第十四話 モーニングコール(4)
「これをこうすれば・・・」
最後にコードを書き直し、張り詰めた気持ちでデバックを行なった。
「お願い、お願い、お願い」
俺はモニターの前で両手を合わせて切実に願った。
これで解決できなかったら、もう無理だった。もう他の方法はなかった。
「お願い、お願い、お願い、お願い」
デバックを行っているモニターの画面を見ながら、かつてないほど切なる思いで願い続けた。やがてデバックの結果が出た。結果を見るのが怖くて心がザワザワした。でも結果を確信しないと帰られないので、薄目を開けてそっと結果を確認した。
「嘘ッ・・・・・・」
デバックの結果を見た俺は、目を見張った。
「エ、エラーが・・・エラーがないッ!」
大成功だった。コードはエラーなしでちゃんと作動したのだ。
「マ、マジだよね? これ」
驚きのせいか、興奮のせいか、手も声も震えた。
未だにエラーの原因はわからないけど、まあエラーなしでちゃんと作動するから問題ない。何か他のエラーを起こす前に、早くセーブした。
俺は力なく椅子にもたれかかった。
「はあ、やったぁ・・・」
俺は死にかけな声で成功の歓声とは言えないほど小さな歓声を上げた。疲れすぎて喜ぶ力もなかった。
「これでやっと帰れる。早く純恋に・・・っつか今何時」
俺は目を細めてモニターに映った時刻を確認した。もはや九時をすぎていた。
「純恋まだ待ってるのかな」
時間も時間だしもう帰ったと思うけど、一応連絡してみよう。
俺は机のスマホを手にして純恋にメールを送った。
『今終わったけど』
『まだ待ってる?』
そう送って返信が来るまで帰りの準備をしていた。しかし準備を済ませて事務室を出ても純恋から返信は来なかった。
「全然連絡ないな」
こんなに返信が来ないのは初めてだった。しかしだからといっていつまでここで返信をじっと待つわけにはいかなかった。
「とりあえず行ってみるしかないか」
純恋が言ったカフェーに行ってみることにした。純恋から送ってもらった住所をマップのナビにコピペした。そしてスマホに表示された道に沿って道を歩いた。
幸いに会社からあまり遠くないところのカフェーだったので、すぐ到着することができた。
「ここだけど」
カフェーの外から中がよく見えなかった。それで仕方なくカフェーの中に入った。
「いらっしゃいませ」
明るい笑顔で迎えてくれる店員さんを後にして、お店の中を覗いた。なんか暖かい感じを与えるインテリアのカフェーだった。俺は中を見回して純恋を探った。
「純恋はどこに・・・っ!」
カフェーの隅っこに一人で座っている純恋の姿が目に入った。純恋はパソコンを打っていた。
俺は純恋を呆然として見つめた。
「まさか、まだ待ってるとは」
約束時間からもう三時もすぎたのに、未だに帰らずに待ってるとは・・・。
純恋は昔からそうだった。昔から俺のためにいつまでも待ってくれる優しい人だった。
「あのお客さん? ご注文はいつ」
「はい? あ、ごめんなさい」
カウンターの店員さんの言葉に、俺は慌ててメニュー表の方に目を向けた。色んなメニュがあったが、特に目に入るのはなかった。
「ええと、ラテ一つお願いします」
「はい。かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんは明るい笑顔と共に俺のラテを作り始めた。俺は待っている間、やることもないしカウンターの周囲を見回した。カウンターの横のケーキショーケースが目を引いた。
「純恋にケーキでも買ってあげよっか」
こんな時間まで待たせた純恋に、ささやかだけどお詫びの気持ちとしてケーキでも買ってあげようと思った。
俺はショーケースの方に目を向けた。時間が時間だから、ケーキより空いている所が多かった。
「純恋が好きそうなケーキが・・・あ、これ、純恋が好きなケーキだ」
一つ残ったいちごショートケーキがパッと目を引いた。これ純恋の好きなケーキの一つだった。
「これにしよう」
そう決めた俺は顔を上げて店員さんを呼んだ。
「あのすいません。いちごショートケーキも一緒にお願いします」
「いちごショートケーキですか。はい、かしこまりました。少々お待ちください」
そう注文してじっと待っていると、やがて注文したラテといちごショートケーキが出た。俺はトレーを持って純恋のもとへ向かった。
純恋はパソコンに夢中になって、俺がすぐ隣に来ても全然気づかなかった。
「あの・・・純恋?」
俺は彼女の注意を引くために、声をかけた。するとやっと純恋はこっちへ向いた。
「え、夏梅!? いつ来たの?」
「さっき。待たせてごめん。どうしても仕事が終わらなくて」
「大丈夫、大丈夫。とりあえず座って」
純恋は向かいの椅子を示した。俺はトレーをテーブルに置きながら椅子に座った。
純恋は俺のトレーをじっと見て言った。
「そのショートケーキは何。夏梅ケーキ好きだったっけ」
「あ、これでこんな時間まで待たせたお詫び。食べて」
俺は純恋にフォークを渡した。純恋は少し驚いた様子だった。
「私の? 別にいいのに。ありがとう」
口ではああ言ってるが、顔は嬉しそうだった。そして純恋はフォークでケーキを一口サイズで切って食べ始めた。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークと評価お願いします




