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第一話 同窓会(1)

 高校の同窓会が開かれる居酒屋。高校卒業してから十年ぶりに開かれる同窓会は耳が痛いほど賑やかだった。思い出話とか近況報告で話が絶えなかった。

 そんな賑やかな空気の中、俺は端っこの席で生ビールをちびちびと飲んでいた。


 退屈だな。早く帰りたい。


 高校の同窓会だが、正直に覚える子は多くなかった。十年という長い時間の間、色々あったし、最近は仕事に押しつぶされて思い出に耽る暇など俺にはなかった。


「おい、高村」

「あ、はい」


 突然俺を呼ぶに、ハッとしてビールジョッキを置いて答えた。


「高村は今なんの仕事してんの」

「ゲーム会社でプログラマーとして働いている、です」

「へぇそうなんだ。結婚は?」

「まだ、です」

「じゃ彼女は? 彼女いる?」

「仕事が忙しくて・・・いない、です」

「そっか。どころでなんでさっきから敬語なんだ」

「はは、なんでだろう」


 俺は苦笑いをこぼしながら生ビールを口につけた。


 なんで敬語なんだって、気まずいからに決まってるだろ。


 と心の中でつぶやいた。


 やっぱり参加しなければ良かった。


 一週間前、仕事終わりに同窓会の連絡が来た。行くか行かないかすごく悩んだが、やっぱり断れば良かった。


「そういや、小森は来ないのか」

「う、うん?」

「小森純恋、知ってるだろ。高村、仲良かったから。未だに連絡してるんでしょ。小森はいつくるんだ?」

「俺も知らん。連絡途切れちゃったから」


 小森純恋(すみれ)。懐かしい名前だった。

 十年前の高校時代。高校三年間、ずっと同じクラスで同じ部活だった女友達の名前だった。その故で一緒にいる時間が多かったので、学校で最も親しかった女友達であり、あの時はわからなかったが今考えてみると初恋だったと思う。


 だからか、未だに彼女のことをはっきりと覚えていた。

 腰まで伸びた長い黒髪。真っ白な肌に整った顔立ちの可愛い子だった。そのため、学校でかなりモテモテだった。


 純恋は来ないのか。


 俺はビールを飲みながら、ちらりと入り口の方を見た。扉は堅く閉ざされていた。


 実は最初この居酒屋に入った時から、ずっと気になった。そもそもこの気まずい同窓会に参加したのも、純恋が来ると思ったからだった。

 しかし同窓会が開始されてからもう一時間半も過ぎたのに、純恋はまだ来てなかった。


 本当に来ないのか。


 俺は生ビールをちびちび飲みながら再び入り口の方をチラッと見た。その瞬間、突然入り口が開いた。俺は主人を待つ犬のように、扉の方へパッと顔を向けた。


「すみ・・・」


 扉から入ってくる人を見た途端、俺はすぐ口を閉じた。入ってきたのは、純恋じゃなかった。高校の頃、同じクラスだったが、今は名前すら思い出せない人だった。


 今回もハズレか。


 もし遅れてでもくるかと思って、開始してからずっと入り口の方を横目でチラッと見ていた。だが、成果はなかった。たまに扉が開き、人が入ってくるが、ほとんどがトイレに行ってくるやつらばっかりだった。


 会費がもったいないな・・・。


 会いたい人は来るか来ないかわからないし、十年ぶりに会う高校のやつらも気まずいし。気まずい人たちと話すの体力消耗がやばかった。


 やっぱり来なければ良かった。


 俺は深いため息を吐きながら、余計に生ビールをもう一つ頼んだ。


「すいません、ここ生ビール一つお願いします」


 会費、結構高かったから生ビールでもたらふく飲んで早く帰るつもりだった。


「おい、高村、大丈夫か。飲みすぎじゃないか」

「大丈夫、です。全然飲める、です」


 また思わず敬語が出てしまった。まあ、いいっか。明日から知らない人になるんだし。

 そう思っていると、店員さんが注文した生ビールを持ってきてくださった。俺はビールを手にして、一口注いだ。生ビールの炭酸と一緒にアルコールの苦味が口の中に広がった。俺は箸を持ち目の前のカラアゲを取って口に運んだ。


 うっまぁい。


 不幸中の幸いにも、ここの料理は美味しかった。カラアゲの衣がカリカリで肉汁がジューシーすぎてビールに合った。

 俺はカラアゲの味が口の中から消えちゃう前に、生ビールをゴクゴク飲んだ。


「えっ、来たな。高村、見て、来たぜ」


 生ビールを飲んでいたところ、向かいのやつが入り口の方を指さしながら俺を呼んだ。


 しつこく俺を呼ぶ彼の声に、俺はため息を漏らしながら彼が指さすところに目を向けた。


 一体誰が来たっていうん・・・


「えっ」


 俺はびっくりしてそのまま凍りついた。


「遅れてごめんね」


 ロングストレートの黒髪。真っ白な肌。大きい瞳と通った鼻筋。清楚系の可愛い顔立ちの女子が店に入ってきた。


「あの子は・・・」


 十年という長い時間が経ったが、それでもすぐわかった。彼女は純恋だ。十年前、高校の時代、毎日会ってた最も親しかった女友達。俺がずっと待っていた小森純恋が、ついに来たのだ。

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