第二話 旅路‐⑥
新年あけましておめでとうございます。
今年も投稿を続けていきますので、ご一読いただけますと幸いです。
ヴィクスフォートを抜けた先──。カレーナとシュダインに挟まれるようにして、リサーナは貴族区手前の開けた場所へと連れられていた。密集した建物群から離れたそこは簡素な庭園になっており、芝生が一面に広がる開放的な空間だ。
カレーナ……カムチュスタ公爵家の所有地だろうか。人目が薄まる静けさは、逃げ場を失ったことを暗示している。
仔細は問われていないが……港での行動を監視されていたのだろう。二人の出立を見送って早々、厄介な者たちに見つかってしまったと、リサーナは嘆息した。
「……それで、あなたたちの気が済むように私は何をすれば良いのかしら?」
「よくもまぁそんな言葉が出てきますこと。わたくし、見ておりましたのよ? 港でのあなた。それから男。そして……勇者ミナカの姿を」
「…………」
理に適った正論にどう切り返すべきか、思案を巡らせる。捲し立てられた言葉は、何れも弁明の余地が介さないものだった。
「聖堂に穢れを残さず──お嬢様は寛大な御方です。素直に腹の内を言えば、悪いようには致しません」
「大聖堂に忍び込んだと思いきや、今度は勇者と奸計を企てているなんて、大したものですわ。昨晩、貴女に助け舟を出したのも勇者ミナカですわね? あぁ、貴女に目をつけて本当に良かったですわ」
「そう。良かったわね。それで?」
「わたくし、言いましてよ? ……港での貴女を見ていたと」
一拍置いて。手鏡をリサーナへ向け、高らかに糾弾する。
「勇者と言えど、不法出港に手を貸した貴女は立派な咎人。私刑と罵られようが、総ては民のためお父様のため……これからワタクシは正義を執行いたしますわっ! お〜ほっほっ!」
高飛車に笑うカレーナは、爛々と瞳に炎を宿して手鏡を掲げる。
隣立つシュダインもまた──重心を沈ませ、交戦の構えを取った。
「っ……!」
「さぁっ! シュダイン……やっておしまいっ!」
「はい────お嬢様……『イグニスッ!』」
主の号令に地を蹴り上げたシュダインが右手を前方へ翳し、疾駆と共に祈術を発現させる。
斯くして、猶予も与えられない焦眉の状況下で。戦いの火蓋は、切って捨てられた────。
一方──巡礼祭から一日が過ぎて尚、未だ熱気が治まる気配のない商業区をミオメルとウルハは駆けていた。その脚で石畳を蹴り上げながら、ミオメルの胸中には複雑な感情が絡みつく。
止めなければならない。されど正邪はもう、誤らない。誤ってはいけない。まずは彼女を問い質す──話はそれからだ。
と、そう決意を固めた刹那に──街の喧騒を裂くように、祈術が織り成すけたたましい爆発音が轟いた。どよめく人々が一斉に視線を向けた先。方角は──リサーナたちが姿を消した先と、一致していた。
「ミ、ミオちゃん! この音……!」
「……っ! 急ぐわよ、ウルハ!」
「う、うん……っ! でも……!」
一方のウルハも同様に。彼らがミナカを攫ったとしても……リサーナとカイナを信じたいと思う気持ちが拭えずにいた。
行動の理由、真意。闇雲に背中を追う自身には分からない……でも、何かあるはずだと。
「言いたいことはわかってる。それも全部、直接聞けば良いわ……!」
「うん……っ!」
加速する鼓動と共に、彼女のもとへ地を蹴り上げる。
鬼が出るか蛇が出るか。自分たちが何処へ向かい、彼らは何処へ行くのか。
正義に彷徨う少女たちは、荒波に奔走するように……その脚で、駆けていった。
轟音──。炎と炎が激突する、炎舞。貴族区の一角にて、全霊を乗せた攻防が繰り広げられていた。祈術の余波により周囲の地盤は歪み、整然としていた芝生は見る影もなく焦土と化している。
だが、戦況は拮抗とは言い難い──一方的なものだった。力量の差は明白。実力が顕著に示され、祈導書を自在に操るリサーナの前に、シュダインは終始防戦を強いられていた。
「シュダイン……! しっかりしなさいっ!」
「っ……祈導書と言い、その御業……。やはり、貴女は只者ではないようだ」
右腕を押さえたシュダインが耐えきれずその場に膝をつくと、カレーナは顔色を変えて駆け寄る。
対するリサーナはその余裕を見せるように、毅然として立っていた。
「……気は済んだかしら」
「お嬢様……ぐっ……力及ばず申し訳ありません。しかし……彼女は、強い……!」
「いいえ、いいえっ! 貴方は十分立派よ……! 情けないのは、貴方の背中に隠れてばかりのわたくしの方ですわっ……!」
寄り添い合う二人を前に、なぜ自分が追い立てる側になっているのか──問い質したいところだったが、茶番に付き合う寸暇もない。
リサーナは吐き捨てるように言葉を残し、その踵を返した。
「これ以上私に関わらないで。私も、あなたたちにはもう何も言わないわ。……さようなら」
「お、お待ちなさいッ! ……ここからはわたくしも戦列に加わってみせますわ……!」
「お嬢様……! しかし……!」
「…………いつまでも後ろで指を咥えているのは、このカレーナの名が廃れますの。名誉に、お父様に恥じない令嬢となる為に……!」
「……承知いたしました」
「さぁ……行きますわよ……!」
カレーナが手鏡を懐に納め、前方へと右手を翳した先。掌に広がるは、黄蘗に輝く祈術陣────。
「はい、お嬢様……っ!」
並び立つシュダインも右手を突き出し、彼女と重ねるように祈術陣を展開する。
そして溢れ出す二色の輝きに距離を取ったリサーナは、再度の応戦を余儀なくされた。
「しつこいわね……っ!」
「これで……」「終わりですわっ!」
「「『ルシオラッ!』『イグニートッ!』」」
重なり合う呼吸が一つとなり、炎楼と雷降の祈術が融合する。
二者一対の祈りから生まれ出でるは──藤黄の稲妻に湧き立つ、銀朱の炎渦。
互いを迎合するように交差する二つの祈術は、さながら舞踏のよう天に昇ると──その威力は重畳のものと成って、リサーナへと降り注いだ。
「さぁ、ご覧なさい……! これが、レディ・カレーナ・カムテュスタの祈術ですわっ……!」
次回の更新は1月7日の21時を予定しています。
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