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アガスティア  作者: 常若
第二章 青の勇者
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第二話 旅路‐⑨

 その後。場所を移していたリサーナとミオメルは、落ち着ける場所で向き合っていた。


 水都には腰を据えて話せる場所など(いく)らでもあるが……これから語る内容はあまりにも機密性が高いもの。市井(しせい)の民はもとより、聖教の人間に届くことのない確かな場所が必要だった。


 そうして二人が選んだ場所は、マーレ聖教会騎士団水都支部内の発着場。そこに停泊する、純白の流線型─────アルドール内部に設けられた談話室だった。


「ここなら邪魔も入らない……適切な判断だわ、ミオメルさん」


 聖都の騎士団本部のものにも似た、広漠(こうばく)とした石造りの発着場では照りつける日光が爛々(らんらん)と輝き、艦内からは整備に勤しむ団員たちの姿が映っている。


 椅子に腰掛けず並び立った二人は、同じ瞳で……それでいてどこか異なる眼差しで、硝子窓(がらすまど)の向こう側を眺めていた。


「何だか、あんたとここで話すのも久々な感じ。でも……もう数か月経ったんだっけ」


「……アルドールはそのままフルズブルグ隊が使っているのね」


 アルメインを(とうと)ぶ者は、今なお聖教騎士団に数多く在籍している。彼の()()のひとつとも言える一隻は、喪踪(オビートス)となった後に解体案も持ち上がったこともあったという。


 アルメインの遺志を継ぎ、再編されたコーレルム隊──フルズブルグ隊の飛行艇となって尚、その旗印に込められた象徴は変わっていない。


「元はといえばアルメインのために造船された物だけど……ま、なし崩しよ。ただ、マリベルは操縦士を外れて今は別の任務に当たってるわ。暫く会ってないけど……元気にしてるかしら」


 リサーナは整然と保たれた艦内を見渡す。約半年前。仲間と共に……彼と共に旅をした情景が想い起される。


 昨日のことのように思い出せる日々は、いつか終幕が来ると理解していながらも──幻想的で、素敵な毎日だった。


「………………俺が殺したって……そう、あいつは言ったわ」


 ミオメルは瞳を瞑り……()()()との会話を吐き出すように、そう零す。


 そして彼女の呟きに。リサーナは言葉ではなく、首を縦に振ることで応えた。


「……ウルハにはあたしが伝えておく。聞かせて。あんたと……あいつに何があったのか」


「待って……その前に一つ、言わせてちょうだい」


「……なによ」


「これから話すことは追求はしないで。これはあなたたちへの恩。でも……()()()()()()()()()()()に話すことはできないわ」


 正義感が強く、実直な彼女の心を信じて。騎士ではなく、一人の人間として。


 彼女へ打ち明けた(あるじ)の思いを()むように──真っ直ぐに見据える。


「わかった。約束する」


「…………ありがとう」


 ミオメルもまた、その意に沿()うように。強く、確かに頷く。


 そして瞼を閉じ……一呼吸。ふぅっと息を吐き、一拍置いた後にリサーナは語り始めた。


「まず初めに、彼が……あの人が言ったことは事実よ。アルは……彼が、いえ、()()()が殺したわ」


「……そう、あんたも……。本当、なのよね。……なんで。なんでよ……どうして、そんな……っ!」


 カイナ──彼の言葉を聞いたその時から。仲間の生存と言う安堵は、疑念と混乱に変わった。


 今も尚、胸中の感情は渦を巻いて乱れている。何が起こっているのかさえも、分からずに。


「それから、私と彼が姉弟というのも嘘。あの人は……オルドバーン帝国第一皇子、ルクス・オルドバーンよ」


「……ちょ、ちょっと待って……カイナのこと……よね? あいつが、皇子!? ってそれよりも、魔皇ヴェーザスの息子!? でも確か、魔皇に跡継ぎはいないって……」


「帝国が隠し通した、唯一の道標(みちしるべ)。彼は託宣の儀も受けていない、聖教から逃れた子供だった。そして彼の存在が、(すべ)てを(くつがえ)すわ」


「なに、どういうこと? はっきり言いなさいよっ……!」


 未だ整理のつかない様子のミオメルを前に、リサーナは逡巡(しゅんじゅん)する。彼女に真実を告げるべきか。それは躊躇(ためら)いではなく、憂慮(ゆうりょ)だった。


「この先のことをあなたが聞けば、もう戻れないわ。あなた自身の身に危険が及ぶ可能性だってある。……それでも聞ける?」


「……話しなさいよ。どうせ、師匠のマクベスとかいう騎士もあんたたちの仲間なんでしょ? 私も隠し通せるわよ、情報くらい」


「そう…………」


 言葉とは裏腹に、ミオメルの眼差しは動揺を隠し切れず揺らいでいる。だが、それでも彼女は続きを聞く意思を示している。


 それに応えるために自分はここまで来たのだと、リサーナは彼女という人を確かめるようにミオメルを見詰め返し……そして。


「ルクス様は……紋章を宿して生まれたの。────預言の勇者の、紋章を」


「は……? あいつが……勇者……? つまりアルメインと同じってこと……?」


「……いいえ。そうではないの」


「ああもう、わけわかんない……遠回しじゃなくて、包み隠さず言ってっ!」


 理解が及ばぬミオメルはその声を荒げる。胸の騒めきが、警鐘(けいしょう)を鳴らすように心音を加速させる。


 だが聞かずにはいられない。魅入(みい)られるようにして続きへと(かたむ)けるそれは……定められた、必然。



「……アルも、ミナカ様も。聖教の掲げる四人の勇者は偽りなの。ルクス……彼こそが────本物の預言の勇者なのよ」



 斯くてリサーナから告げられる────予想を遥かに凌駕(りょうが)する真実の数々。


 言葉を失い……啞然(あぜん)とするミオメルに。ただそっと、彼女は語り続けた。


 知られざる聖教の闇、魔皇の子息……亡国の皇子。


 この日。彼女の(つむ)ぐ言葉は──ミオメル・イルファンの人生を、大きく左右することとなるのだった。






次回の更新は1月16日の21時を予定しています。


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