第十一話 モーニングコール(1)
朝の暖かい日光が差し込む部屋の中。電話のベル音が部屋の中に鳴った。耳が破れるほどうるさい音に、俺は目を覚めた。
「うう、スマホ・・・スマホどこにあるんだ」
昨日の同窓会の余波で、目が半分しか開かなかった。そのため、俺は手の感覚だけに頼ったまま、布団の上を手探りしてスマホを探した。一度着信音が切れて、再び鳴り始めてからようやくスマホに指先が当たった。俺は素早くスマホを手に取り、耳に当てた。
「もしもし」
「あ、繋がった。もしもし」
スマホの向こうからふわふわな声げ聞こえてきた。純恋の声だった。こんな朝っぱらからどういうことだろう、と思った。表示されていた。
「夏梅おはいよう。よく寝た?」
「よく寝たけど、眠くて死にそう」
俺の口からは自らでも驚くほど声がガラガラだった。
「それは大変だね」
「そうかも。で、なんで電話したんだ」
「夏梅、朝弱いからモーニングコールしてあげようかなと思って」
だからわざわざ電話かけてくれたのか。別に要らないのに。
「別にモーニングコールは要らないよ。ちゃんとアラームセットしたし。君までこんあ朝っぱらに起きる必要はないから」
「夏梅今、私のこと想ってくれたの? 嬉しい。でも大丈夫だわ。私朝強いだもん」
純恋の元気な声が彼女の言葉を裏つけてくれた。
「あと、アラームより彼女の声で一日を始めるがずっといいでしょ」
「それは・・・まあそうだけど」
「夏梅が素直に認めるなんて、珍しいわね。歳を取ったからかな」
「そうかも・・・」
「夏梅、もしかして眠い?」
「いや、全然眠く・・・」
瞼が重い。睡魔が・・・。
「もしもし!? 夏梅?! 起きて!」
スマホの向こうから聞こえる純恋の高い声に、俺はパッと目を覚ました。危うく寝るとこだった。
「今寝そうになったわね? もー、夏梅が寝ちゃうと電話した意味ないじゃん」
「仕方ないだろ。俺マジで朝弱いから」
「あんた今横になってるでしょ。早く座りなさい。また眠る前に」
「わかった」
俺は純恋の言うことに従って上体を起こした。
「座った?」
「うん」
「よくできました」
まるで子供を褒めるような口調で純恋は言った。
もうすぐ三十路なのに子供扱いなんて。呆れすぎて突っ込む気にもならなかった。
「どころで私たちこうして電話するの懐かしくない? 高校の時が思い出すわ」
「どうして」
「覚えてないの? 高校の際、私たちよくこうやって朝に電話してたじゃん。夏梅、朝全然起きられなかったから」
あ、思い出した。
昔から夜遅くまでゲームやった俺は、朝に弱すぎた(それは大人になっても同じだけど)。そのため、学校に遅刻するのは日常茶飯事だった。そんな生徒を見捨てられなかった先生は
『今後遅刻したら罰として放課後トイレ掃除をさせます』
と俺におしゃった。その当時文芸部だった俺に、放課後掃除させるってことは部活を禁止させるってことと同じだった。
『まあ別に部活禁止されても構わないが』
って俺は大したことだと思わなかった。部活や罰のことよりも、今夜のゲームイベントで頭がいっぱいだった。
でもそのことを部長である純恋には伝えとくべきだと思って部室でゲームやりながら伝えた。
『あ、そうだ。俺明日から部活できないかも』
『・・・えええぇえ!!? どどうして?!』
純恋は「びっくり」という単語で表現するのは足りないぐらいの反応だった。
『先生が明日から遅刻すると、放課後トイレの掃除させるんだって。しかし俺は遅刻しない自信がないから、これから部活できないかも』
『夏梅・・・あんたさ・・・』
純恋の声が震えた。悲しみの震えじゃなかった。怒りに満ちた震えだった。
『そういうのなら遅刻しないように頑張ってよッ! なんで当たり前のように遅刻するのを想定して話すんだよ!』
『だって俺朝弱いんだから』
『それは、あんたが毎晩夜遅くまでゲームするからでしょ。もう夜にゲームするのはやめてよ』
『ごめん。それは無理』
俺はなんの躊躇もなく即座に断った。
『夜にやるゲームは夜だけの雰囲気があるからどうしてもやめられないんだな』
『遅刻してトイレ掃除することになっても?』
『そりゃもちろん』
『あんたって人はぁ』
純恋はため息を漏らしながら頭を左右に振った。
『仕方ないわね。私が毎朝電話してあげるね。遅刻しないように』
『わざわざそんなことしなくても』
『いや、やるよ。夏梅には部活に出て欲しいから』
純恋はぎゅっと拳を握って自分の固い意志を示した。
『俺はマジ大丈夫だって』
俺は最後まで要らないってわざわざやらなくてもいいって口にしたが、もはや純恋の耳には俺の声が聞こえなかった。
そのゆえで、翌日から毎朝純恋から電話がきた。
『もしもし〜。夏梅起きた? 学校に行く時間だよ』
『ううーわかった・・・』
純恋のおかげでトイレ掃除は避けたが、そのかわりに授業中に寝ることになっちゃったけど。
「覚えてる。覚えてる。毎朝君が電話してくれただろ」
「じゃあこれも覚えてる? あんたが電話に出ないからあんたんちまで迎えに来たこと」
「覚え・・・てる」
一ヶ月だったっけ。純恋の電話にすっかり慣れてしまって電話のベルが鳴ってもぐっすり眠れる境地に至ってしまった。そのため、純恋は毎朝学校に行く前にうちに来て俺を起こして一緒に登校してくれた。
「今考えてみると、電話より家に迎えにきたことがずっと多いね」
「そう、かな」
自ら考えてもそうだった気がした。後にはほぼ毎日うちに来て俺より母さんと親しくなったから。
「夏梅は私に感謝してよ。私じゃなかったら夏梅は毎日トイレ掃除だったから」
「もちろん、ありがたく思っております」
前に誰もいないのに、思わず頭を下げて感謝した。スマホの向こうからは純恋がクスクスと笑い声が聞こえた。
「ところでさ、一つ聞きたいことがあるんだけど。純恋はどうしてそんなに気遣ってくれたんだ」
「昔もこういう質問を聞いた覚えがあるんだけど。そりゃ部長だったから。部長が部員に気遣うのは当然でしょ」
「そうか」
「私からも一つ質問があるんだけど。夏梅出勤しないの? もう八時だけど」
「・・・は?」
俺はスマホを耳から離して時刻に目を向けた。
「マジか」
もう八時だった。いつの間に八時に・・・。
「え、なんでもう八時なんだ」
「もしかして遅刻、なの?」
純恋は遠慮がちに尋ねた。
「電車に間に合わないとギリギリだが、急がなきゃ」
「もーこれじゃモーニングコールの意味がないじゃん」
「泣きたいのはこっちの方だ。とりあえず切る。あとで連絡して」
「わかっ」
純恋の言葉を最後まで聞かずに電話を切った。俺は急いでベッドから離れた。
「急がないと」
そして慌ただしく出勤準備をした。
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