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アガスティア  作者: 常若
第二章 青の勇者
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第一話 邂逅‐⑪

 息を切らせながら居住区を駆けること、しばらく。カレーナたちの気配が遠退(とおの)く中、リサーナは白外套(しろがいとう)の人物に導かれ、商業区の片隅(かたすみ)──薄灯(うすあか)りの照らす路地まで逃げ延びていた。


 現在、足を止めた二人は倒れ込むように揃って尻餅(しりもち)をつき、上がった息を整えている。


「はぁ……! はぁ……! もう、大丈夫みたい……だね」


「……え、ええ……そのよう、ね……」


 ふと、リサーナは隣に座り込む白外套の人物へ視線を向ける。


 あの状況で自身を助けた理由は何か。外套を目深(まぶか)に被る彼女の口元は、わずかに(ゆる)んでいた。


「ふぅ……君、カイナくんの……お姉さん? ……だよね」


「っ──その名を、どこで聞いたのかしら」


「待って待って、わたし、戦うつもりないから! ほらっ!」


 リサーナが鋭い剣幕で身を乗り出すと、彼女は誤解だと言わんばかりに両手を振って制する。


 怪訝(けげん)な視線に短く息を()み……(たちま)ち彼女は、羽織った外套を勢いよく脱ぎ捨てた。


 衣擦(きぬず)れの音がしんと響き────そしてそこには、()()()()()の顔があった。


「あっ……あなた…………どうして…………」


「えへへ……実は偶然、大聖堂で君の姿が目に入ったの。それで少し話してみたくて、尾行してたら例の二人に迫られてる君を見つけた……って感じだよ」


 人差し指で頬を掻きながら、ぎこちない笑みで語る彼女。そう──リサーナに助け舟を出し、今こうして目の前にいる彼女は、()()()()()()()()()()()だった。


 まるで自身の存在を知っているかのような口ぶりに、困惑を(にじ)ませるリサーナ。ミナカの意図に思案を巡らせるが、その答えは分からないままだ。


 今、この場にルクスはいない。まだその時ではないと──速まる鼓動を抑え込む。


「そう……。けれど、どうして私と彼のことを知っているのかしら」


「ええっと……二人のことはミオメルちゃんから聞いたの。あと……わたしの命を狙ってることも、知ってるよ」


「なっ────!?」


 ミオメル・イルファン。不意に挙がったその名前に加え、こちらの目的が漏れている……。一体全体、理解が追い付かないリサーナは、その不気味さに眉を(ひそ)める。


「ちょっと待って、どうしてミオメルさんが……。まさか……いいえ、彼が話していたのはそういう訳ね……」


 だが──昨夜のルクスとの会話をビースに(きり)が晴れていき……やがて一つの答えに辿り着く。恐らく彼はミオメルと(はち)合わせた際、身の内を明かしてしまったのだろう。


 ミオメルの一件を話していたルクスの様子が、煮え切らなかったことも()に落ちた。


「…………? とにかくっ! わたし、戦いに来たわけじゃないからっ」


「はぁ……ええ。……その……さっきはありがとう。助かったわ」


「ううん、どういたしましてっ! けど、あの二人にも困ったものだよね……!」


 外套を脱ぎ捨てたミナカが、両膝(りょうひざ)を抱えた安座(あんざ)で可愛らしい仕草をみせる。


 そんな彼女に一瞬、己の取るべき行動に迷いが生まれた。隣に身を寄せているのは、勇者のような堅苦しい者ではない……一人の少女だった。


「……さっきの二人は水都でも有名でね? ヒュレッセン公ニック・カムテュスタの愛娘である、レディ・カレーナ・カムテュスタとその執事シュダイン。正義感の強いお嬢様なんだけど、咎人を捕まえて水都を守るって躍起(やっき)になってるの」


 腰を下ろしたまま、改めてリサーナは厄介な連中に絡まれたものだと、肩を(すく)めて嘆息(たんそく)する。


 そして心做(こころな)しか──隣に座る彼女に親近感を覚え、表情は穏やかなものへ変わっていた。


「そうね……迷惑な話だわ。とは言え、その嗅覚(きゅうかく)も伊達ではないようだけれど」


「確かに……あはは」


 くすくすと笑うミナカに、再び向き直る。彼女はこちらの様子に首を(かし)げ、飄々(ひょうひょう)としていたが……息を整えたリサーナは、話を戻して本題を(たず)ねる。


「それで。さっき言ったこと……私と話をしたいと言っていたわね。自分の命を狙う者に身を投げてまで……なぜ?」


「……うん。君と……リサーナちゃんと話してみたいって言うのは、どんな人かなって言うただの好奇心だよ。でも、それだけじゃないのもホント。もう一度カイナくんと話がしたいの。彼がどうしてアルメインくんを……勇者を狙うのか。そして、彼自身のことも知りたいの」


「…………はぁ……。結局のところ、私を助けた見返りにそれを望むって訳ね」


 微かに視線を落としたミナカが、目元を曇らせる。達観、俯瞰(ふかん)、いずれでもない遠い目で。


 だから、カレーナたちとの(いさか)いに、初めからの介入はしなかった。なるほど、(あなど)れない少女だった。


「うん……そういうこと。どうかな」


 リサーナはミナカの顔を真っ直ぐ見据(みす)えたまま、(しば)逡巡(しゅんじゅん)する。ルクスを誘い出す罠かもしれない以上、突き放すのが当然と言えたが……彼女には一つ貸しが出来てしまった。それに、自身が(そば)で付いていれば問題はないだろうと……ミナカの頼みを承諾(しょうだく)することを選ぶ。


 そして、願わくば────────。


「……わかったわ。なら、早いほうが良いわ。今から行くわよ」


「えっ!? い、今から!? ちょ、ちょっと……リサーナちゃんっ!」


 彼女の真意は(はか)れない。聖教の計略(けいりゃく)であれば、私と彼の(みち)は終わるかもしれない。けれどそれ以上に……私は彼女に、何かを()()しているのかもしれない。


 ()くして慌てふためく勇者を横目に早々に立ち上がると、自身が身を寄せている宿へと踏み出した。


 一方のミナカは予想を外れた急展開に心の準備が整わず、心臓の鼓動が早まるのを感じるが──ひとつ深呼吸を挟み、リサーナの背を追っていくのだった。




次回の更新は12月2日の21時を予定しています。


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