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アガスティア  作者: 常若
第二章 青の勇者
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第零話 幕間‐⑨

本日は少し短めになります。


 聖都を()ち──雲を()き分けて飛翔すること、幾許(いくばく)かの時間が流れた頃。


 久方ぶりの特務ということもあり、アルドールの船内には高揚(こうよう)と、不安が(ただよ)っていた。各員は操縦室の座席に腰を下ろしたまま……硝子窓(がらすまど)の向こう側に映る、空の景色を眺めている。


 しばらくして、視界の先に他のセクトルを(とら)えたミオメルが、今更ながらのようにぽつりと口を開いた。


「そう言えば、アルドールはアルメインのために用意された船な訳でしょ? 副騎士団長はああ言ってたけど……そのままあたしたちが使っちゃって良いわけ? 正直に言うと……あたしはあいつと一緒に眠らせてあげたい」


「んなっ! そんなことを気にしているのかミオメルくんっ! ……とはいえね、その通りでもあるんだよね。実のところ……葬儀を行ったとは言え、俺もアルメイン殿下の船を使うのは申し訳ないのなんの……」


「そ、そうなんですか……? 気にしていないのかと思っていました……」


 オイゲンの物言いに、ウルハはきょとんとしたまま怪訝(けげん)な表情を浮かべる。


 それは尊敬(ゆえ)か、忠義(ゆえ)か──(ある)いは、同じ騎士としての情なのか。


 彼の中にもまた、殿下を想う心があるのだろうか。


「当ったり前じゃないの〜っ! 失礼しちゃうわまったくっ! ……けど、特務隊は彼の遺志(いし)も受け継いで務めると決めた。そこはしっかりね。アルドール……ここにはアルメイン殿下の分も背負っていると……そういう意味もあるわけさ」


「アルくんの、遺志……」


「……それもそうね。あんたも、たまには良いこと言うじゃない」


「たまにぃ? ……おっほん。ま、僕は善の心で動いているからねっ!」


「……()()…………アルは、まだ………まだ………」


 オイゲンの告白に、(なご)やかな笑みが一同の間に広がる。


 だが。耳に届いたその言葉に、ポツリとチルメリアが呟くと、小さく繰り返していた。


 (うつむ)いたまま……唇で(とな)え、そっと反芻(はんすう)するように。そしてその瞳には、影を(にじ)ませながら。


「ったく調子良いんだから。なんか言ってやりなさい、ウルハ!」


「わ、私っ!? あっ……で、でも、オイゲン隊長の想いも、きっとアルくんに届いてると、思います……!」


「ウルハくん……そいつぁ、この上ないことだ! 僕ちんも、後釜(あとがま)に相応しい働きはしないとな!」


 その場で颯爽(さっそう)と立ち上がり、高々と拳を突き上げるオイゲン。


 彼の芝居にミオメルは(あき)れたように溜息を吐くと、はいはいとでも言いたげな仕草で肩を(すく)ませた。


「…………はぁ、あんたとアルメインじゃ比較にもならないわよ」


「グサッ……! もう、隊長辞めようかな……」


「あら、いいんじゃない? あたしから副騎士団長に伝えといてあげるわよ」


「嘘で~すっ! ふんっ! 意地でも辞めないもんね~っ!」


 オイゲンが(わらべ)のように舌を出し、揶揄(からか)うように挑発していると──操縦席の方から、(いさ)めるような声が向けられる。


 背後からでは、彼女の表情こそ確かめることはできないが……その声音に宿る冷ややかさは、はっきりと感じ取れていた。


「……エルゴ卿、水都では領王(りょうおう)陛下への謁見(えっけん)もございます。軽率(けいそつ)な言動は控え、()()()()()お願いします」


「ジュ、ジュリちゃんまで……言われなくてもわかってますよ~だっ」


 身を乗り出して(にぎ)やかに語らう三人を前に、苦笑いを浮かべるウルハ。


 対して彼女の隣に座るチルメリアは、変わらず何かに思いを(しず)めていた。

 

「え、えーっと……チ、チルちゃんは水都に行くのはじめて?」


「む……ううん、昔……アルと一度、巡礼で行ったことがある」


「そ、そっか……アルくんと……。ごめんね、辛いこと……聞いちゃったね」


 ウルハはつい口を滑らせたと気付き、慌てて手を口に当てるも、チルメリアは首を横に振る。


「別に平気。……アルとの思い出は大切なものだから。……あの時は、ミナカ様にも色々お世話になった」


「そっか……。ミナカ様も一緒だったんだね」


「へぇ……あんた、リダマーナの勇者様とも面識があるのね。彼女、どんな人なわけ?」


「上手く言えない。でも……一言で表すなら、()()()……だと思う」


 味も素っ気もない返答に、ミオメルは目を丸くしてぽかんと口を開ける。


 無垢(むく)というか、表現が(とぼ)しいというか……そんなチルメリアに、(たちま)ち溜息を吐く。


「あんた…………」


「む……何」


「それ、まったく意味が伝わらないんだけど」


「……ミオメルも、会えばわかる」


「会えばわかるって……まぁいいわ。女の子ね、女の子」


 ミオメルが再び窓際に視線を向けた後……チルメリアは先の会話を続けるように、ウルハへ述懐(じゅっかい)する。 


「…………それに……」


「? それに……?」


「もう……私には、思い出しか残ってないから」


「……チル、ちゃん…………」


 他人の痛みを理解しようとする度に、それは偽善で(いろど)られた同情に過ぎないのだと思い知る。


 生い立ち、関係、性格、記憶。歓喜と……哀号(あいごう)


 その人が背負う()()は、その人にしか決して()()できないのだと。

 

 風を切り裂き、ただ青空を進み続けるアルドールには、(しば)静寂(せいじゃく)が訪れ──その翼は、青き(みやこ)へと向かっていった。







次話から舞台は水都へ移ります。戦闘もなく淡々としていましたが、二章はここから始まりを迎えます。


次回の更新は10月28日の21時を予定しています。

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