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第七話 初デート(7)

 今の状況に頭が追いつかなかった。なぜ俺がベッドの上にいるのか、おでこの濡れたタオルはなんなのか。理解できないことばかりだったが、その中でも一番理解できないのは、純恋がうちにいることだった。

 俺の部屋に入った純恋は、俺のおでこに手を当てた。


「ふむ、熱はずいぶん下がってるね。でも念の為そのまま寝てて」


 そう言いつつ純恋は新しいタオルを乗せてくれた。


「あと、あんた朝から何も食べてないでしょ? お粥作っておいたから、今持ってくるわ。それ食べて薬飲めば良くなるわよ」


 そう言って純恋はベッドからおもむろに立ち上がった。ぼーっとしていた俺は力を振り絞って口を開いた。


「どうして」


 純恋は立ち止まった。


「どうして、君が、うちに、いるんだ。水族館、は?」

「今水族館が重要なの。あんたが」


 純恋は振り向いて言った。


「電話は繋がらないし、メッセージも既読つかないし。何事か家に来てみたら、あんたはリビングで倒れてて、本当驚いたのよ!」


 やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。


「で、純恋が、部屋、まで、運んで、くれ、たんだ」

「うん。あのままほっとくのは良くないから」

「あり、がとぉ」

「どういたしまして。それよりお粥食べて」


 純恋は机から何か持ってベッドの横に座った。純恋の手にはトレーがあってその上にはお粥があった。


「ちょっと起きてみて。食べさせてあげるよ」

「いや、別に、いい、よ。一人で、食べ、れる」

「ダァメ。布団汚れるかもしれないから。私が食べさせてあげるよ」


 俺がスプーンを取ろうと手を伸ばしたが、純恋は自分がスプーンを持って渡さなかった。頭も痛いし純恋といざこざする体力もなかったので、俺は諦めて純恋の言われるままに従うことにした。

 純恋はお粥をすくった。お粥からホワホワと湯気が立っていた。純恋はフーフーと息を吹きかけた。


「よし。じゃ、あーんして」


 純恋はスプーンを差し出した。俺は何も言わずにスプーンに口をつけた。


「コホッ、何っこの、コホッコホッ」

「大丈夫? 水、水飲んで」


 純恋はコホコホと咳をする俺に、水を差し出した。俺は急いで水をゴクゴクと飲んだ。

 お粥が舌に当たった瞬間、びっくりしてむせちゃった。


 一体なんでお粥からこんな味が・・・。


 マジでパッと目の覚める味だった。確かに目に映るのは白い色のお粥なのに、塩辛すぎて舌が痺れるほどだった。水をどんだけ飲んでも口の中に塩辛い味が残っていた。


「ごめん、熱かった? 次はもっと注意するわ」

「いっ、いや、そうじゃなくて」

「もしかして味が変だった?」

「いや。美味しいよ。ちょっとむせちゃっただけだから」


 純恋の問いに、正直に言えなかった。


「本当? じゃまた食べさせてあげるね」


 純恋は嬉しそうにまたお粥をすくった。


 あれ、また食べないといけないんだ。


 俺は唾をゴクっと飲み込んだ。普通美味しいものを見ると、唾を飲み込むと言うんだが、今のは覚悟を決めるためだった。


「じゃあーんして」


 純恋はまたスプーンを差し出した。俺は怯えながらスプーンに口をつけた。


 うえっ。


 すごい勢いで襲ってくる塩辛さに体が震えた。塩辛さに口のあちこちがヒリヒリした。俺はこれを表に出さないために必死に表情を抑えた。


「よく食べるね。じゃまたあーんして」


 またスプーンが迫ってきた。俺は目をキュッと瞑ってまたお粥を口に入れた。


「なんか赤ちゃんみたい」


 いや、赤ちゃんだったら絶対死ぬよ、これ。


 と心の中で思いながら、お粥を飲み込んだ。

 しばらくしてやっとお粥を食べきった俺は、水ゴクゴクと飲んだ。


「お粥も食べ終わったから、薬飲んで」

「ありがとう」


 純恋は薬を手渡した。俺はそれを口に入れた。普通薬が舌に当たると、苦い味がするけど、純恋のお粥が舌を麻痺させたおかげで何の味も感じなかった。


 案外いいところがあるんだな。このお粥。


 いいところが一つでもあることに驚きながら、水で薬を飲んだ。


「じゃ薬飲んだらまた横になって。ぐっすり休むのが一番なんだから」

「・・・・・・うん」


 俺は純恋の言う通りベッドに横になった。純恋は小さなバックから本を取り出して読み始めた。


「ってか帰らないのか」

「当たり前じゃん。患者を一人にするわけにはいけないから」

「なんか・・・ごめん」

「別に謝らなくてもいいわ。どうせこのあと予定もないから」


 その予定って俺との水族館の約束だろう。なのに俺は風邪なんか引いちゃって。情けない。


「ごめん、俺のせいで。あんなに楽しみにしてたのに」

「仕方ないでしょ。別に夏梅が悪いわけじゃないから、気にしないで。あと、時間はこれからたくさんあるから」

「でも君あんなにクジラ見たがってただろ。それが俺のせいで・・・」

「もーいいんだって。・・・そんなに悪いなら今後一緒にクジラ見に行ってよ」


 純恋は小指を立てた。


「わかった。約束する」


 俺は頷きながら指切った。すると純恋はすごく明るい笑顔を浮かべた。


「じゃあこれでその話は終わり。それより今日の私なんか変わったと思わない?」

「え、いきなり。ええと」


 特にないと思うんだけど。

 俺は純恋の顔をじっと見つめた。


「もしかしてメイクした?」

「おおー正解〜。すぐわかるんだわね」


 純恋は微笑んで拍手を打った。そういや、初めて見た。純恋のメイクした顔。


「今日夏梅と水族館に行くって言ったら百愛ちゃんにしてもらったわ。どう、似合うかしら」

「・・・・・・似合う、と思う」


 あら、薬のせいでなんか眠くなってきた。頭が朦朧とした。瞼が重くて耐えられなかった。


「本当? じゃあ学校に行く時もやってみるかな」

「それは、嫌だ」

「え、どうして」

「だって・・・」


 俺の記憶はここまでだった。その後は寝落ちしてしまって全く記憶がない。

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