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第七話 同窓会(5)

「お付き合いから?」


 純恋はきょとんとした顔で聞き返した。


「純恋、君の言った通りお付き合いから始めてお互いのことを知っていくのがいいと思う。下手に結婚して後悔するかもしれないから」

「私は後悔しないと思うけど・・・夏梅がそう言うなら、わかったわ」


 案外に純恋は素直に納得してくれた。


「じゃあ今日から私たち恋人だね」

「そう、なるのかな」


 俺はそっと目を逸らした。なんか恥ずかしかったからだ。


「それじゃ恋人になった記念で連絡先交換しよう」

「・・・え?」


 純恋はスマホを差し出した。俺はしばしぼーっと純恋のスマホを見下ろした。


「俺、昔と同じだから。その番号で連絡すればいいんだ」

「それが・・・実は・・・・・・ない」

「ん? なんだと」


 あまりにも声が小さくてちゃんと聞こえなかった。純恋はそっと顔を逸らしながら言った。


「実は夏梅の番号、持ってない」

「え、マジで?」


 純恋の言葉に、俺は目を見張った。


「なんで。昔、交換しただろ」

「いや、それが実は・・・前のを湖に落としちゃって」

「湖に落としちゃったと?」

「そう、大学二年生の際、友達と湖に行ってたんだけど、ついポケットから落としちゃって・・・へへ」


 純恋は照れそうに後頭部を掻きながら笑った。


「それで持っていた電話番号全部なくしちゃったわ。高校の友達はもちろん、ママとパパの番号まで全部」

「だから返事が来なかったのか」


  実はこの十年間、純恋と連絡が全く取れなかったわけではなかった。卒業してから最初の一年は連絡が取れた。しかしある日を起点に、純恋に連絡を送っても全然返事が来なかった。最初は忙しいのか、と思って別に気にしなかった。だが、何日は経っても連絡に返事が来なかったし、結局返事は今まで来なかった。


 俺のこと忘れたのか、と思ったが、そうじゃなかったんだ。ただ無くしただけだったか。


 事情を知ると、今まで心の隅にモヤモヤしていたのが解けたような気がした。


「え、でもアカウントで復旧できたんじゃない?」

「私ガラケーだったじゃん。アカウント持ってなかったわ」


 そういえば、純恋はガラケー使ってた。今はスマホに乗り換えたみたいんだが。


「その上番号も変えたせいで、みんなと連絡が取れなくなちゃった。もし私に連絡してたから、返事できなくて、ごめん」

「いいよ。別に待ってなかったし」

「それはちょっと傷つくね」


 純恋が口を尖らせた。


 口ではそう言ったが、実はちょっと・・・いや、すごく待ってた。スマホに通知が来る度、純恋からの連絡かワクワクしながら確認した。毎朝目を覚めると、真っ先に純恋からの返事は来てないのか確認した。もちろん、純恋からの連絡だったことはなかったけど。とにかく、純恋の返事を待ちつつ、俺は俺が純恋に抱いていた感情の正体に気づいた。


 俺が純恋のことが好きだったってことを。


 しかし、その感情はは時間の経過とともに薄くなっていった。連絡も待ち合わせもなかったし合わない時間が増えるほど、感情は薄くなり、大学を卒業した頃にはもう純恋への感情はなくなっていた。


 だからもう純恋に何の感情もないと思ったけど・・・。


 どうやらそれは俺の勘違いだったそうだ。心のどこかに残っていた感情が蘇って心を乱されていた。

 そんな中、突然純恋の声が聞こえてきた。


「夏梅? 何してるの。連絡先交換しようって」

「あ、わかった」


 ぼーっとしていた俺は、急いでスマホを取り出し純恋のスマホに近づけた。すると俺と純恋のスマホの画面にはお互いの連絡先が表示された。


「あ、できた」


 純恋は嬉しそうに微笑み、スマホをいじり始めた。


「よし、登録完了」


 純恋の言葉が終わるや否や、俺のスマホが振動した。画面の通知に、純恋と書かれていた。

 通知を押して内容を確認した。


 これは白い・・・猫?


 猫と推定される生き物の頭上に「こんにちは」の字と浮かんでいた。


「君、進化したね。昔は絵文字しか使えなかったのに。今はスタンプを使えるんだ」

「昔はガラケーだったからね。今はこういうのもできるんだよ」


 純恋がスマホをタップした。すると俺のスマホにまた通知が来た。今回も純恋からだった。

 内容は、さっきの猫みたいなやつが胸を張って「えっへん」していた。

 それを見てると、なんとなく笑みが出た。約十年を待ってた純恋からの連絡だったため、思わず笑顔になった。


「これからたくさんLINEするね。恋人だから」


 俺は答えの代わりに無言で首を縦に振った。「恋人」っていう単語がなんかくすぐったくて照れくさかった。そしてそれは純恋も同じなのか、頬を少し赤らめスマホで口を隠していた。

 そのため、俺と純恋の間には気まずい静寂が流れた。最初の時よりずっと気まずかった。


「みんなそろそろ時間だから、二次会行こうぜ」


 気まずい静寂の中、突然二次会にのお知らせが聞こえた。顔を向けると、見覚えのある男子がお店の入り口の前で大声で言っていた。

 俺と純恋はしばらく静かに見つめ合い、同時に席から立ち上がった。

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