第十三話 初デート(13)
三十ページほど読んだところ、夏梅が目を覚めた。純恋は本を閉じた。
「あ、起きた。夏梅体調はどう?」
「す・・・・・・みれ? どうして君がここに」
夏梅はかなり戸惑ったように聞いた。純恋は答えもせず、ただ微笑んで夏梅に手を伸ばした。
「ふむ、熱はずいぶん下がってるね。でも念の為そのまま寝てて」
純恋はタオルを取り替えた。
「あと、あんた朝から何も食べてないでしょ? お粥作っておいたから、今持ってくるわ。それ食べて薬飲めば良くなるわよ」
純恋はベッドからおもむろに立ち上がった。
「どうして、君が、うちに、いるんだ。水族館、は?」
「今水族館が重要なの。電話は繋がらないし、メッセージも既読つかないし。何事か家に来てみたら、あんたはリビングで倒れてて、本当驚いたのよ!」
純恋は振り向いて言った。
「で、純恋が、部屋、まで、運んで、くれ、たんだ」
「うん。あのままほっとくのは良くないから」
「あり、がとぉ」
「どういたしまして。それよりお粥食べて」
そして前もって机に置いたお粥を持ってベッドの横に戻った。
「ちょっと起きてみて。食べさせてあげるよ」
「いや、別に、いい、よ。一人で、食べ、れる」
「ダァメ。布団汚れるかもしれないから。私が食べさせてあげるよ」
純恋はスプーンを狙う夏梅の手を振り払った。そしてお粥を一口すくった。ちょっと冷めたけど、お粥からはまだ湯気が立ち上っていた。純恋は夏梅にスプーンを差し出した。
「よし。じゃ、あーんして」
夏梅は何も言わずにスプーンに口をつけた。恥ずかしいのかそれとも熱のせいか、顔が少し赤くなっていた。
「コホッ、何っこの、コホッコホッ」
「だ、大丈夫? 水、水飲んで」
お粥を口にした夏梅は急に咳をし始めた。純恋は慌てて水を差し出した。すると、夏梅はゴクゴクと飲んだ。すごい塩辛さが夏梅の舌を無慈悲に強打したのだ。
「ごめん、熱かった? 次はもっと注意するわ」
「いっ、いや、そうじゃなくて」
「もしかして味が変だった?」
「いや。美味しいよ。ちょっとむせちゃっただけだから」
自分のためにお粥まで作ってくれた人の前で「まずい」とはどうしても言えなかった。そのため、やむを得ずに嘘をつくしかなかった。
「本当? じゃまた食べさせてあげるね」
夏梅の言葉をそのまま信じた純恋は、嬉しげな笑みを浮かべながらお粥をすくった。
「じゃあーんして」
純恋はまたスプーンを差し出した。夏梅は一度深く深呼吸して目を固く閉じて、思いきって口に押し込んだ。言葉で言い表せない塩辛さが襲ってきた。けど、吐き出すわけにはいかないので、無理矢理に飲み込んだ。
「よく食べるね。じゃまたあーんして」
純恋は休む隙を与えずにまたスプーンを押し付けた。夏梅の瞳は激しく揺れていた。体はもう食べちゃダメだと叫んでいた。しかし今の夏梅には選択肢がなかった。
こうして夏梅はなんとなくお粥を食べ切った。純恋は空になった皿を机に置き、夏梅に薬を手渡した。
「お粥も食べ終わったから、薬飲んで」
「ありがとう」
夏梅はすぐ薬を飲んだ。そして水と一緒に飲み込んだ。
「じゃ薬飲んだらまた横になって。ぐっすり休むのが一番なんだから」
「・・・・・・うん」
夏梅は純恋の言う通りにベッドに仰向けになった。
「ってか帰らないのか」
「当たり前じゃん。患者を一人にするわけにはいけないから」
「なんか・・・ごめん」
「別に謝らなくてもいいわ。どうせこのあと予定もないから」
もし夏梅が元気だったら今頃水族館に到着して魚たちを見ているはずだった。
「ごめん、俺のせいで。あんなに楽しみにしてたのに」
「仕方ないでしょ。別に夏梅が悪いわけじゃないから、気にしないで。あと、時間はこれからたくさんあるから」
「でも君あんなにクジラ見たがってただろ。それが俺のせいで・・・」
「もーいいんだって。・・・そんなに悪いなら今後一緒にクジラ見に行ってよ」
純恋は小指を立てた。
「わかった。約束する」
夏目は手を伸ばして純恋と指切った。
「じゃあこれでその話は終わり。それより今日の私なんか変わったと思わない?」
「え、いきなり。ええと」
夏梅は純恋の顔をじっと見つめた。
「もしかしてメイクした?」
「おおー正解〜。すぐわかるんだわね」
純恋は一発で正解を当てた夏梅に拍手を送った。
「今日夏梅と水族館に行くって言ったら百愛ちゃんにしてもらったわ。どう、似合うかしら」
「・・・・・・似合う、と思う」
「本当? じゃあ学校に行く時もやってみるかな」
「それは、嫌だ」
「え、どうして」
「だって・・・・・・・他の奴らに見せたくないからぁ・・・」
「えっ、今なんて」
夏梅の言葉に、純恋は顔が赤くなり目を丸くした。
「ほ、ほほ、他の人に見せたくなちって、どういう意味なんだ」
「・・・・・・・」
夏梅から何の返事もなかった。よくみると、夏梅はぐっすり眠っていた。
「あ、あれほぼ告白じゃん」
顔が真っ赤になってしまった純恋は、両手を頬に当てた。目がぐるぐるして思考が止まってしまった。心臓が高鳴って落ち着かなかった。




