2-2. 視界の外、理の内
――語紋機による会話・情景記録――
《記録開始:2025-04-11T17:10:00+09:00》
南雲「今日の授業で披露した“無属性魔術”――あの魔術、既存理論では説明できない…あなたは何を基盤に組んだのかしら?」
璃星「……では前提を確認しましょう。先生は“世界”をどう捉えていますか?」
《空間歪度|+2.8》
南雲「え?世界は世界よ。一つの宇宙。物理学的に言うなら、三次元+時間……」
《空間歪度|-2.8》
璃星「失礼、“そう答える”と知っていました。――時間を三秒ほど巻き戻して…移動して確かめたので」
南雲「………いま、さらっと何を……」
《感情揺幅|南雲|+3.1(驚愕)》
南雲「……いえ、やはり既存の理屈じゃ説明がつかないのね」
璃星「はい。これからお話しすることも、今現在の常識ではなくなります。まず、世界の構造について――」
璃星「時間・t軸と並ぶ“可能性・p軸”、そして“元理・m軸”――この三本を加えた6次元構造が、私たち神の言う“総界(Terrestia)”です。あなた方が一つと思っている宇宙など、その束の一本にすぎません」
南雲「では、魔素とは?」
璃星「この世界とは別の“束”に存在する物質です。魔術とは、その物質の座標をこちらへ落下させ、現象を起こす行為。そして “m軸方向の位置エネルギー”を、この世界の人は魔力と呼ぶわけですね」
南雲「私も長らく、魔術について研究してきましたが、そのような概念は考えたこともありませんでした」
南雲「……ただ、そうだと考えれば…そうね…粒子が未検出なのも頷ける。こちらの物理層には存在しない、と」
《感情揺幅|南雲|+1.1(納得)》
璃星「例えるなら――」
《動作追跡|璃星|水の入った器を用意》
璃星「この世界を水の表面とします。そこで、水の表面に顔を近づけてみてください」
南雲「ええ」
《動作追跡|南雲|水面に顔を近づける》
璃星「ここでボールを落としてみると…」
《動作追跡|璃星|低い位置からボールを投入》
《情景|水面に波紋》
璃星「あなたの視界にはボールが唐突に現れ、水面に触れた瞬間、波紋が広がった――ただそれだけに見えたはずです。でもその背後には、この世界の外から落とされた力がある。これが、魔術の法則…魔法なのです」
南雲「……驚嘆しかありません。これが、“神”という存在なのね……凡庸な理解や学説では、到底届かない場所…」
《表情|璃星|+0.5(微笑)》
《感情揺幅|璃星|-0.3(寂しさ)》
南雲「では質問を変えるわ。“神”として全てを知っているあなたが、わざわざ授業へ来る理由は?」
璃星「――まだ思い出せていない何かが、この世界に眠っている。そして……」
《視線追跡|璃星|校庭の生徒群》
璃星「ここには“守りたい人間”がいる。それだけで十分です」
南雲「……もうひとつだけ、いいかしら」
璃星「ええ、どうぞ」
南雲「――あなたにとって、“この世界”とは何なの?」
《動作追跡|璃星|少し目を伏せる》
璃星「……記録でも、観測対象でもありません。ただ……いま在る。それだけで充分です」
南雲「それでも、あなたはこの教室に居る」
璃星「ええ。“いま”がある限り、私はここに居ます。
未来ではなく、過去でもなく……」
璃星「この瞬間だけが、唯一、選び取れるものだから」
南雲「……不思議ね。神に“いま”の大切さを教わるなんて」
璃星「人間は、限りある今を抱きしめられる。それは神にとって、何より眩しく、羨ましい」
《情景|夕陽が差し込み、顔が光で照らされる》
《情景|遠くで生徒の笑い声》
南雲「今日はありがとうございました」
璃星「ええ――では、いずれまた。次の選択のときに」
《表情|璃星|+0.6(微笑)》
《感情揺幅|璃星|測定不能》
《記録終了:2025-04-11T17:12:14+09:00》