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第一話 初デート(1)

 寒い空気の中、朝の日光が部屋の中に差し込んだ。眩しい日光に俺は手で光を隠しながら目を覚ました。


「うぅ俺、眠っちゃったんだ」


 どうやら昨日あまりにも疲れてて、気絶するように寝てたみたい。ベッドに仰向けになった記憶はあるが、その後の記憶がなかった。しかも服も昨日の洋服のままだった。

 俺は眠い目を擦りながら起き上がった。


「今何時だろう。スマホはーー」


 ベッドの周りを見回し、スマホを探した。


「ーーあら、どこにあるんだ」


 どこにもスマホがなかった。慌てて再び周りを見回していた中、ポケットがブーっと震えた。俺はポケットの中に手を入れた。すると、硬い何かが感じられた。スマホだった。


「あ、昨日ポケットに入れたまま寝ちゃったんだ」


 何はともあれスマホを見つけた俺は、ポケットから取り出して時刻を確認した。十二時半だった。


「俺めちゃ寝たな」


 二日前の同窓会と昨日の残業の疲れが溜まっていた余波があまりにも強すぎたようだ。ほぼ十二時間も気絶したように寝たから。


「え、メール来てるね」


 さっきの振動はこのメールだったようだ。こんな休日に俺にメールを送る人なんて。思いつく人は一人しかなかった。


『おはよー』

『起きた?』


 やっぱり予想通り純恋だった。


『今日のデート。覚えてるよね?』

『二時まで駅前だから』


 あ、そういえば今日デートあったんだ。


 忘れていたわけではないけど、起きたばかりだったので全然考えていなかった。


「やっぱ二時にしてよかった」


 もし十一時のままだったら、俺は絶対遅刻するはずだった。多分純恋にめちゃくちゃ怒られたんだろう。想像すると怖気立った。


「本当よかった」


 昨日の俺によくやった、と自分を褒めながらベッドから立ち上がった。

 まだ十二時半だったが、二時まで駅前で会うためには、今から準備しないといけなかった。


 駅まで行く時間もあるから。

 そう思って動こうとした時、またスマホに通知が来た。


『あ、そうだ』

『ご飯も、ちゃんとご飯食べてくるの忘れないで』


 ご飯を食べる白い猫のスタンプが一緒にきた。


「お母さんかよ」


 最近俺の母さんも「ちゃんとご飯食べなさい」と小言を言わないのに。

 俺は適当に『わかった』と返信を送り、ベッドの上にスマホを投げた。


「とりあえずお風呂から上がろう」


 早くお風呂に入りたかった。昨日お風呂も入らずに寝ちゃったから、体のあっちこっち痒いし、ちょっと臭い気がした。

 俺は昨日の洋服を脱いですぐお風呂に入った。


******


「確かにここの駅で会うことにした、が」


 純恋と待ち合わせ場所に着いた俺はスマホに目を向けた。時刻はもう二時をちょっとすぎていた。それなのに、どこにも純恋の姿は見えなかった。


「遅いな。純恋」


 まあ一時間以内に来れば大丈夫だ。さすがに一時間を超えるとちょっと怒るかもしれないけど。


「それにしても、休日に会社の近くにくるなんて。なんだかちょっと嫌だ」


 平日にも行きたくないのに、大切な休日に会社前の駅に来るなんて。なぜかさっきから会社の方面からつい目を逸らしてしまう。


「純恋はいつ来るんだ」


 この場から早く離れたかった。

 早く来ないかな、と気を揉みながら純恋を待っていた。


「夏梅〜!」


 しばらくして背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。突然名前が聞こえたので、自然に声がした方に振り向いた。そこには純恋が大きく手を振りながらこっちに向かって走ってきていた。


「・・・かわいい」


 純恋の姿に思わず心の声が漏れてしまった。

 黒いロングスカートにベージュコートを着た純恋は、清楚そのものだった。うっとり見惚れちゃった。

 そんな中、純恋は俺の前にたどり着きゼェゼェと荒い息を吐いた。


「ごめん! 遅れちゃった、待った?」

「・・・・・・」

「夏梅? おい〜、聞いてるよね。夏梅」

「ん? あ、うん」


 純恋の声にやっと我に返った。純恋は心配そうな顔でこちらを見ていた。


「待たせちゃって本当ごめん。寒かったでしょ」

「いや、俺もさっききたば」

「ウソッ」


 突然純恋は俺の言葉を遮った。そして俺の手をぐいと掴んだ。純恋の熱い手の感触に少し驚いた。


「こんなに手が赤くなったじゃん。どうしよう、これ」


 純恋の声に心配が滲んでいた。ここにきてからずっと外で待っていたせいか、俺の指先が赤くなっていた。まあこんな寒い日に外で待っていたから、赤くなるのも当然だが、なんとなく照れ臭くなった。


「こんなの大したことじゃない。ほっとけば元に戻る」

「でも痛いじゃん。私のせいで」


 純恋は悲しそうに俺の手を離してくれなかった。


 そんなに気にしなくてもいいのに。

 別に痛くもないし、こうなったことすら知らなかったから。


 ところでいつまでこうしてるつもりだろう。


 彼女と手を繋ぐことなど普通のことだと思うんだけど、いつまでここでこうしているわけにはいけなかった。周りからもチラチラと見てるし。

 そのためもう純恋の手を離そうと思った。手に力を入れた瞬間、突然手に暖かい風が吹いてきた。


 まだ一月なのにこなに暖かい風が吹くなんて。可笑しい。


 と思って手に目を向けた俺は、びっくりして目を見開いた。

 純恋が俺の手に息を吹きかけていたのだ。

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