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第九話 初デート(9)

 どうして何の反応もないんだ。


 俺が何気なく「好き」って言ってから純恋から何の反応も答えもなかった。ただ少し驚いた表情でじっと俺を見つめるだけだった。


 なんか反応がないから、不安になる。


 先に好きって言われた方がこっちなんだが、告白の後のこの静寂は息苦しいという表現だけじゃ足りないくらい苦しかった。


「・・・・・・プッ、プハハハハァッ」


 ずっと黙っていた純恋は、突然笑い始めた。そのわけもわからない様子に、俺はぼーっと純恋のこと見つめた。


「あ、ごめんごめん。なんかバカらしくて」


 純恋は涙を拭いながら言った。


「そっか、夏梅も高校の時から私のことが好きだったんだね。こうなるとわかってたらもっと早く告白すればよかったなって思うとなんか自分のことがバカらしくて」


 純恋は体をブルブル震えながら必死に笑いを堪えた。やがて震えを抑え切れた純恋は顔を上げた。


「じゃあ、お互い同じ想いなんだから、結婚するか」

「ちょ、ちょっと。け、結婚はさすがに」

「フフッ、冗談だよ」


 純恋はくすくす笑った。そして純恋はこっちに一歩近づいた。急に純恋は俺を抱きしめた。突然の出来事に随分戸惑った。


「でもよかった。夏梅も私と同じ想いで」

「ちょっと何を」

「本当好きだよ。夏梅」


 胸の中から純恋の呟き声が伝わってきた。俺は何も言わずただ胸の中に抱きしめている純恋のことをそっと抱いた。周りの人からの視線が感じられたが、不思議にも全然気にならなかった。まるでここに俺たち二人っきりな気分だった。

 こうして抱きしめ合っていたところ、腹がグーっと鳴ってしまった。


 こ、この空気も読めないやつがっ。


 慌てていたところ、純恋はそっと見上げた。


「今の音は・・・」

「あ、そ、それが・・・はぁ、実は昨日の夕飯から何も食べてなくて・・・ごめん」

「えっ、お昼ご飯食べてなかった?」

「それが・・・うん。準備で忙しくて忘れちゃった」


 これは嘘をついても無駄だったので、正直に打ち明けた。純恋は少し怒ったように唇を尖らせた。


「もーお昼ご飯ちゃんと食べてきてって言ったじゃん」

「いやぁ、それが・・・ごめん」


 純恋になんて言われても弁解の余地がなかった。純恋はふぅっとため息を吐いた。


「もーしょうがないね。ちょっと早いけどご飯食べに行こう」


 そう言って純恋は水族館の出口の方へ足を運んだ。俺は急いで純恋の後についていった。


******


 ちょっと早い夕飯を食べた俺たちは、そろそろ帰るために駅へ向かっていた。


「本当に焼肉でよかった? 初デートならもっと雰囲気あるところがよかったと思うんだが」

「いいのよ。雰囲気あるところより美味しいものを食べるのがマシだから」


 純恋はニコニコと微笑んだ。


 まあ純恋がああ言うならいいか。


 俺だって初デートだからといって雰囲気あるところで食べるより、好きなものを食べるのがいいから。

 そう一人で考えていた途中、突然純恋が尋ねた。


「どころで今日どうだった?」

「ん? 何が」

「今日のデート、楽しかった?」


 答えを聞くのが怖いのか、純恋は目を逸らしていた。


「楽しかった。水族館初めてだったけど、結構いいところだった。今度三回くらいまた一緒に行こう」

「それは嬉しいけど。どうして三回なの」

「5500円の分、行かないといけないから」

「プッ、なにそれ。ウケる」


 純恋は俺の肩を叩きながら笑った。


「でもいいね。今度一緒に行こう。私も楽しかったから。十年前の約束二個も守れたし」

「ん? 二個?」


 俺は顔を傾げた。今確かに純恋は約束二個も守れたって言った。俺が覚えてるのは一緒にクジラを見に行くって約束しかないのに。俺が思い出せない約束がもう一個あるのか。


「純恋、その約束って何。俺が覚えてるのはクジラを見に行くってことしかないんだけど」

「ふむ、教えてやらない。そもそも夏梅との約束じゃないから」

「え、じゃ誰との約束なんだ」

「内緒だよ」


 純恋はニコッと微笑み、唇に指を当てた。


「そんなことよりさ、私たちいつ結婚するの」

「えっ、け、結婚?」

「うん。お互いの想いも確認したし、十年前の約束もあるから早くしないと」

「そ、それが」


 俺は戸惑ってなんと言えばいいかわからなかった。そんな俺をじっと見ていた純恋は、口を隠して笑った。


「昔から夏梅はマジでわかりやすい」


 急に笑い出す純恋の様子に俺はぼーっとした。そして純恋はくすくす笑いながら静かに言った。


「今すぐじゃなくてもいいわ。ゆっくりでいいのよ。もちろん私は明日すぐにでも結婚したいところだけど、結婚って私一人でするもんじゃないから。夏梅の心の準備ができたらその時言ってね。私はいつでもオッケーだわ」

「・・・わかった。ありがとう」


 俺は小さく頷いた。

 その後からしばらく歩くと、駅に着いた。純恋は微笑んで手を振った。


「じゃまたね。家に着いたら連絡して」

「うん」


 俺は小さく頷き駅の中に入った。

 こうして十年前の約束の初デートが終わりになった。

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