表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流光と堕ちた闇  作者: Altena
1話 天流れたる地
3/42

1-3. 日常性の破れ

「今日は、いよいよ待ちに待った校外学習ですね」

 立夏の候。担任の声が高らかに響き、それに共鳴するように、生徒たちの歓喜の声が教室に響き渡る。

 その中に、浮かない顔をした少女が一人。もちろん私のことだ。


 校外学習とは、実際には校外演習とでも言うべきイベント。学校外の施設、魔物の巣(いわゆる「魔巣まそう」)や遺跡などに赴き、魔物を討伐するというもの。

 しかも、あの忌まわしき魔術実践IIの20%の成績が、これで決まるのだ。


「みなさん楽しんでいきましょう!」

 その言葉が私の心に深く刺さる。


 一行はバスに乗り込み、この町の北東に位置する山、神峯かみね山に向かった。

 ここには、古代にこの地を守るために建立されたと伝わる「神峯遺跡」がある。


 バスは市街地を抜け、扇央に広がる田園地帯を走り抜けた。

 やがて道は細くなり、舗装がところどころ割れた山道へと差し掛かる。

 ぐらぐらと激しく揺れる車内。小さな悲鳴や笑い声が交じる中、車両は慎重に登っていく。


 しばらくして、神峯山八合目――神峯神殿の前に辿り着いた。

 標高はそれほど高くない。しかし魔素は街中より少し濃く、立入禁止の看板がそこら中に直立している。


 バスを降り、徐々に騒がしさを増す集団。だが、学院長が前に出ると、場はたちまち静寂に包まれた。

「みなさん、おはようございます。学院長の――」

 壇上の老人……学院長様から、とてもありがたい(とても長い)お話を聞かせていただいた。

 ――要するに……

 ・古代に“神のお告げ”によって建てられた。

 ・祀られている神は不明。

 ・学院管理の元で研究中。

 ・安全……本当か?

 とのこと。

 最後の項目だけ疑いが晴れないが、行くことに変わりはないのだから、考えるだけ無駄だろう。

 ――もし何か起こったとしても、私たち生徒よりずっと強い“教師”が居る。


 生徒たちの拍手が止んだ頃、副学院長の指示があった。私たちは担任の誘導に従い、いよいよ、遺跡の中への移動が始まった。


 私たち1組は先頭になる。後ろのほうが良かったが、文句を言っても仕方ない。


 神殿内はかなり暗い。けれど、不思議と不快ではない。

 寧ろ、“何かが欠けている”ような、そんな静けさがあった。

 ……まるで、何かを待っている器のような。


 ――まあ、避難用の最低限の灯りしか設置されていないからかな。

 もしかしたら、日陰者の研究者たちへの配慮、かもしれないけれど。

「璃星ちゃんって光適性だったよね?先生から離れてるから暗くて……照明出せる?」

「いいよ!」

 他の生徒たちも暗く感じていたようで、私は照明魔術を展開した。魔術学院の生徒として、こうやって魔術で頼られることはとても嬉しい。

 まあ、こういう時しか頼られないんだけど……


 この神殿は、現在分かっている――というより、公表されている範囲で、30階層になるそう。150mを超える摩天楼と同等と考えると、昔の人たちの涙ぐましい努力が垣間見える。


 一行は1分ほど通路を歩き、突き当たりにやってきた。古代言語研究室A01と書かれた扉。ここが日陰……研究者たちの研究拠点。

 学年全員は入れないようで、他のクラスは、それぞれ別の研究室を見に行った。

 中は……思ったより清潔で明るい。学院のトイレよりは居心地が良い空間ではないか。


 机上には、何十冊もの本がうずたかくみ上げられている。ここは、私の思っていた研究室そのもの。

「隣には書庫もありまして、あちらには1万冊近い本が所蔵されています」

 研究員の言葉に、みんなの口から感嘆の声が漏れた。特に、魔術史に興味がある――例えば、私のような人からは、とびきり大きな感嘆と、凄まじい視線が向けられた。

 私は速やかに許可を取り、本を開いた。


「――時間ですよ」

 本を開き、研究員から熱心にお話を聞いている最中、担任に肩を叩かれた。

 もう20分経ったって?

 名残惜しいけど、ここでお別れか。


 楽しい研究室見学は、あっという間に終わった。

 楽しいことは、どうしてこれだけすぐに過ぎ去ってしまうのだろう。


「さて、次はいよいよ下層の探索をしていきましょう」

 担任の指示に従い、私たちは通路に出る。


 ――長い長い石段を降り、最深部である30階層へ。

 足が痛くなるほど降りたその地は、光が絶対に届くことのない下層部。

 昔の人々は何を意図して、これだけ深い神殿を作ったのか。

 そんなことを考えながら、私は前へ歩んだ。


 ――30階層に入ってから数分。突如、大きな地響きが私たちを襲った。

「なに!何が起こっているの!?」


 集団のあちこちから、悲鳴が聞こえる。

 私は困惑した。全員が、なぜこのような事態になっているか理解できなかった。


 理解する間もなく、崩壊する地面。

 落下する石に頭を打ち付け、私は意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ