表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アガスティア  作者: 常若
第一章 赤の勇者
41/84

最終話 再醒‐⑦

 圧倒的なまでの──エナの暴力。吹き荒れる灼熱と()ぜる衝撃波に耐えながら、カイナは逡巡(しゅんじゅん)する。


 アルメインの忍耐力、秘匿(ひとく)されていた預言祈術の存在。見えずとも、肌で感じる──想像を絶するほどの膨大(ぼうだい)なエナの力に。


「っ……赤の、勇者…………!」


 震える両脚を二度叩き……携えた杖剣を右手に、標的を見据える。渦巻く業焔の中で──致命の傷を与えた赤の勇者の身体は、瞬く間に快癒していく。


 ただ優しく……彼を覆う(あか)(ほむら)が、爛々(らんらん)と輝いていた。


「カイナッ! 一つだけ忠告……いや、交渉だ。僕は……仲間であり、友人でもある君と、戦いたくはない。共に過ごした過去は不変だ……! そうだろうッ!?」


 心臓を貫かれたはずの彼は、以前にも増した絶大的な力を纏い……情けを投げ掛ける。


 先ほどまでの衰弱した姿は──()()()()()()()()()()()()


「まだ間に合う。君の本心を知った今なら! 一緒に活路を見出すことだって……!」


「綺麗な()(ごと)だ……アンタらしい。だが、ここから先の道に進めるのは、一人だけだッ!」


 互いの想いを交錯(こうさく)させる。仲間として、友として。認め合い、受け容れた者として。


 最初から、敵として対した者として────。


「これが僕の想いだ。だけど……君が向かってくるのなら、僕はそれに応える義務があるッ!」


 奔流(ほんりゅう)する業焔は、掌握(しょうあく)する火勢を増幅させる。どこまでも広がり続ける……想いの大渦(たいか)


「そして、君が僕を殺すと言うのならば。僕が、君を──────救済(ころ)すッ!」


 祈術陣から放たれた焔渦(えんか)が、赤く、(あか)く、(あか)く染まっていき──舞い踊りながら、勇者の身体へ収束する。


 その姿は、まさに──()()()()。揺動する業焔を全身に纏い、異邦録に描かれし魔人の如き形姿(なりすがた)で、面相を覆っている。アルメインの素顔は隠され──そこには()()()()という名の焔魔人(えんまじん)が、顕現していた。


「さぁ、いくぞ……カイナ……ッ!」


 彼の背に業焔が集い──不死鳥が如く翼が形成され、焔翼(えんよく)をはためかせて宙を翔ける。


 そして──両手に携えた大剣を(ひたい)に当てると、その剣身へエナを集結させていく。


「っ──! させるか──ッ!」


 カイルノアで目にしたアーツを防ぐため、カイナは杖剣を逆手に構え、即座に神霊石へエナを注ぐ。次の瞬間──風迅の下階祈術によって風が唸りを上げ、疾風の鎌鼬(かまいたち)となってアルメインを襲うが……その一撃は最早、彼にとって無力に等しかった。


 一帯を支配する膨大な焔渦の中で、風の刃による攻撃は()えなく霧散する。圧倒的な力の前では、自身の総てが無力にも思えるほど……カイナの眼前に広がる世界は、赤に染まっていた。


「…………もう、無駄だ。君の攻撃は……僕には届かない」


 エナが集い、大剣は形状を変化させていく。より()()に、より()()()に、より()()()に。(おびただ)しいまでの業焔を纏う大剣の(つば)には、(てら)うように預言者マーレの紋章を刻んだ。


 たとえ、造られた偽りの存在だとしても──ここにいる自身は、()()なのだと。


「くっ──これが聖術の力……っ! いや……それ以上に、聖教は一体……!」


「はぁああああああああああああああああああああッ!」


 アルメインは焔翼で風を裂き──舞い踊るように旋回して、大剣を水平に薙ぎ払った。


 ()()()()()()。その一撃で──オルドバーン城の総てが、朱き焔で覆い尽くされる。


 蹂躙された城内は崩れ果て、天井が音を立てて瓦解する──まるで、()()()のように。


 そして、彼が大剣を振り下ろすと──集約された業焔の斬撃が、大地を鳴動(めいどう)させる衝撃波を巻き起こしながら、神速でカイナへと飛来した。


「ッ──! 『リディシオッ!』」


 押し寄せる熱波に思考の猶予(ゆうよ)もなく、右手を前方へ(かざ)して祈術陣を展開する。瞬く間に風迅の中階祈術を発現させ、翡翠に輝く旋風の波動を放つが……業焔の前では空虚(くうきょ)にも、翠風は(かすみ)のように呑み込まれていく。


「残念だが、君に勝利の()はない……再び僕に、血を流させることさえ……ッ!」


 絶大な威力を誇る斬撃が、刹那に叩き込まれ──天地を()がす熱波の渦と化して、カイナを喰らい尽くす。


「ぐぅ──ッ! ああああああああああッ!」


 灼熱に身体が押し潰される中、反射的に神霊石へエナを込める。自身を巻き込むように足元へ祈術を放つと、発現した突風がカイナを後方へ吹き飛ばす。


 寸前で致命を(まぬが)れ……傷を負いながらも、焔渦から脱した。


「はぁ……はぁ……ッ! はぁ……ぐぅ……! なんて、威力だ……!」


 恐るべき一振りに驚愕し、アルメインへ視線を向ける。()()……既に彼の姿は、()()()()()()()()()()()


 悪寒が走るカイナは左手を前方へ翳し、祈術陣を展開する。


「っ────!」「こっちだ……!」


 神速の身で隙を突き、カイナへ迫ると──アルメインは一縷(いちる)躊躇(ちゅうちょ)もなく、大剣を振り下ろした。


「くそっ──『ボルグッ!』」


 目睫(もくしょう)(かん)に刃が迫るが、カイナは寸前に防護の下階祈術を発現させ、体躯を覆う防護壁を創り出す。


 ()()()──絶大な勇者の前では、大海の一滴が如く小さき抵抗。灼熱を帯びた一撃に防護壁は一瞬にして砕け散り、焔の剣がカイナへ襲来した。


「グハッ────!」


 杖剣を盾に辛うじて直撃は防ぐも、紅蓮を前に剣身は溶け落ち、圧倒的な怪力に吹き飛ばされる。目も(くら)む速度で石壁に衝突し、軋む全身に激痛が走る──()()()()()()()()だった。


 再三──アルメインは宙へ舞い上がり、追撃の大剣を薙ぎ払う。初撃同様、業焔の斬撃がカイナへと飛来した。


「うっ──くそっ────!」


 ()()ない連撃に、カイナは逃げに(てっ)することしか出来なかった。杖剣を逆手に構え、神霊石へエナを注ぐ。瞬時に足元に疾風を生み出すと、一息に右へと飛び退いた。


 一拍を置いて。天使が如く焔翼を揺らして佇むアルメインが、憐憫(れんびん)を掛ける。


「君を(うしな)いたくはない……でも。もう後戻りができないのなら……死ぬのはカイナ、君だッ!」


 左手を天へと翳し──上空に祈術陣を展開すると、莫大(ばくだい)なエナを宿した陣が形成されていく。


「君に合わせて、祈術で片を付けよう……その上で、敵わないと思い知るんだ……ッ!」


 迫りくる死に、カイナは目を見開く。視界の片隅に映るは……()()()()()姿()


 そうだ──まだ終わりではない。自身のため、そして彼女のためにも……ここで(やぶ)れるわけにはいかない……!


(さけ)ぶんだ……魂が…………」


 静かに(てのひら)を翳して、祈術陣を展開する。溢れ出る言葉は──愛しき故郷の残響(ざんきょう)


「この帝都に眠る、魂の怨嗟(えんさ)が……! 勇者を(ほうむ)れと……!」


 傷だらけの復讐者に(ささや)くは、この地に眠る怨念(おんねん)炯眼(けいがん)を散らした左眼には、雫が一つ。


「その声に耳を(かたむ)けている君は、逃げているだけだ! そして……」


 アルメインもまた、引導を渡す一撃を。彼のために……帝国のために。

 

 両者を救済(あした)へ導くのは、自身の使命だと。


「逃げ続けた先にあるのは……後悔だけだ──ッ! 『イグニシオン──ッ!』」


 痛罵(つうば)の叫びと共に、アルメインが炎楼の上階祈術を発現させる。



 それは(さなが)ら、()()()()()。創造されるは──上空を覆い尽くす、()()()()()()



 次の瞬間、その焔は灼滅の弾丸へと姿を変化させ──()()()()()()()となって、カイナへ降り注いだ。





各話の更新を一斉に行いましたが、内容は後書きの脱字の修正です。(21時のところ、"時"が抜けていました……)


次回の更新も明日の21時を予定しています。

☆皆さまからの評価やブックマーク、ご感想が執筆の大きな励みになります。少しでもお力添えいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ