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アガスティア  作者: 常若
第二章 青の勇者
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第二話 旅路‐④

本日は短めになります。

 それからしばらくして。空が黄昏(たそがれ)に染まる頃──旅の目的を進めるため、ルクスとミナカは幼気(いたいけ)な子供たちに囲まれ、パナケア園での出立を迎えていた。


 甘い木の香りを感じる玄関で、別れを告げる二人。ヨルノはまだ眠っているのか、その場に姿を見せていない。


「ミナカさま、さようなら!」「またきてね!」「あ……おにいちゃんも、またきてね!」


「うんっ! 必ずまた来るね! みんなも怪我せず、元気でね!」


 ミナカは(ひざ)を折り、子供たちと視線を合わせて笑顔で触れ合っている。


 勇者という肩書がなくとも、彼女は多くの人と心を通わせ、絆を紡いでいけるのだろうと……そう、ミナカの柔らかい面差(おもざし)にルクスは想う。


「ほらっ……! ルクスくんもっ……!」


「あ、ああ……。また、来る」


「ぜ、ぜってい来てね……おにいちゃん……!」


 子供たちは無愛想(ぶあいそう)なルクスにどこか距離をとっていたが……それでも、先生を助けてくれた優しい青年と、いつかまた会える日を心から望んでいた。


 そして…………。


「…………トト」


「まだ、悩みは消えないっすけど……ヨルノ先生を不安にさせないようにしてみるっす。だから……僕たちのこと、憶えておいてほしいっす」


 そう強く語るトトの面持ちを見て、ミナカは目を合わせる。そして、まだ小さく……それでいて少し大人びた彼の手を、包むように握り締める。


「うん、忘れないよ。わたしも、彼も」


「トト。もしパナケア園が取り壊されたその時は、リリタナと言う村を目指せ。俺の名前を言えば、(こころよ)く迎え入れてくれる」


「……? う、うん、わかったっす……」


「ルクスくん……」


「もっとも……そうならないのが一番だ。……元気でな、トト」


 困惑するトトだったが、やがてぎこちない笑顔を浮かべて、去り行く彼らへ手を振った。


 そして二人は多くの子供たちに見送られながら、穏やかな時間の流れるパナケア園を後にするのだった。







「……ルクスさんっ! 待ってください……っ! お願いがあります!」


 丘陵の草原にて。ルクスとミナカがアトロに乗り込み、翼を空へと羽搏(はばた)かせようとした──その時。眠りから覚めたヨルノがパナケア園を飛び出し、切迫(せっぱく)した声でルクスを呼び止める。


 必死に駆けつけ、荒い息遣(いきづか)いを整えた後、彼は顔をあげた。そこに先ほどまでの苦悩の表情はなく、信念の宿った晴れやかな瞳をしていた。


「世界には……まだ大勢の恵まれない子どもたちがいます。どうかマーレ聖教会に……人々に、その声を届けてもらえませんか……! 僕ももう少し、頑張ってみます……!」


 その言葉に、二人は自然と笑みを(ほころ)ばせる。


 行く末は定かではない。けれど──正しい道を選んでいたと。正しい道を進んでみせると。ヨルノが透徹(とうてつ)とした表情で告げる、決意の宣誓(せんせい)だった。


 ()くてルクスは神霊石(しんれいせき)にエナを注ぎ、駆動輪に風を吹かせる。そしてアトロが動き出す……その去り際に。


「わかった。……諦めるなよ、ヨルノ」


「はい……っ! ミナカ様も、ありがとうございました……!」


「ヨルノさん、頑張ってね……!」


「……受け取れ。アンタの父、タルムがこの小型艇の代金から値引いてくれた分だ。役立たせろ」


 ルクスはそう言って懐から布の小袋を取り出すと、無造作にヨルノへ放る。


 慌てて彼が受け取ると、その中にはアトロの造船を依頼した際に、タルムの温情によって浮いた聖金貨十枚が入っていた。


「こ、こんなに……! 良いんですか……!?」


「いいも何もない。……頑張れよ」


「本当に……本当にありがとうございました…………っ!」


 嚙み締めるように小袋を胸に抱え、感激の落涙を零すヨルノ。だがこれで総てが解決した訳ではない。ここから先も、彼自身の戦いは続いていく。


 ────丘陵の草原に、暖かい風が吹き抜ける。


 心地の良い陽射しを放つ青空へ向け、孤児院の子供たち……そしてヨルノが手を振って見送る姿を背に、アトロは羽搏いていった。








「ねぇ。聖金貨……その気だったなら、はじめから意地悪せずに渡しておけばよかったのに」


「若い時の苦労は買ってでもしろ。だが備えがあるに越したことはない……あの金を生んだ、ヨルノの父タルムの意思に(なら)っただけだ」


「ほんっと、素直じゃないよね、君」


 言葉とは裏腹に……パナケア園を訪れ、そしてヨルノの名を聞いた時から、ルクスは渡すつもりでいた。


 だが、単に見知らぬ人からの援助に甘えるだけではヨルノは成長しないだろう。それは、彼を想うが(ゆえ)の行動だった。


「ヨルノさん、上手くやっていけるかな」


「さあな。だが……信心深い聖職者を見つけたら、孤児院の支援も頼んでみよう」


「ルクスくん………………」


 彼女は顔を綻ばせる。それは彼の優しさに触れたから。彼を理解したい心が、満たされるから。


 彼という人を知りたい。そうすればきっと──迎えるであろう結末にも、納得できるから。


「…………なんだ」


「もう少し、口調治そうよ」


「……余計なお世話だ」


 一つ、ルクスは誤魔化すように気を吐く。彼の顔もまた、僅かに綻ばせている。


 翡翠に輝くセクトルは、ゆっくりと……そして着実に、その翼を更に伸ばしていった。






次回の更新は12月26日の21時を予定しています。


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