1-2. 光の檻
私の得意属性は光。
主4属性(火・水・地・風)とは違って、副2属性(光・闇)に分類される珍しい属性。
たしか、魔術理論Iの教科書では「地平面から45度上に向かうベクトル」とか書いてあった。……まあ、だから何って感じ。
「光」って、希望や祝福の象徴みたいに思われるけど――
今の私には、それが眩しすぎて、ただ痛かった。
私は光属性が使えるせいで、光以外は全く使えない。
先生曰く、この症状は「偏性不調―Dominance Disorder」というもののよう。
光・闇の希少属性を得意とする者に多く、私の場合、光属性に過度に調節された魔力回路が、他の属性の使用を封じてしまっている。
通常は、極端な恐怖やトラウマ、信仰への傾倒など、何らかの“心因”が原因とされるらしい。けれど、私にはそのどれも思い当たらない。
むしろ、なぜ私がこれほど光に最適化されているのか、自分でも理解できない。
そういえば、入学時の魔力診断の時――
診断書には、医師が首をかしげながら書き加えたメモが残っていた。
「正常範囲を逸脱しており、先天的もしくは神聖因子の関与が疑われる」
――神聖因子? 冗談だろうか。
仮にそれが本当だったとして、私は一体何を得ているというのか。
そんな光ですら、安定して使えるのは下級の照明用魔術くらい。
中級以上の攻撃魔術なんて、まともに発動できた試しがない。
クラスメートはみんな凄い。
全員が、自分の得意属性を完璧といっていいほど使いこなしている。
安定して中級の攻撃・防御魔術を使え、それこそCランク、今から冒険者の職についても食っていけるくらいの人もいるくらい。
「璃星。出来てる?」
この子は、私のもっとも親しい友だちである詩織。
名字は確か…有栖川だったかな。
いつも下の名前でしか呼ばないから、記憶の片隅に追いやられていた。
彼女は、名門有栖川家の出で、知識科目はオールS。
実技も、小さいながら私より遥かに優れている。
性格も優しく、実技科目の時はいつも、こうやって私のことを心配してくれる。
「ええ、大丈夫……いつも通りだから……」
私には、いつも自信のない吐露しかできなかった。
才能。それを持つものに世界は優しく、持たざるものに世界は冷たい。
この学院でただ一人の実技D-ランクである私には、その言葉の意味が痛いほど理解できる。
「……私って、ここにいる意味、あるのかな」
新しい環境に触発され、思わず、今まで黙っていた本音が出てしまった。
はっとして横を見ると、悲しい顔をした少女が一人。
「なんでそんなこと言うの…?」
一度出た本音は、止めどなく溢れ続ける。
「だって……私、弱いもん。何もできないし、光属性すらまともに使えない。生きてる意味なんて……」
言葉の途中で、詩織の手が私の手を力強く握った。
「……あなたは、ちゃんと必要とされてるよ」
ぽろぽろと、涙がこぼれ落ちた。
どうしてだろう。こんな当たり前の言葉が、とても温かい。
「ここに居るみんな…少なくとも私は、あなたにはここに居てほしい、生きててほしいと思っているの…」
彼女は、涙を堪えながら話す。
「…ありがとう」
――私は、必要とされているんだ。
魔術の才がなくてどうした。学院の外には、もっと無力な人も大勢いる。
なのに、どうして自分が、世界で一番不幸みたいな面をしていたんだろう……
私には、生きる意味がある……少なくとも、私が必要とされている以上は。
そう思えたのは、今日が初めてだった。