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第五話 約束(2)

「結婚するって、俺と?」

「そう。夏梅と私と」


 純恋は俺を指さしそして自分を指さした。

 あまりにも突然すぎる純恋の発言に、俺は思考が止まってしまい、呆然となった。


 あ、死んだ


 沈黙の中、ゲーム機からゲームオーバーBGMが流れた。しかし、今ゲームの画面が目に入らなかった。全神経が純恋に注いでいたからだ。


 いきなり結婚なんて。こいつ、本気で言ってんのか。唐突に求婚をするんだと?


 今の状況に頭が追いつかなかった。混乱の中、純恋が口を開いた。


「何をそんなに慌てるんだわ。明日すぐ結婚しようってわけでもないのに」

「え、そうなの?」


 いきなり結婚しようと言われて、すぐ結婚しようってことかと思った。


「もうすぐ卒業って言っても私たち学生なんだから」


 そう言いながら、純恋がゲーム機を奪った。純恋の話を聞いていた俺は、ゲーム機を取られたことに全然気づかなかった。


「あと私たち大学に行ったら別々になるから、今すぐは無理だわ」


 それは確かにそう。結婚してからすぐ別々に暮らすには、ちょっとあれかも。


「じゃさっきのあれはやっぱ冗談ってわけか」

「いや」


 純恋が頭を振った。


「もし十年後にもお互いフリーで彼女や彼氏ができなかったら、その時は私たち結婚しちゃおう」


 純恋が身を乗り出して言った。


「どう? いいと思わない?」


 純恋が笑顔で俺の意思を問った。


「純恋、君はそんなに結婚したいのか」

「当たり前でしょ。逆に夏梅は結婚したくない?」

「俺? 考えたことない」

「じゃタイプは?」

「うーむ、俺がゲームしまくっても理解してくれる人?」

「うわー、すごく夏梅らしい返事」


 純恋は手で口隠しながらああ言った。


「逆に純恋、君はどうしてそんなに結婚したんだ」

「一人は寂しいから」


 純恋はなんの迷いもなく即答した。


「今は家族と一緒に暮らしてて大丈夫だけど、いつか独立して自炊する。そうなると、家に誰もいない。家に帰っても誰も迎えてくれない。そんなの寂しくて耐えられないわ」


 純恋が机をバンッと叩いた。


「そうかな。俺は一人でも別にいいと思うけど」

「夏梅はそうかもしれないけど、私は寂しい。家に帰ったら誰かが「おかえり」と迎えてほしいし。辛い時や悲しい時、そばにいてほしい。だから結婚したい。結婚して一緒に生きたい。あと、赤ちゃんも欲しいしぃ・・・」


 最後に純恋の声が小さくなった。恥ずかしいのか顔もちょっと赤くなっていた。純恋はゴホンと咳払いをして座り直した。


「ちょっと話が脇道に逸れたけど、本論に戻って。夏梅はどう? 十年後に結婚すること」

「俺はーー」


 俺は腕組みをし目を瞑ってじっと考え込んだ。


 十年後、か。

 まあ別にいいだろう。


「ーーわかった。十年後お互い独身だったら結婚しよう」

「本当?! じゃ約束だわ」


 純恋がパッと身を乗り出し、小指を差し出した。俺はじっと彼女の小指を見つめた。


 どうせこの約束を守る日は来ないだろう。

 多分、純恋も本気で言ってるわけじゃない。あと十年になる前に、俺も純恋もこの約束を忘れるだろうし。何より純恋なら十年という時間が過ぎる前に、きっと結婚できるに違いない。


 男たちが純恋みたいな美人をほっとくはずがない。多分数多くの男子だちが純恋に話しかけたり、告ったりするだろう。あと、もしその中で純恋のタイプな人が現れたら・・・


 あれ、なんか嫌だ。純恋のそばに俺の知らない男がいるなんて、なぜか心がモヤモヤして嫌な気がした。


 この気持ちは一体・・・


 この時の俺は純恋への想いに気づかなかった。


 いや、頭痛いからこれ以上深く考えるのはやめよう。とにかく今は、この約束を守れる日は絶対来ないことが一番大事だから。


 そう思って俺は純恋と指切った。


「本当に俺でいいのか。結婚相手が。もっといい人を探す方が」

「うん、夏梅でいい」


 純恋は食い気味で答えた。


「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲ぉむ。はい、これで約束」


 純恋が明るい笑顔を浮かべた。その笑顔を見てほんの一瞬だけ、この笑顔は毎日見たいと思った。

 お互いをじっと見つめ合い静寂が流れるところ、突然部室のドアが開かれた。


「先輩、やっほっす。・・・あれ? 何してんだっスか」

「い、いや。べべ別になにも」

「なにもしてなかった」


 後輩が入った途端、俺と純恋は慌てて手を離し、お互い背を向けて立った。


「そうっスか。フーム、高村先輩がゲームをしないなんて、珍しいっスね」

「ささっさっきまでしてた。ちょっと休むだけだから」

「そうっスか。なんか怪しいっスけど」


 後輩は「フーム」と息を漏らしながら、疑いの目で俺と純恋を見た。俺と純恋は、後輩から目を逸らして必死に言い逃れた。

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