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緑の地球  作者: 陸うなぎ
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第1章【3】本当に行くのか?

「では、隊員各自一度帰宅してから22時にこの図書館の正面玄関に集合ね!もし暗証番号が分かったら今夜にでも外の世界を見ることが出来るなんて夢見たい!!遅刻はダメだからねー。」


はしゃぎながら先にスキップしながら帰ってしまうハル。



「ハル、ちょっと待てよ。」


2人きりにされたフールとメイスに少しの間沈黙が流れた。




「…なぁ、確認しておきたいんだけど。」


先に静寂を破ったのはフールだった。


「メイスは外の世界に行きたいか?昔と今は違っているかもしれないってハルの言い分も理解できるけど、ずっと危険って言われてる外の世界に今日話されて今夜行くかもしれないって…怖くないのか?」



「“かもしれない”じゃなくて、今夜確実に行きます。暗証番号を見つけるのは容易いですし、それに…僕もハルさんとは別の理由で外に確認したいことがあるんです。」


メイスの言葉に迷いや恐れはなかった。



「死ぬかもしれないんだ。怖くないのか!?……。」


自然と語尾が強まった。


フールはメイスに言葉を投げかけながら途中で気付いてしまった。



「このドーム内では僕は透明人間です。誰からも認知されず、居ても居なくてもいい存在…もし僕が死んでも親すら悲しまないでしょう。そんな僕が死ぬのが怖い?むしろ僕の存在を認めてくれているハルさんのお願いを叶えられて死ねるなら本望ですよ。」


その言葉にフールは心から落胆した。




最初は“メイスは気に食わないヤツだが、外の世界で危ない目にあわせるわけにはいかない”という正義感からの問いかけのはずだった。


しかし、途中からメイスに「行きたくない」と言って欲しかった自分がいた。その言葉を聞きたかったんだ。


年下のメイスに言わせて、ハルに外の世界に行くのを中止させたかった。


フールは自分の卑怯さに嫌気がさしてしまった。



「俺は…行きたくないんだよ。」


かっこ悪くてもせめて本音を言った。



「ふーん。なら…」


メイスは嬉々として煽ろうかと思ったが、フールの表情から気持ちを察してあえて言葉を閉ざした。



「別に行かなくてもいいんじゃないですか。というか行きたくないって思うのが普通です。このぬくぬくした環境の中にいるなら」



メイスは図書館を抜けた先に広がる、ユートピアみたいな景色を見渡した。


淡いパステルの半円形の住居が連なるドーム内。


道は整備されていて、移動も常に自動巡回の車が通っている。自動操縦なので、乗るだけだしもちろん無料だ。



空には人工太陽が輝いている。空はホログラムで青空に白い雲、夜は煌めく星と星座が投影されている。


美しい星空は、そのドームの外の荒廃した黒黒とした森を微塵も感じさせない。



平和なのだ。どこまでも平和で、人類にとっての理想郷である箱庭。


そこから出たくないと言う人間を誰か責められるんだろうか?



僕は⋯⋯。


メイスは微かに諦めのため息をついた。


誰も最初からそばにいない人生で、疎外されてて、このユートピアに染まりきれてない人間だった。



そして光の存在である、僕の絶対的な信頼を勝ち取ったハルさんと出会った。


だからこそ、ハルさんが言うなら何だって叶えてあげたい。


⋯⋯いや、本当は僕は居場所を見つけたいのかもしれない。



このドームの中には決して見つけられない僕が幸せになれる場所。



だから、フールさんがいくら躊躇っていたって行かないと言ったって、止めない。



ドームの外にある希望を信じたい。


何でもいいんだ。少しの手がかりでも欠片でも。


僕が僕でいい理由を見つけたいから。



「フールさんが本当に行きたくないなら止めませんよ。自由ですからね。でも僕は今夜行きますよ」



メイスは複雑そうな顔でこちらを暗く見つめるフールを一瞥すると、踵を返して家へと一旦帰宅したのだった。


21時58分 図書館正面玄関前


「2人ともまだかなぁ…遅刻はダメって言っておいたのに」ハルは一人、フールとメイスを待っていた。


(ちょっと待って…私、2人が「分かった」って言う前にルンルンで先に帰っちゃったけど、2人とも来なかったりしないよね?隊長命令なんだから大丈夫だよね!?)


誰も来ないという一抹の不安が頭に過ぎった。



「ハルさん、待たせましたか?」


自動巡回車から降りてきたメイスを見ると、ハルは一気に心細さから解放されて明るい笑顔に戻った。


「メイス、遅すぎ!」


「時計は22時、時間通りです。それよりフールさん来てないみたいですね」



「緊張しすぎてトイレかな〜?」ハルは意地悪に笑った。


「…フールさん来ないと思いま」


「絶対来るよ」


メイスの言葉を遮ってハルは言った。


ハルの真っ直ぐな眼差しと自信満々な笑顔はフールとの信頼関係を表しているようで、メイスは少しだけ悔しさを感じた。



「悪い、遅くなった」


フールが到着したのはそれから7分後だった。


「あー、遅刻魔だ!隊長命令違反者が来た!!」遅刻したことに怒るハル。


「…怖くて逃げたかと思ってましたよ」


メイスも煽った。



「買い物してたら遅れただけだよ。女友達とガキンチョだけで危険な外に行かせられないだろう」


「ハァ、、、ガキンチョ?僕のこと!?」


「はいはいはい、二人仲良く喧嘩しない!探検隊全員揃ったんだから、ますば暗証番号をササッと見つけちゃおう。隊長に続けー」


満天の星空のホログラムに照らされながら三人は保管庫に歩き出した。



保管庫の中は夜でもオートライトが点灯していて、まるで昼間のように明るかった。


夜の暗めなホログラムからいきなり明るいオートライトの明かりに照らされて、3人は眩しさに目を細めた。



「夜モードからここに来ると眩しいな」


フールはそう言うとハルを振り返る。



「目は大丈夫か?」



「うん…。でも、ここ私初めて来たかもなぁ」


ハルは目をまぶしさで瞬かせながら、保管庫の周りを興味深げに見回した。



「滅多なことじゃここには立ち入っちゃダメって言われてたしね!こんな風になってるんだねー!」



その言葉に、フールも周りをつられるように見回した。



全体的に白い壁に白い床、そのせいで眩しさに拍車がかかっているのもあると思った。



その奥にはデータが棚壁沿いに沢山並んでいて、フロア毎にモニターに音声で話しかけるか、文字を入力すれば必要な情報は簡単に得られるようになっていた。


それでも、このドーム内にいる人は、ここにある情報に興味を持とうとしない。


それはドームの中がどれだけ居心地がいいかの証明になっているようにも感じる。



「じゃ、僕はここでパスワードを探しますので、2人は入口で見張りをお願いします」



メイスは、保管庫の様子にも動じることなく即座に、部屋の中央へと向かった。


壁沿いにはデータが並べられていたが、保管庫の中央には、テーブルと椅子が4個並んでいて、そこにマイクロノートパソコンが4台置いてあった。


手のひらサイズのそれは、とても小さく、画面はホログラムで空中に出てくるタイプだ。



メイスは早速テーブルにあるマイクロノートパソコンを1台手に取ると、椅子に座って音声操作を開始した。



「スタート、セッティング···············」



2人はメイスが言う呪文のような言葉をポカンとして眺めていた。



「早く見張っててくださいよ、見つかったらどうするんです?」



メイスはハルには言わず、明らかにフールを軽く睨みながら言う。



「わ、わかったよ、そっちこそ、さっさとしろよ、ガキンチョ」



メイスって実は凄いやつなんだ、とあらためて感心していたことを悟られないように、フールは誤魔化すように野次を飛ばして、ハルと共に保管庫の入口へと戻ったのだった。



「ねぇねぇ、今夜外に行けちゃうのかな〜?」


好奇心を抑えられない様子のハル。


本人は真面目に見張り役に徹しているつもりで無駄に大きな動きで周りをキョロキョロしている。


「これで“暗証番号分かりませんでした”ってガキンチョが泣きついてきたら大笑いしてやる」



2人が見張り役を始めて1分も経たないうちにメイスは保管庫から出てきた。



「おいおい、まさかギブアップか?」フールの言葉を無視してメイスはハルに「2589」と伝えた。



「それが扉の暗証番号なの?」あまりに簡単に事が進みすぎてキョトンとした顔でハルが尋ねると、メイスは小さく頷いた。



「ガキンチョ、こんな短時間でどーやったんだよ!?」


「電子文献閲覧ページのロックを解除したら想定通りに“侵入者除去ウイルスのファイヤウォール”が起動しましたが、承認プログラムにハッキングして適正アクセスだと誤認させました。」


よく分からないことを説明されて再びキョトン顔になるハルだったが、“外に出られる”という事実が理解できると一気に歓声を上げた。



「メイス隊員、偉いっ!!」


ハルに褒めちぎられて頭を撫でられたメイスは顔を真っ赤にして固まってしまった。



「たった4桁だったんだな」フールはひとりごちた。


「避難用ですからね。緊急時にそんな長ったるい暗証番号ではないだろうなとは予測してました。僕的には4桁でも長い方だと思いますけどね」まだ顔が赤いメイスは冷静を装って言った。



「(いけ好かないヤツだけど…やっぱり凄いな、このガキンチョ)」フールは素直にそう思ってしまった。ふと気付くとニヤニヤしたハルに見られていることに気付いた。


「…なんだよ」


「いやぁ、別に〜。隊長の私としては隊員同士が仲良くなれそうで安心だなぁって思って」



「そんなわけないだろう」


「そんなわけないですよ」


昼間とは違い、今度は二人同時に声に出した。

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