第三話 歌姫‐②
今夜は二話投稿になります。
その晩──。聖都商業区の中でも、取り分け一流の名店が建ち並ぶプリムス通り。コーレルム隊はその通りにある、餐館アロへと食事に訪れていた。
「それじゃあみんな、入団早々だったが、ここまで付いて来てくれてありがとう。これからも頼りにしている。今日はゆっくり疲れを取ってくれ、フェリクス・オムニア!」
「「「「「フェリクス・オムニア!」」」」」
円卓を囲う六人が表情を明るく嬉々としてグラスを掲げると、透き通った音が部屋に響く。六人というのも、マリベルから急遽私用があると断りが入ったため、彼女は欠席となっていた。
「しっかしまぁ綺麗な部屋ね。あたしこんな所で食事なんて初めて」
煌びやかな装飾に、各国の名産素材を使用した高級家具。王家の花である真紅のダリアが印象強く、広々として開放的な空間であるここは、所謂王室専用の部屋だった。
「はむっ……はむっ……アルは……はむっ……小さい頃からここが好きだった」
何の気なしに並べられた高級料理を頬張ると、満足げに頷くチルメリア。
昨晩の祝宴会よりも更に格式の高い料理の数々には、独特な味付けや素材の風味を楽しむ物が用意されている。
「聖都でこの待遇……。王国での姿は想像もつかないわね」
「王国でのアルくんはどんな感じなの?」
「あはは……。これまで殆ど聖都で暮らしてきたからね。けど……向こうでも、あまり変わらないんじゃないかな」
「……これがアルメインにとっての日常、か」
「そうよね、王子様だものも。もう何も言わないわ……あ〜美味し〜!」
数々の美食を堪能するチルメリアに釣られたミオメルは、料理を口へと運ぶ。そうして一言話しては、また一口と──止まる気配を見せていない。
何かとお喋りな彼女も、高級料理の誘惑には抗えなかった。
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「美味しかったね、ミオちゃん……!」「まぁまぁね、まぁまぁ!」
「カイナ、口にソースが付いてるわ」「あ、あぁ……ありがとう、姉さん」
一行が賑々しい歓談を楽しみ、食事を終えた頃。部屋の叩き金が鳴ると、餐館の館主が入室する。
「お楽しみのところ失礼いたします、殿下。今夜は特別な食事とのことで……催事として来賓の方をご用意しております。お食事が一段落した際に、また御声掛けください」
予期せぬ館主の計らいに、一同は和やかな空気に包まれる。
時間的にも好都合だったため、アルメインはそのまま任せることにした。
「そうか、ありがとう。では今から頼んでもいいかい?」
「承知いたしました。それではお呼びいたしますので、今しばらくお待ち下さい」
しばらくして、館主が再び叩き金を鳴らして部屋へ姿を現す。その傍らには、来賓の姿もあった。
館主はアルメインに深々と一礼すると、案内を終えて静かに部屋を後にする。
そして──一行の座る円卓の前へと、一人の来賓が歩みを進めた。
「今夜、催事の歌唱を披露させていただきます、リオン・エイプルです。どうぞよろしくお願いいたします」
桔梗色の髪を靡かせた美しき女性……なんと催事の来賓は、歌姫リオンだった。
彼女はウルハの驚く声に微笑み返すと、煌びやかな衣装の裾を持ち、アルメインへ一礼する。
「リ、リオンちゃんっ!?」
「お会いできて光栄です、殿下」
「これは驚いたな! ちょうど今朝、君の話をしていたんだ。僕も会えて嬉しいよ」
「まぁ……! それは本当に偶然で」
アルメインが手を差し出し、リオンと握手を交わす。
続けてチルメリア、リサーナ、カイナとも挨拶を交わすと、最後にウルハとミオメルを一瞥して、二人のもとへ歩み寄る。
「ウルハさん、ミオメルさん。……久しぶりね」
「久しぶりっ! リオンちゃん!」「ええ……久しぶり」
「でも……何でここに? 本当に偶然だ?」
「わたしも驚き。初めはアルメイン殿下がこちらの餐館で食事をされるので、是非来ていただけないかと連絡を頂いたの。まさかそこに二人までいるなんて……わたしも嬉しいわ」
話によると、催しを考案した館主の妻がリオンの愛好家だったことが奏功して、来賓に招待されたそうだ。
アルメインの名を聞いてリオンは胸が躍る気持ちになったそうだが、ウルハとミオメルが同じ隊に配属されていたことは今日初めて知ったという。
しばしの談笑を交わした後に二人は席へ戻り、リオンは部屋の一角に設けられた舞台へと上がった。
「それでは……。今から歌うのは、わたしが旅立って初めて作った曲です。多くの人に歌を届けたい……だけど途方に暮れて……そんな中訪れた村で温かく迎えていただきました。その時の想いを込めた、大切な曲です。歌わせていただきます。祈祷詩『アミキティア』」
一瞬の静寂の後──瞼を閉じて、歌姫が歌を紡ぐ。視覚や聴覚だけではない、心に入ってくる第一声の感情。何よりも優雅な────美。慈愛が籠った癒しの声は、星々が煌めく夜空に架かる一筋の彗星が如く、アルメインたちの心を虜にした。
立場、出身、性別、年齢。それらはリオンの歌声の前では皆等しく、彼女の歌に心情を照らして涙を流し、幸せを噛み締めてまた今を強く生きようと、活力で溢れさせてくれる。
彼女の歌には神秘が宿っている……そんな歌声だった。
やがて一曲目の歌が終わりを迎えると、瞳に涙を湛えた一同は感嘆の拍手をリオンへ送った。
「リオンちゃん……ぐすっ……リオンちゃん、凄く良かったよ……!」
「ああ……自然と涙が零れて……くっ……何て素敵な歌声なんだ……!」
「む……アル、大袈裟……すんっ……」
「ふふっ、みんなありがとう。……実は今日、彼も連れてきてるの。紹介させてもらえる?」
「すまない! もっと早く言ってくれれば良かったんだが、是非とも中へ入ってくれ!」
リオンが笑顔で頷くと、介助椅子に引かれた一人の青年が部屋へ入ってくる。物憂げな雰囲気を漂わせた彼は、瞼を閉じたまま挨拶をした。
「紹介するわ。ジェイク・マーカスさん。一緒に旅をしてる、わたしの彼なの」
「ジェイクです。見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。生まれながらに半身不随と盲目を患っており、このような形でのご挨拶となってしまいました。どうか私のことは気にならさず、楽しんでいただければと存じます」
彼の謝罪に一同は言葉を詰まらせるが……それは彼の真摯さと境遇に同情したものだった。
「ジェイクさん……。みんなごめんね、私が無理言って彼を連れ回してるの」
「そんなことはない。彼がいてくれるお陰であなたの歌もより美しくなる。違うかい?」
「ふふっ。ええ、そうね……ありがとう、殿下。今日はより一層素敵な歌を届けるわ」
アルメインの気の利いた言葉に空気が和む。¨愛¨……それは人を変え、人を強くするもの。
これまで多くの愛を受け歩んできた彼にとっても、最大の原動力とも呼べるものだった。
今夜は続けて〔歌姫‐③〕を投稿しています。引き続きお楽しみください。
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