第五話 初デート(5)
それは約十年前。高校三年生の頃、寒い冬の日。部活の時だった
俺と純恋は部室でいつものようにそれぞれのやりたいことをしていた。
ゲームの最中、本を読んでいた純恋は本を置きながら深いため息をついた。
「最近さ、退屈なんだよね。受験も終わったし」
「そっか。俺は忙しいが」
「そりゃいつもゲームしてるからじゃん。私はもう読みたかった本全部読み切ってやることがないわ」
「じゃあ俺とゲームする? 最近面白いゲームを見つけてrpgだから一緒にできる」
「ふむ、それもいいけど・・・。あ、そうだ。水族館、水族館はどう?」
「水族館?」
俺はボタンを押しながら聞き返した。
「そう、前から一緒に行こうって話してたじゃん。今まで色々あって行けなったけど、受験が終わった今なら私たち時間多いでしょ。だからこの機会に一緒に行こうよ」
純恋は目をキラキラさせて誘ってきた。俺はゲームに目を固定したまま答えた。
「まあいいよ。いつ行くんだ」
「ええと、今週の土曜日はどう?」
「土曜日なら明後日か。まあいい」
「よーしっ、じゃ土曜日の十一時に会おう」
「十一時は早すぎ。二時に会うことにしよう」
「もーまたゲームで夜遅くまで寝ないつもりでしょ」
「それもあるけど、俺朝弱いから」
「確かにそれはそうだけど・・・ふむ、まあわかった。二時に会おう。私だって準備する時間は必要だから」
案外純恋は素直に頷いてくれた。こうして俺たちは水族館に行く約束をした。
「マジで楽しみだね。早く土曜日ならないかな」
「そう? 何か見たい魚でもいるんか」
「うん! 私クジラが見たいよ。前家族と行ったとき一度見たんだけど、マジですごかったわ。だからもう一度みたい」
「クジラ、か。そういや、俺はまだ見たことないな。っていうか水族館自体行ったことないけど」
「本当? じゃこの機会に一緒に見ようよ。夏梅の初めてのクジラ、私が付き合ってあげるわ」
純恋の声がいつもより高かった。どうやらウキウキしたようだった。
俺は何も言わず首を縦に振った。すると純恋は明るい笑顔を浮かべた。
「じゃ今週の土曜日二時。忘れるなよ。遅刻したら罰だから」
純恋は人差し指を立てて話した。俺はゲームに視線を固定したまま無言で頷いた。
そんな中、突然部室のドアが開いた。
「おはいようございます。先輩たち」
ショートヘアにメガネかけた男の子が部室に入ってきた。後輩である鈴木智だった。純恋は微笑んで彼に手を振った。
「いらっしゃい、鈴木くん。ってなにそのマスク」
「それがゲホッゲホッ、風邪引いちゃって」
鈴木はゲホゲホと咳をした。咳がなかなか止まらない様子からして、相当ひどい風邪のようだった。
「大丈夫? 体調悪いなら今日は部活を休む方が」
「いいえ、大丈夫です。それほどひどいわけではないんです。あとここが静かでいいです」
「ならいいけど。でも体調悪いならすぐ帰ってね。最近インフルエンザが流行ってるらしいから」
鈴木は何も言わず軽く頷き、いつものように俺の隣に座った。そして鞄から教科書と参考書を取り出し勉強をし始めた。
風邪なのにあんなに集中できるんだ。
咳をしながらも手からペンを離さない。驚異的な集中力だった。
余計に邪魔したら悪いから。
俺はゲームに目を向けた。純恋も同じ考えなのか、また本を読んでいた。こうして部室には静かな雰囲気が流れていた、が。ある少女の登場で静粛な雰囲気は一気に破れちゃった。
「おはよっス。先輩たち。え、なんだ智くんもいたんだ〜。おはっ」
元気いっぱいの声が部室の中に響き渡った。
金髪ロングストレートで赤い瞳。真っ白な肌と耳のピアス。萌え袖の制服を着たギャルっぽいな派手な女の子。この文芸部のもう一人の後輩である白鳥百愛だった。
「ってなにそのマスク、超ウケるけど。もしかして厨二病かよ」
「・・・・・・」
「へぇまた無視するの。ウチが言ってんのにさ」
白鳥は鈴木の背中でしつこく話しかけ続けていた。しかし鈴木は一斉無視しながら勉強に集中していた。
鈴木すごいな。あんな状態で勉強するなんて。
話しかけることだけじゃなく白鳥は、鈴木の後ろから完全にもたれかかっていた。なのに鈴木は一斉の動揺もなく勉強に集中していた。
「ウチにかまってよ、ねぇ。ここで雄一の同い年でしょ」
「邪魔。離れて」
「あ、やっとしゃべったぁ。勉強よりウチと遊ぼう」
「やだ」
「プハハハッ、つめてぇ」
白鳥は何がそんなに面白いのかケラケラと笑った。そんな中でも鈴木は参考書から目を離さなかった。
「もー邪魔するのは良くないわ。こっち来てね、百愛ちゃん」
「はいッ、純恋先輩」
白鳥は明るく返事し純恋の隣へ座った。そしてニヤニヤしながらスマホをいじり始めた。
「ね、智くん。これ見て見て。やばくない?」
「・・・・・・」
「もー超面白いから、マジで見てな!」
「・・・・・・興味ない」
スマホを突き出して「これ見ろ」ってわがままを言う白鳥と、それを無視して勉強する鈴木。もうこの状態にすっかり慣れてきて、ひたすらゲームをする俺と、平然と本を読む文芸部の部長純恋。これが、うちの文芸部の日常であった。
お読みいただきありがとうございます
もし面白かったらブックマークと評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)




