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アガスティア  作者: 常若
第一章 赤の勇者
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第三話 歌姫‐⑧

本日は少し短めになります。

 村の(そば)にある、緑が生い茂った森林に──リオンとウルハ、そしてあたしがいた。


 目に映る二人は楽しそうに笑っている。これは……いつかの日の夢。


 かくれんぼをして遊び、鬼のあたしは見つけられないことに悔しがり、二人は勝ちを誇っていた。「ミオちゃん、探し物が下手だね」とか「ミオメルさんは審問官には向かないかも」とか散々な言われようだった。


 もう一回! と駄々をこねて再挑戦するも、結局見つけられずに負けた。


 二人はこの日のことを覚えているだろうか。あたしは……悔しいという感情と、楽しかったという情景と、在りし日の懐古(かいこ)が、この群青を記憶していた。




 目が覚めると、涼しげな風が今日という朝を歓迎していた。


 そしてあたしはこの日……このかくれんぼに、終止符を打つ決心をした。


──────────────────────────


 身支度を済ませたミオメルは、ウルハの部屋へ向かおうとした矢先──兵舎の異様な(ざわ)めきに足を止める。(たちま)ち慌てた様子で横を通り過ぎた女性騎士を呼び止め、問い掛けた。


「ねぇ、ちょっと……何かあったの?」


「何って、聞いてない? 三夜連続の誘拐で──────」


 続く言葉にミオメルが目を見開く。悪寒が走る彼女の心に──陰りが差し始めた。




 廊下を歩きながら、先ほどの騎士の言葉を想起する。昨晩、三夜連続の誘拐が起きた。


 聖都守護隊のマグエル隊が大打撃を受け、重傷者多数。幸い死者は出ていないが、騎士団は急遽特別分隊を結成し、今朝より多くの騎士が招集されていた。


「ウルハ。起きてる?」


「ミ、ミオちゃん。おはよう」


 部屋の叩き金を鳴らすと、程なく表情を曇らせたウルハが姿を見せ、中へと招き入れる。


「朝ね、礼拝堂にお祈りに行った時に耳に挟んだんだけど……。昨晩、聖都守護隊の人がたくさん救護隊に運ばれたって聞いたよ」


「あたしも聞いた。……また、誘拐だって」


 ミオメルは俯くと、この言葉をウルハに伝えるべきか逡巡(しゅんじゅん)する。……確信はない。確証もない。

 可能性の話を彼女に伝えるべきか。果てに心の蝋燭(ろうそく)は揺らぎ、粛々(しゅくしゅく)と語った。


「あたし……さ。咎人の正体、この人かもって人がいるんだ」


「え、ええっ!? き、昨日はそんなこと言ってなかったよね?」


 虚を突かれたウルハは、戸惑いと共に息を呑む。当然の反応だったが……ミオメルは後悔した。


「けど、まだ証拠もないから。あくまで予想ってだけよ。でも……その人が咎人なら……」


 人差し指で頬を掻きながら、何の気なしを(よそお)った。

 だが、徐々に瞳は沈んでいき……束の間の沈黙を経て、彼女は決断する。


「やっぱり、この続きは自信が持ててから話すことにするわ。……少し街に出てくる」


「う、うん……。手伝えることがあったら言ってね。あ、今日もアミークスには行くよね?」


「ありがと。もちろんアミークスにも行くわ。じゃ、またいつもの時間に」


「うん…………」


 部屋を出ていくミオメルの後ろ姿に、ウルハがどこか物寂しさを覚える。

 そんな姿を見たからか、何か良くないことが起こるんじゃないかと──そう悪い予感がしてならなかった。




 ウルハの部屋を後にしたミオメルは、人を探して本部内を歩いていた。朝から喧騒(けんそう)が止まない本部内に影響されてか、足取りは焦燥に駆られ、固執(こしつ)しがちな思考が頭から離れない。


 探し物が下手なあたしでも……かくれんぼの鬼役が下手なあたしでも。一度勘付けば、嫌でもその答えが出てしまう。頭の中で散らばっていた点と点が線で繋がってしまった。けれどその答えが間違いで、杞憂(きゆう)に終われば、あたしが鈍臭いだけで済む。



 どうか──どうかリアスティーデ様。主神と呼ばれる存在が本当にいるのなら、今度こそ────。



 自身で確かめる(すべ)は一つ。彼が次にその場を離れた時。その時が答え合わせになる。その前に、あの人のもとへ言って話をつけなきゃ。もしもの時は────あたしがケリをつけるんだ。



 

 刻限は僅か。また一つ運命の歯車が動き出す。瞳に覚悟を宿した彼女は、その足取りを一層早くする。


 そして──歌姫の大舞台である祭儀の日もまた、すぐそこまで近づいていた。


次話より第三話は終幕へと向かっていきます。

引き続きお楽しみいただけますと幸いです。


次回の更新も明日の21時を予定しています。

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