第2話 依頼
依頼を終わらせた翌日
「すみませーん、相談いいですかー?」
女性がそう言うと奥から男が出てきた。
「なんの相談だ」
無愛想な返答に女性は動揺しつつ依頼内容を話した。
「ああっ、ええっとね、夫の事で相談があって来ました」
「浮気の調査か?」
「いえ、違います。夫が、帰ってこないんです...」
「いつ頃から?」
「2週間前からなんです」
男は少し考えてから言った
「考える、少し時間をくれ」
「わ、わかりました」
「明日には答えを出す」
「あ、ありがとうございます」
女性は不安そうに店を後にした。出ていって少しした後、男は人形にこっちへ来るように手招きをした。人形は男の背後に回り、男の脚にもたれ掛かった。
「どう思う」
「ビミョーだなー、なんとも言えないね」
「明日もう一度話を詳しく聞いた上で判断する」
「なぁ、別にさっき受けてもよかったじゃん?今は他に仕事もないんだし」
「...今は仕事する気分ではなかった。それに明日帰ってくるかもしれない」
「うわーめんどくさいだけかよ、仕事はきちんとやるもんだぞ?」
「...」
「おまけに無愛想で気の利いた事も言えやしない...」
「うるさい」
男はそう言うと脚を振るわせて人形を倒した。
「うぁあ」
倒れた人形を持ち上げて少し力強く、顔を縮めてしまった。
「仕事に戻れ」
「やめろよぉ、少しは痛いんだって」
男は手を離した。その日はもう来客はなかった。
翌日
開店前だと言うのにもう既に女性はドアの前で待っていた。おそらく帰ってこなかったのだろう。
「おい、入れてあげようぜ?」
「開店時間はまだだ」
「いいもん、開けちゃうもんね」
「......」
そう言うと人形はドアを開けてどうぞお入りくださいと言わんばかりのポーズをとった。女性は一瞬驚いていたがすぐに
「いいんですか?まだ開いてないのに」
すると人形は頷いた。男は店内に入った女性を見る事もなく窓を眺めていた。すると人形は女性に椅子を持って来た。
「あらありがとう、可愛いお手伝いさん」
人形は少し照れているようだ。そして人形は、男を急かすように足元に来て脚を揺らしている。全く動かない。非力のようだ。どうにかして男を働かせたいのだろう。
「......」
「昨日帰って来たか?」
「い、いえ帰って来ませんでした」
「いなくなった時の事を詳しく教えてくれ」
「はい」
女性は話し始めた。
どうやら夫婦2人で暮らしていて職業は研究者らしい。そして2週間帰ってこない。以前職場に泊まる時は事前に教えてくれるか、職場から連絡をくれていたそうだ。だが今回報告もない、連絡も来ていない。なので相談に来たそうだ。
「旦那は真面目な奴なんだな」
「ええ、なので本当に心配なんです。」
「...わかった、職場はどこだ?」
「!....ありがとうございます!」
「場所はこの街を出て東ににある施設です」
「少し遠いな」
男は少し考えてから言った
「明日尋ねてみる」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう言って女性は安心し、涙を流した。少し落ち着いた所で女性は店を後にした。
男は昨日と同じく手招きで人形を呼び寄せる
「お前1人で一回見てこれるか」
「ちょっと遠いなー」
「風に乗っていけないのか?」
「え!?アレやるの!?」
「できなかったか?」
「いや別に...できるけど...」
「なら調査して来てくれ」
「...怖いんだよ」
「問題ないな」
「まじかよお前嘘だろ?」
「何がだ」
「わかったよ...」
「今回行かなくてもいいと思うんだけどなぁ...」
「念の為だ、無いよりあったほうがいい」
「ごもっともです...」
夜2時頃
「これやるの久しぶりだな...」
「行ってこい」
「やっぱ行きたくない」
「ダメだ」
「わかったよ」
そう言って人形は自分に風船をくくりつけ始めた。8個程付いている。一個一個膨らまし始めた。少しずつ風邪が入っていき6個目が完成したその時、フワッと人形の体が浮き始めた。
そして全ての風船が完成した。
「じゃ、行ってくる」
「頼んだ」
どんどん高く上がっていく。そして人形は街の1番高い塔より高い所まで到達した。
(星空は綺麗だ...)
そんな事を思っていた人形だったが下で男が早く行けと言わんばかりの仕草をしていた。
(しゃーない、行くか)
人形が前に動き始めた。どうやら自分の進行方向に風を発生させている様だ。
(やべ、久しぶりだから...)
動き始めたと思ったら急加速していった。
「うあぁぁあああぁぁぁ」
情けない声が空夜に響いた。