第三話 在処‐④
短めの更新が続きます……。
その後、ミナカの症状と身体の具合を確かめるための触診が行われ、ルクスは部屋の外で待つこととなった。
当人は殊更に意識しているつもりはないと自覚しながらも、胸中に燻る不安は拭い難く────悶々とした時が過ぎていった。
『ルクスくん、終わったよ』
扉越しにミナカの声が届き、ルクスは戸を開けて中へ入る。コッケの趣味だろうか、部屋には幾つか可愛らしい手縫いの人形が見受けられた。
当のミナカは帽子を脱いでおり、面持ちを暗くした二人にルクスはどことなく現状を察する。
「……お話の前に一つ。御主人の前でも確認させてもらいますにゃ。……貴女は勇者ミナカ・アイリーン様ですにゃ?」
「うん……。そうだよ」
「はぁ……やっぱりにゃ。コッケの予感はよく当たるにゃ」
「…………」
何やら余計な勘繰りをしているらしく、剣呑な気配を纏うルクスに対してコッケはやれやれと肩を竦めてみせた。
「あー待つにゃ待つにゃ。コッケは情報通にゃ。二人が夜逃げしたのも知ってるにゃ」
「よ、夜逃げっ!? ち、違うよっ!」
何を動揺しているとばかりに、ルクスが刺すような視線を投げかける。そんな彼にミナカは頬を膨らませたまま、目元を伏せて押し黙った。
「まっ、聖教騎士に突き出すのは簡単にゃ? でもコッケはミナカ様のことも慕ってるにゃ。今すぐどうこうするつもりはないにゃ」
「……わかった。その言葉を信用させてもらう。……で、ミナカの具合の方はどうだ」
「それがですにゃ……御主人、ミナカ様の容態に異常は見られないにゃ」
「そう、か……」
昨晩ミナカが意識を失わなかったのは不幸中の幸いか、或いは自身が傍にいたことが奏功したか。
いずれにしても、ルクスとしては彼女の体調に異変がないことに安堵するのみだ。
「けど、念に越したことはないにゃ! 今持っているコッケの調剤薬の中でも一級品、どんな熱でも病でも治してしまう優れものがあるにゃ!
「どんな病でも……!? 凄いねコッケちゃん……!」
「……胡散臭いな」
「気になりますかにゃぁ〜? ミナカ様ぁ〜? お代については……レムナシア随一の賭場、ノクーラで景品になっているとある品にゃ!」
「ノクーラ……! わたし、行ったことないんだっ!」
話に食い付いたミナカに対し、コッケはどこか卑俗な笑みを浮かべて言葉を返す。
露骨に聖貨を求めてこないあたり、その腹積もりは別のところにあるのだろう。
「なんだ、聖貨じゃないのか。その品とは何だ?」
「よくぞ聞いてくれたにゃ、御主人! その品とは……ズバリ、伝説の名工クンタラが遺した曲陶器にゃ! あの曲陶器は聖貨などという低俗なものとはかけ離れた極品なのにゃ〜……!」
伝説の名工クンタラ────遥か昔、預言者マーレの時代に彼に仕えた鍛冶師。マーレの剣を打ち、民に武器を与え、宮を築いた一時代の奉公人。そのクンタラが余生を過ごす趣味に造ったとされる五つの曲陶器。その内のひとつがノクーラに現存し、コッケの欲している品だという。
「……行商人が口にしていい言葉とは思えないが、アンタがノクーラで取ればいいじゃないか」
ルクスの正論に対して、然しコッケは瞼を閉じて右手の人差し指を左右に振る。
「御主人、甘いですにゃ。コッケは一介の行商人……。ノクーラで名を馳せるのは厳しいのにゃ……」
そのまま数歩前に進み、ミナカの前で止まると背負い鞄から一枚の紙切れを彼女へ手渡した。
「いやはやこれも何かの縁ですにゃ、ミナカ様。こちらの優待券と手紙を差し上げますにゃ。ノクーラにいる案内人に渡して、お役立てくださいにゃ」
「え、いいのっ? やった! ルクスくん、優待券だって!」
「おい……薬はさておき、容態も安定してる今一刻も早く故郷に行くんじゃなかったのか」
「まぁまぁ御主人、そんなに根を詰めても空回りしていますにゃ〜? ここは一つ、息抜きも兼ねてっ!」
「そうそう! 息抜き、だよっ! それにわたし、コッケのちゃんの薬もあった方が安心できるから……!」
どれ程に彼女がコッケの薬に期待を寄せているかは定かではない。そしてそこには、昨晩の不安もあるのだろうとルクスは汲み取る。
こう出られては仕方がない。大人しくレジーナ調薬所に行くべきだったかと、溜息を吐いた。
「はぁ……少しだけだ。俺たちに賭け事の才能がないとわかったら、他を当たれ」
「話のわかる御主人ですぅ〜!」
「やったねコッケちゃんっ!」
歓喜を表すようにコッケとミナカはその場で跳ね、互いに手を打ち合わせる。
押せばどうにかなる──どうやらルクスは、二人からその程度に見込まれているらしかった。
「……薬の方に噓偽りは無いんだろうな」
「もちろん、品質は保証しますにゃ。コッケは一日広場に居るにゃ。終わったら戻ってくるにゃ」
次回の更新は2月13日の21時を予定しています。
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