花嫁を振り返った。


魔王:「見ろ、我が妻よ。俺の言った通り感動し、涙を流しながら俺にお返しをくれたぞ。」

花嫁:「私の言った通り、感動じゃなくて、恐怖で泣いてるのよ。それより、あなた。流石に可哀想になってきたのだけど。もう、帰らない?」

魔王:「む?もう飽きたのか。そうだな。もらえそうなものももらったし、帰るとするか。それによくよく考えたら、宇宙船なぞもらっても維持が大変そうだし、使い道がないな。」

花嫁:「そう思うなら、最初からねだらないでちょうだい。」


 花嫁の言葉を聞いた宇宙人達は、まるで地獄に仏、救世の天使が現れたかのように花嫁へ感謝の視線を送る。花嫁は自分が火をつけて消火したような奇妙な罪悪感に襲われ、目を逸らした。


魔王:「じゃあ、俺らは帰るわ。今度はお前たちの母星で会おうな。」


 そう言い残し、魔王はまたしても壁に新しい大穴を開け、花嫁を連れて宇宙空間へと飛び出していった。背後で絶望に暮れる宇宙人たちを残し、二人の気ままな宇宙旅行は再開された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ