第二話 初デート(2)
「ちょ、ちょっと何するんだ」
俺はびっくりして手を離した。しかし純恋はぎゅっと強く握って離してくれなかった。
「じっとしてて。私が温めてあげるから」
そう言った純恋は俺の両手を握って息を吹きかけた。熱い息が冷たい手を温めるのは感じた。しかし
「純恋、これ結構恥ずかしいんだけど」
道の真ん中でこうしていると、通り過ぎる人たちの視線が感じられて顔が熱くなった。
「十分温かくなったと思うから、もうやめて」
もう耐えられなくなった俺は、無理やりに手を離した。
「えっ、まだ手が冷たいけど。もっとやらないと」
「マジ大丈夫。十分温かくなったから」
俺はまた純恋に取られないために、素早く手を後ろに隠した。
「夏梅がそう言うなら、わかったわ。それじゃーー」
いきなり純恋は腕を組んできた。突然の出来事に俺は戸惑った。
「ちょ、ちょっと」
「ーー初デート始めよう」
純恋は腕を組んで引っ張るように前へと歩いていった。俺は抵抗もできずに彼女についていった。
こうして十分ほど歩いただろうか、俺たちはある建物の前にたどり着いた。
「ここだよ」
純恋の声に俺は彼女に顔を向けた。
「どこだ。ここ」
「水族館だよ」
純恋はニコニコと微笑んで答えた。かなり浮かれ調子だった。
「実はね、ずっと前からここに一緒に来たかったんだよ。それで今日一緒に来られて嬉しい」
そういえば純恋は昔から魚が好きだったな。たまに魚類図鑑を持ってきて読んだり部室で話してたりしてた。
『ねね、これ見て。すごくない?』
『何が』
『クジラは色盲だって。色の見分けができないんだって』
『えぇ、そうなんだ。すごいね』
『じゃクジラたちの目にはこの世界がモノクロに見えるのかな』
『えぇ、そうなんだ。全然知らなかった』
『。。。夏梅ちゃんと私の話聞いてる? さっきからずっと同じこと言ってるけど』
『それはすごいね』
『やっぱ全然聞いてなかったじゃん!!』
俺は魚とか動物に全く興味がないのに、純恋の魚の話に無理矢理付き合わされたことがふっと思い出した。
そういえばあの時、一緒に水族館に行く約束した覚えがあるが。なぜ行けなかったんだっけ。
思い出せない。俺が原因だったと思うんだけど・・・。
「夏梅」
純恋は考え込んでいる俺を呼んだ。
「ここ寒いから、さっさと中入ろ」
純恋はまた俺の腕を引っ張って水族館へと歩いていった。今回も俺は何の抵抗もできず彼女について水族館の中に入った。
俺たちはまずはチケットを買うために、窓口へ向かった。
「えっ人多い」
休日だからか、窓口には人が多かった。子連れの家族がほとんどだった。
俺たちは比較的に人の少ない窓口の例に並んだ。しばらく待っていると、やがて俺たちの順番がきた。
「大人二人です」
「あ、私はいらないよ。年パス持ってるから」
純恋はカードっぽいなものを取り出して俺に見せた。そこにはここの水族館の名前が書かれてあった。
「これあったらいつでも入れるよ」
「だからここにしたんだな、お前」
「彼女にお前って酷い呼び方だね。あ、そうだ。せっかくだし夏梅も年パスにするのはどう? ちょっと高いけどコスパいいよ」
「遠慮する」
どうせ今日を最後にここにくることがないし、そんな暇もない。
俺は窓口の方に顔を向けた。
「大人一人です」
「はい。1500円になります」
「え、1500円ですって!?」
思ったより高い値段にびっくりしてつい聞き直してしまった。
「あの割引とかないんですか」
「年パスの方の同伴者である場合10%オフになります」
「そう、ですね」
10%オフになったとしても、1350円。それでも高い。
普段水族館とか全然来ないから、チケットがこんなに高いとは思わなかった。いくら高くても750円ぐらいだろうって思った。
なのに1500円。割引を受けても1350円。
お金が足りないとかないわけではなかったが、一回入場するのに1350円も支払うのはなんかちょっと、いや、結構もったいなかった。
「あの、年パスはおいくらですか」
「え、夏梅も年パス買うの?」
「コスパが良かったら」
「年パスは5500円になります」
5500円・・・。一回入場するたびに1500円だから、入場料金三、四回分の料金で一年間通い放題に入場できるってことか。
そう考えると確かに年パスの方がコスパいいな。けど、果たして俺がここによく来るかな。
平日は出勤だし、仕事終わりにはすぐ家に帰りたいし、休日には水族館より家でゲームしたい。
やっぱり年パスはいらないかな。でも1500円は、高い。
「ああ、どうすればいいんだ」
俺は独り言を呟いた。
なかなか決められなかった。年パスか一回入場券か。どっちにするのがコスパいいか。
そんなことで考え込んでいたところ、純恋の声が聞こえてきた。
「年パスの方がいいんじゃない?」
「確かにコスパはいいけど、次来ないと思うとやっぱ年パスはいらない気がしてて」
「なんだ、そのわけなら年パスにしてよ」
「なんで」
「これから私とたくさん来ればいい」
純恋はにっこりと笑いながら言った。その明るい笑顔に、俺は何かに取り憑かれたようにぼそっと言った。
「年パスでお願いします」
我に返った時は、もはや会計の後で俺の手にはスマホと水族館の年パスのカードが握られていた。
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