第十話 初デート(10)
放課後、百愛と純恋、この二人しかいない文芸部の部室。急に百愛はバンっと机を叩き身を乗り出した。
「デデデデデ、デートっすってええぇえ!? 高村先輩とぉ!!?」
「ちょっと百愛ちゃん声が大きいよ」
純恋は興奮した百愛を慌てて落ち着かせた。
「あと、デートじゃなくただ一緒に水族館に行くだけだから」
「それがデートっすって。じゃいよいよ明日告白するっすか」
「そそそそ、そんな、こ、告白なんて。ど、どうして私が夏梅に告白を」
「だって好きなんでしょ。高村先輩のこと」
「いっ、いや、違うぅ」
純恋は顔が真っ赤になった。本当わかりやすい反応に百愛はクスッと笑った。
「先輩、顔に出てますよ。あと、あれを知らないのは多分、高村先輩しかいねぇっすよ」
「そんなにバレバレなの。いやいや、私別に夏梅のこと好きじゃないんだって」
「はいはい、そういうことにしましょう」
最後までどぼける純恋の姿に、百愛はため息を吐き首を横に振った。
「そんなことより夏梅先輩と先輩が二人っきりでお出かけするのはこれが初めてじゃないっすか」
「多分、そうだと思う」
純恋は首を傾げながら答えた。その答えに、百愛はニヤリと笑った。
「それじゃ明日あたしがメークしてあげますね」
「いや、いいのよ。メークなんて恥ずかしいし、絶対に私に似合わないから」
「まあ確かに先輩はすっぴんでも十分可愛いからメークなんていらないかもっす。けど、初デートなんでしょ。せっかくだししてみましょよ。絶対可愛いっすよ」
「そう、かな」
「そうっすって。初デートだから可愛くしていきましょう」
「いっ、いや、だからデートじゃないんだって」
「今更そう言っても」
百愛はしらけた目で純恋を見据えた。純恋はそっと目を逸らしてぎこちなく笑った。その姿に、百愛が深いため息をついた。
「はぁ、とにかく明日あたしがメイクしてあげます」
「やっぱ恥ずかしい可愛くなって高村先輩を驚かせましょよ
「」
「・・・なら一度してみるかなぁ」
純恋は呟くように答えた。その答えに百愛はさらに目を輝かせた。
「じゃあ明日の朝、先輩んちに行きますっ」
そう言って百愛は鞄を肩にかけた。純恋はきょとんとした顔で聞いた。
「もう帰るの?」
「はいっ。今から準備しないとですから」
百愛は部室のドアを開きながら純恋に手を振った。百愛が部室を出ようとした瞬間、
「じゃあまたあ、うわあっ! びっくりした。もーいきなり現れたらびっくりしたじゃん」
「いや、ドアの前に立っていたお前が悪いんだろ」
ちょうど部室にきた智とぶつかってしまった。幸いに軽い衝突だったので、怪我した人はなかった。
「マジでお前ってやつは。今日は忙しいから見逃してやるよっ!」
「もう帰るのか」
智の問いに、百愛は答えず部室を出ていってしまった。智はきょとんした顔で純恋に顔を向けた。純恋は「私も知らない」と言わんばからに肩をすくめるだけだった。
そして翌日。百愛は本当に朝っぱらから純恋んちにやってきた。
「先輩、おはよっす」
「百愛、本当に来たんだね」
純恋は少し驚いた顔をした。だって、百愛も夏梅と同じく朝弱いから、多分口だけで来ないと思ったからだった。
「約束したから当たり前じゃないっすか」
「とりあえず上がって」
「はい、お邪魔します」
純恋はとりあえず百愛を家に招き入れた。百愛は純恋の両親に簡単に挨拶し、純恋の部屋に入った。百愛は手の箱を机の上に置いた。
「じゃあ早速始めましょっか。そろそろ眠いし」
「眠い? まさか百愛ちゃん徹夜したの?」
「いいえ、ちゃんと寝ましたよ。でも土曜日にこんな時間に目覚めるのは久々で」
百愛はあくびをした。
そういえば、百愛ちゃんは夏梅と同じく朝に弱いけどちょっと違かった。夏梅は夜更かしして朝に弱いのなら、百愛ちゃんはただの寝坊助だった。
「早くメイクして帰って寝たいんですから。早速始めましょ」
「うん。お願いする」
純恋は首を縦に振った。
流石にメイクはまだ恥ずかしかったけど、こんな時間に後輩が家までやってきたのに、断るわけにはいかなかった。
百愛は箱を開けた。箱の中にはメイク道具が入っていた。
「じゃ始めますよ。目を閉じてください」
「う、うん」
純恋は百愛の言う通りに目を閉じた。
それからどんなに時間が経ったんだろうか、ブラシを手に持った百愛は満足気な顔をした。
「もういいっすよ。目を開けても」
百愛の声に、純恋はおもむろに目を開けた。百愛が純恋の前で鏡を持ってやった。純恋は無言で鏡に映った自分の顔をぼーっと見つめた。
「どうっすか」
「なんというか。思ったより変わってないね」
「うっ、正直すぎッ」
純恋の正直が感想に百愛は矢に刺されたように胸を掴んだ。
「あ、ごごめん。そういう意味じゃなくて、可愛いよ。すっごく可愛い。けど、なんか思ったより印象が変わらないっていうか、いや、だからって嫌ってわけではないよ。我ながらも可愛いと思うから」
純恋は慌てて言い訳をし始めた。純恋を何も言わずにじっと見ていた百愛が口を開いた。
「まあそう思っても仕方ないっすよ。実はメイクを薄くしましたから。先輩、肌もいいし顔もいいから派手にする必要はないと思って簡単にやりました」
「そうなんだ。ありがとう」
「いいえ、いいえ。あたしが好きでやったことですから」
百愛は照れそうに後頭部を掻いた。そして
「じゃ、今日の告白頑張ってくださいね」
「うん。・・・ええぇ。ちょっと待って。ここ、告白? いや、私は告白するつもりなんて」
「今日してくださいよ。あたしが何のために朝っぱら先輩んちに来たと思うっすか」
「いや、来てくれたのはすごくありがたいけど、流石に告白は恥ずかしいよ」
「もうすぐ卒業でしょ。なのに卒業まで告白もできなかったら、絶対後悔しますから」
百愛はメイクに使った道具を片付けながら言った。
「ですから絶対今日告白する方がいいっすよ」
「そう、かな」
「絶対そうっすって」
百愛は箱の蓋を閉じて言った。そして箱を手に持って立ち上がった。
「では約束っすよ。今日告白することに」
「え、ちょっと待って。百愛ちゃん?!」
百愛は純恋の声を無視しながら部屋を出た。
「告白するのは流石に」
純恋は閉じたドアに向かってつぶやくように言った。
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