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第十二話 モーニングコール(2)

 ギリギリ九時前に会社に到着した俺は、荒い息を漏らしながら社員証をビッとかざした。


「ハァハァ、間に合った」


 危うく遅刻するところだった。もしあの電車を逃してたら・・・うう、想像するだけでゾッとする。

 俺は額の汗を拭きながら席に座った。


「暑いぃ」


 外は寒いけど駆けつけたせいで、体が熱かった。俺は上着を脱いで椅子にかけた。そして背もたれもたれて手で扇いだ


「先輩、おはいようございます」


 一人で体を冷やしている途中、隣の席の後輩の田中くんが元気よく挨拶してきた。俺は扇ぎながら「おはいよう」と返した。


「昨日の同窓会はどうだったんですか」

「まあ普通だった」


 俺は適当に答えた。遅刻だけは避けるため、力を使い果たしたせいでもはや人と話す力が残ってなかった。


「ところで、先輩なんかすごく疲れそうですね。朝から何かありましたか」

「ちょっと遅刻しそうで走ってきただけで、疲れただけだから気にしないで」

「え、遅刻ですか? 先輩が?」


 田中くんは信じられない表情で聞き返した。


「先輩が遅刻なんて、それは珍しいことですね。いつも十分前には来てたんじゃないですか」

「今朝ちょっと色々あって」

「昨日の同窓会が原因ですか。やっぱ飲み過ぎたんじゃ」

「まあ飲みはしたけど、原因はそうじゃない」

「じゃあどうして遅刻しそうになったんですか」


 まあ別に言っても構わないだろう。


「彼女と電話してたら、つい」

「ああ、そういうことですか。彼女、か。・・・・・・ええぇ?! 彼女ぉ!?」


 田中くんは目を見張った。

 田中くん驚くのが一拍子遅い。


「先輩彼女できたんですか? いつからですか。まさか昨日の同窓会で」

「まあそういうことかな」

「マジですか。すげぇ。じゃあ彼女さんは高校の同級生ですね」


 俺は無言で頷いた。そろそろ田中くんの問いに答えるのが面倒くさくなってきたからだ。


「彼女さんはどんな人ですか。あ、写真とかあったら見せてください」

「写真ね。持ってない」


 昨日十年ぶりに再開して写真など撮る時間がなかったし、高校の時の写真は全部実家のパソコンに送ってたから。


「残念ですね。今後機会があレバ紹介してください」

「考えてみる。あ、ちょっと待って」


 机の上に置いておいたスマホが震えた。手に持って画面を確認すると、メールの通知が来ていた。


「誰ですか。彼女?」

「うん」


 発信者はやっぱり純恋だった。


『私のせいでごめん』

『遅刻した?』


 純恋気にしていたのか。別に純恋のせいってわけではないのに。


『ギリギリセーフ』

『なんとか電車に間に合った」


『よかった』


 すぐ返信が来た。なんか安堵のため息をつく白い猫のスタンプも一緒に来た。


『今日は本当ごめん』

『そろそろ迷惑になりそうだから』

『頑張ってね』


 それを最後に連絡は終了。何分経っても純恋から連絡は来なかった。

 俺はもう通知が来ないスマホを机に置き、座り直した。


「仕事しよう」


 と小声で呟き俺はキーボードの上に手を置いた。

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