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第三話 初デート(3)

「うわあ、夏梅見て見て。めちゃ綺麗ぃ」


 純恋は水族館内に入ると、浮かれた子供みたいにすごくはしゃいでいた。流石に年パスを持ってる純恋は、熟練者らしくあっちこっち歩き回った。が、人生初の水族館だった俺は、入り口に突っ立っていた。


「っつか水族館って結構暗いんだ」


 人生初の水族館での最初の感想だった。

 内部の照明は暗いけど、不思議にも前を見て歩くには問題がなかった。あと、水槽の水に光が差し込んでいた。周りが暗いおかけで水槽の中の生き物が際立たせた。


「夏梅、早くこっち来て」


 純恋はずいぶん離れた場所でこっちに向かって大きく手を振っていた。


 いつの間にあっちまで行ったんだ。


 ちょっとぼーっとしていた間、純恋は次の水槽の前にいた。俺は深く息を吐き、純恋のところに向かった。


「このクラゲ光ってるよ。不思議でしょ」

「そうだね」


 微かに光を放つクラゲはどこか不思議だった。泳ぐ姿もなんかちょっと可愛く見えた。

 その他にも色んなクラゲと正式名称がわからない魚たちを見た。


「あ、次はあっち行ってみよう」


 『ニ◯を探して』で見た魚を見ていた途中、急に純恋は左側を指で示しながら言った。純恋の指が向いたところにはトンネル水槽があった。


「あそこは水の中で見るような景色で、もっとすごいんだよ」

「どうせ同じ水槽だろ。ここで見ても十分」

「いや、全然違うって。直接見ればわかるわ」


 純恋は俺の手を掴んでトンネル水槽の方へ向かった。


 ここと同じだと思うんだけど。


 と思うながらトンネルの中に入った。そして俺は今まで生きてきて初めて見る光景に目を見開いた。


「・・・すげぇ」


 驚きのあまり、感嘆の声が漏れた。


「どう? 外で見るのと全然違うでしょ」


 純恋は泳ぐ魚たちを仰ぎながら言った。

 さすがにこの光景を見たら、素直に認めるしかなかった。

 ただ視点が変わっただけで、こんなに違う感じを与えることができるんだ。

 さっきは横からだったからどうしても水槽って感じだったが、こうして下から仰ぐ水槽の光景はまさに海の底にいるような感じだった。


「しかも綺麗だ」


 上からライトを照らすのか、光が差し込んでキラキラした。美しい光景に見惚れつつ歩いていると、気づけばトンネル水槽を出た後だった。


「めっちゃ綺麗だった。あんたもそう思うでしょ」


 純恋の問いに、俺は静かに頷いた。

 トンネル水槽の光景が頭の中から離れなかった。


「えっ、もうこんな時間!?」


 その中、純恋はスマホを見て驚いて目を丸くした。純恋の驚きの声につられて驚いた俺は、彼女に顔を向けた。


「どうした」

「これ見て。もうこんな時間になっちゃったの」


 純恋は俺にスマホを突き出して見せた。純恋の言った通り時刻を確認してみたらもう三時二十分になっていた。


「これがどうしたってんだ」

「説明する時間ないから一旦ついてきて」


 純恋は急いでどこかに向かって歩き出した。館内では走るの禁止なので、必死に走るのを我慢して早足で歩くのが可愛かった。


「夏梅そこで何してるの。早くついてきて」


 純恋は「こっちに来い」と言わんばかりに手招きをした。


 どうしてあんなに急ぐんだろう。


 俺はわけもわからずに彼女の後についていった。


 しばらく歩いて着いたところはスタジアムみたいなところだった。前には大きな水槽があり、水槽の周りには客席があった。

 客席には人が多かった。俺たちはようやく空席を見つけ、他の人に取られる前にさっさと座った。


「ギリギリ間に合った」


 純恋はスマホを見てふぅっと安堵の息をついた。多分時刻を確認したんだろう。


「実はここ三時半にイルカショーをするのよ。めちゃすごいから、期待しててね」


 イルカショー、か。動画で見たことはあるけど、実際に見るのは初めてだった。


「あ、始まりそう。見て見て」


 純恋は袖を引っ張って前の水槽を指さした。純恋の指先が示す先へ目を向けた。

 そこには水着姿の調教師さんがステージに出て挨拶をしていた。そして音楽が流れてくるのと同時に水面からイルカが飛び出した。調教師さんのイルカ紹介の後、本格的にショーが始まった。


 ショーはあまり長くはなかった。十分程度だと思う。でもその十分間が一分に感じられるほどすごかった。

 水面からイルカが飛び出したり、調教師さんを背に乗せて泳げたり、息を合わせてジャンプしたりした。動画で見た時とは全く違う感じだった。動画の時はちょっと退屈で最後まで見れなかったが、実際に見ると面白くて一瞬も目を離せなかった。


「すごかったでしょ」

「うん。エグかった」

「フフッ、だよね」


 純恋は嬉しそうに笑った。そして小さいバッグから小さな円形の何かを取り出した。


 あれ化粧品だよね。確かクッション・・・ほにゃららだった。


「水しぶきで化粧が落ちちゃって。早く直さないと」


 純恋は小声で呟きながらその名前の知らない化粧品を塗り始めた。化粧を直してる最中、純恋の手が止め、こっちへ顔を向けた。


「って何ジロジロ見てるの。ちょっと恥ずかしいけど」

「いや、君が化粧するの初めて見て」

「え、昨日も同窓会の時も化粧してたんだよ。気づかなかった?」

「うん」


 全然気づかなかった。


「夏梅、興味なさすぎじゃん。気づいてくれよ」

「いや、だって君高校の時は化粧してなかっただろ」

「いや、一回やったよ。夏梅見たことあるじゃん」

「え、俺が?」

「覚えてない?」


 全然記憶がなかった。


「覚えてないなら仕方ない。別に重要なことではないし」


 純恋の声がなぜかいつもより低かった。どこか寂しそうにも見えた。


「それじゃイルカショーも見たし、そろそろ移動しよう」

「うん」


 俺と純恋は席から立ち上がった。そして退場していく人混みに紛れ込んだ。


 人が多いな。下手したら純恋と離れるかも。


 俺は傍らに立っている純恋に言った。


「純恋離れるかもしれないから、気をづけて」

「あの・・・私ですか?」


 あれ、なんか声が違う。

 純恋の声じゃなかった。俺は驚いて顔を向けた。


 え、純恋じゃない?


 傍らには知らない女子が立っていた。その途端、俺は戸惑って思考が止まっちゃった。

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