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第十六話 モーニングコール(エピローグ)

 十年前、ある日の放課後。文芸部の部室のドアがギーっと鳴り、夏梅が中に入ってきた。本を読んでいた純恋は彼を見て笑顔で手を振った。


「来た?」

「うん」


 夏梅は軽く首を縦に振った。彼は鞄を机の上に置き部室の隅っこの段ボールに行った。

 段ボールの中には、本がいっぱいあった。夏梅は何か探しているように段ボールから本をいくつか取り出した。すると本の中に隠されていたゲーム機が姿を現れた。夏梅はそれを手に持ちさっき鞄を置いた机の前に座った。


「今日もゲームするの」

「うん」

「もう後輩もいるから、そろそろ文芸部っぽいな活動をしなさい」

「ごめん、それは無理。でもこの前、君が推薦した本は読み切った」


 夏梅はゲーム機に目を肯定したまま答えた。純恋は少し驚いたように目を見張った。


「うそっ。全部読んだと? それ四百ページを超える分量だよ。なのに三日で読み切ったと?」

「まあ一日百五十ページずつ読んでたから」

「へぇすごいじゃん。えらいね。やっぱり夏梅は部長に言うことちゃんと聞くいい子だね」

「子供扱いするな」


 夏梅は初めてゲームから目を離して純恋を睨んだ。しかし純恋はニコニコ笑っていた。


「子供だろ。夏梅は一人で朝にちゃんと起きれないから」

「そそれは・・・・・・」


 夏梅は言葉に詰まった。今日だって純恋が家まで迎えにきてくれたおかげで、遅刻せずに学校に来られたから、なんの反論もできなかったのだ。


「夏梅はマジで私に感謝しなさい。今日だって危なかったでしょ」

「それはまあありがたく思っていますけど。でも俺は別にトイレ掃除でも」

「・・・・・・」

「わかった。ごめん」


 夏梅は自分無言無表情でじっと見つめる純恋にすぐ謝った。純恋は無言で小さく頷き本へと目を向けた。それを見た夏梅もゲームに目を向けた。

 夏梅と純恋の間には静寂が流れた。窓の外の葉擦れの音とセミ泣き声だけが静かに響いた。


「ときろでさ」


 静寂を破って先に口を開いたのは夏梅だった。


「純恋はなんで俺に気遣ってくれるの」

「いきなどういうことなの?」

「俺のために毎朝に電話したり、わざわざうちまで迎えに来たりするだろ。なんでそこまでして俺に気遣ってくれるのか気になって」


 夏梅の問いかけに、純恋は「フーム」と息を漏らしながら手に持っていた本を机に置いた。しばらくして純恋は「それは」と言葉を継いだ。


「部長だから。部長が部員の世話を見るには当然なことだわ」

「・・・そっか」


 普通はそこまで世話を見てくれないと思うんだけど。


 と夏梅は疑問に思ったが、敢えて口にはしなかった。

 夏梅はゲーム機を手から離し、立ち上がった。急に席を立つ夏梅の姿に、純恋は聞いた。


「どこに行くの?」

「トイレ」


 そう言って夏梅は部室を出た。こうして部室に一人残された純恋は、本を手を伸ばした。彼女は静かに本を読みながら、小声で呟いた。


「好きだからに決まってるだろ。このバーカ」


 純恋の頬は少し赤くなっていた。その小さな呟きは静かに響き、静かに消えていった。


******


 駅の前。駅の中に入る夏梅の後ろ姿を純恋はじっと立って見守っていた。やがて夏梅の姿が完全に見えなくなった。


「私も帰ろっか」


 純恋は静かに呟いた。そして彼女は駅から背を向けた。そして駅との反対方向へ歩いていった。

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