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アガスティア  作者: 常若
第一章 赤の勇者
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第二話 魔獣‐①

第一話で第一章における起承転結の起が終わり、本日からは承に入ります。

 『教えに反すは罪万年』……誰もが知る、子供に()く脅し文句だ。純粋な心を持つ童子は、この言葉を胸に抱き、やがて敬虔な信徒へと育っていく。そしていつしか彼らもまた……かつて自分が導かれたように、雛鳥(ひなどり)たちに声を掛けることとなる。


 どうだろう、互いを信じて一蓮托生(いちれんたくしょう)を築けば、結果がどうであれそれがきっと──一番美しいのではないだろうか。


──────────────────────────


「なっ、なんなの……このセクトル……信じらんない……」


「すっ、凄い立派だね……オルビオンに乗るのは初めてだけど、ちょっとびっくり……」


「このセクトルはオルビオンの中でも、アルメインのために造られた特注品よ」


「あはは……頼んだ覚えはないんだけどね……」


 翌朝。当初の目的を果たした一行は、アルドールに驚愕するミオメルとウルハを連れて、サマル村を後にする。

 昨日に村の司祭が騎士団本部へ一報していたことも奏功し、大破したセクトルは整備隊が回収に来るだろうとのことだった。


 村を発つ別れ際──信心深く祈りを捧げる人、別れを惜しみ手を振る人、涙を浮かべる人……皆に別れを告げ、秩序の旗印(はたじるし)を掲げたアルドールは、純白の翼を広げて飛び立つのだった。


「皆さん、随分ご活躍されたんですね……つゆ知らず寝てましたけど!」


「それで良いさ。万が一、マリーに怪我でもあったら大変だ」


「で、殿下ぁ~。私も殿下のご活躍をこの目で見たかったですぅ!」


 操縦席から響き渡るマリベルの嘆きを背に乗せて、勝利の凱旋艇(がいせんてい)は空を駆ける。


 帰路の途上、ミオメルとウルハは終始アルドール内の探索に勤しみ、その表情を絶えず豊かに変えていた。


──────────────────────────


 数刻後────。聖教騎士団本部の発着場へと帰還すると、待ち侘びていた様子のカイザックが満面の笑みでコーレルム隊を出迎える。


 アルメインの希望を()んでのことか、その語り口は従者ではなく、副騎士団長としてのものだった。


「よくやってくれた、諸君。早朝にサマル村の司祭からも便りが届いていた。粗方の事情は把握しているつもりだ。……二人も、よく奮闘したな」


 カイザックがミオメルとウルハの二人を労うと、その言葉に彼女たちも表情を(ほころ)ばせる。


「おじさん、よくわかってるわね! どこぞの頑固者にも見習ってほしいわ」


「ミ、ミオちゃん……」「あははっ、おじさんは面白いな!」


 ミオメルは嘲笑(ちょうしょう)を滲ませた細い目でアルメインへ視線を向けるが、当人は彼女の物言いを引き金に、肩を震わせながらふっと噴き出すように笑っている。(たちま)ちカイザックはわざとらしい咳払いを挟むと、自身の名を告げた。


「お、おじさんか……コホン。ミオメル・イルファン。挨拶がまだだったな。副騎士団長のカイザック・ヴァルトシュタインだ」


「ぎくっ…………ふ、副騎士…………団長……?」


「む……ミオメルは学ばない」


「ふふっ、彼女のこの顔を見るのも二度目ね」


「ね、姉さん……」


 昨日とどこか似た光景を目にする一行。またしても舌禍(ぜっか)を招き、凍りつくミオメルだった。


──────────────────────────


「さて……本題に入るが、私がここにいるのは別件も兼ねていてな」


「本題……ですか?」


「そうだ。入団早々、そして帰還早々ですまないが……特務の伝令だ」


 ¨特務¨──その言葉に、コーレルム隊の一同が表情を硬くする。入団から一日。足繁(あししげ)く任に着くことは異例だとカイザックも理解している。


 だがその一方で……彼は、苦言を(てい)することができる立場ではなかった。


「浄化作戦に備えて帝国へ赴いていた調査部隊が、帝国領にて異常な発光を確認した。この件には以前より聖教が行方を追っている、反聖教組織セレニタスの幹部である()()()()()()()という男が関与している可能性がある。そこで特務隊へ伝令が下った……諸君には発光が確認された地域の調査を行ってもらう」


「原因不明の発光の調査……その地域というのは?」


「諸君も耳にしたことがあるだろう。カイルノア……通称¨灰の大地¨と呼ばれる場所だ」


 カイルノア────帝国領北西に位置する中規模の街。かつては伯爵貴族の統治のもと、民は穏やかに暮らしていたとされる。


 しかし──救世戦争の折に大地が灰色に変異した彼の地には、現在では住まう者はおろか、足を踏み入れる者すらいない……戦火の跡地となっていた。


「また、ヴァン・ルードには捕縛命令も出ている。奴だと確認でき次第、速やかに遂行(すいこう)してくれ。出発は明朝……カイルノアまでセクトルで六日ほどだ。遠征の特務になる。しっかり身体を休め、明日に備えてくれ」


「かっ、片道六日ぁ!? それに出立は明日ですってっ!? さっき帰ってきたばかりじゃない!」


「………すまない」


 片道六日にも及ぶ特務──耳を疑う長期遠征の伝令に、思わずミオメルも驚愕の声を上げた。


 一同へ謝罪の色を滲ませた委縮(いしゅく)するカイザックに、眉を(ひそ)めたリサーナが説明を要求する。


「副騎士団長閣下。なぜ新米騎士のみの……それも結成されたばかりのこの隊に?」


「……当然の疑問だな。そして……この特務は教皇聖下からの勅命だ。力になれなくて申し訳ない」


「「「「「……………………」」」」」


「勅命か……これは一本取られたな……」


「はい……殿下もどうか、ご無事で」


 マーレ聖教会教皇からの勅命。その言葉の重みを、この場の全員が理解していた。

 ただ陳謝する彼に、押し黙る一同。やがて静かに右手を胸に当て、特務を拝命する。


 翌日────。一行は胸中に微かな靄を残したまま、アルドールにその身を乗せて、聖都を出立するのだった。


──────────────────────────


「だぁあもうっ! なんなの教皇とか言うやつはっ! そんなに偉いわけっ!?」


 聖都を発ってしばらく。船室より(とどろ)くミオメルの怒号が、艦内に荒々しく反響していた。

 隣に座るウルハは彼女の怒りに理解を示しつつも、どこか諦めがついた様子で(なだ)めにかかる。


「仕方ないよ。教皇聖下って言えば騎士団長よりも上……聖教の最高権力者だから……」


「はぁ……権力権力って、力があるなら自分で行きなさいよねっ!」 


 と、再び艦内に怒号が響いたところで、彼女たちの船室に叩き金が鳴り響く。


 突然の来客に思わず顔を見合わせる二人。やがて扉越しに聞こえてきた声は、隊長のものだった。


『二人とも、取り込み中すまない、アルメインだ。準備を整えてから稽古室に来てくれ』


 アルメインはそれだけを言い残すと、扉を開けることなく静かに去っていく。


 勅命の特務に釈然としないまま、忽ちミオメルとウルハは稽古室へ向かうのだった。


第二話では、カイルノアという街を舞台に話を展開していきます。引き続きお楽しみください。


次回の更新も明日の21時を予定しています。


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