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「そういえばさ、お母さんとお父さんっていつからの付き合いなの?幼馴染って言っても小学校も学年も違ったんだよね?」
高校2年になったばかりの長女、咲久に聞かれて部屋に昔のアルバムを取りに行ってリビングに戻った。咲久が呼んだのか次女の莉久と長男の蒼空もリビングに揃っていた。
3人とも私の持っているアルバムに好奇の視線を向けている。そんな3人が可愛くて笑ってダイニングに座った。
アルバムを開くと、夫である海斗くんと幼馴染の七菜波と渉と出会ったばかりの頃の写真が一番前に貼ってあった。
「言われなくてもお父さんって分かるね」
「顔変わんない」
「母さんは雰囲気違うな」
「私と海斗くんが初めて会ったのは小学4年生のとき」
〜〜〜〜〜
私の6歳上のお兄ちゃんと海斗くんのお姉さんの恵那ちゃんが高校1年の秋に付き合い始めた。その日は恵那ちゃんの家で同級生数人と文化祭の話し合いをしていてお兄ちゃんがどんな人と付き合ってるのか気になって運転手に頼み込んでお兄ちゃんを迎えに行く車に同乗した。
高級住宅街と言われる地区にある我が家とは違う地区にある家だったけど、恵那ちゃんの家も広い家だった。運転手がインターホンを鳴らすと、少ししてお兄ちゃんと同じ高校の制服を着た生徒たちが5人出てきた。
その中に女子生徒は3人いたけれど恵那ちゃんは誰か一瞬で分かった。ショートカットで高身長の中性的な見た目をした女子生徒。お兄ちゃんは彼女に優しい眼差しを向けていた。
窓からそっとお兄ちゃんたちの様子を観察していると、車の隣を走り過ぎた中学生くらいの男の子が鞄に付けていたストラップを落とした。
少し迷ったけれど車のドアを開けてストラップを拾った。
「あ、あの!これ、落としたよ」
「ヤベ!七菜波にバレてたら怒られてたところだった。拾ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
「なあ、この辺の子じゃないよな?どこ小?」
私が答えようとするのと同時にお兄ちゃんが運転手の佐川さんと戻ってきた。
男の子はお兄ちゃんと面識があるようで軽く挨拶を交わした。
「この子、奏介の知り合い?」
「俺の妹だよ。美久、こいつは海斗。俺の彼女の恵那の弟」
「初めまして」
「初めまして!俺は西小の5年1組の小鳥遊海斗!」
「一つしか変わらないのね。私は、菖蒲学院初等部4年3組の有馬美久です」
「よろしくな!美久!あ、明日土曜日だし一緒に遊ばね?」
「午前中はお茶のお稽古だから午後からなら」
「じゃあ、明日昼の1時にそこの公園集合!約束な!」
「うん」
海斗くんに手を振って車に乗った。
誰かと遊ぶ約束なんて初めてで少し浮かれてしまう。公園に集合って言ってたけれど、どんな遊びをするのかな。
翌日、お茶のお稽古が終わって家に帰って昼食を食べるとすぐに約束の公園へ車で送ってもらった。お父さんが私1人だと心配だからとお兄ちゃんも一緒に来ることになった。
公園の前で車を降りて、お兄ちゃんと一緒に公園に入るとブランコの近くに海斗くんと同い年くらいの男の子と女の子と恵那ちゃんがいた。
「美久!奏介!こっちだ!」
海斗くんが手招きをして、私とお兄ちゃんもそっちへ行った。
お兄ちゃんから恵那ちゃんを紹介されて、海斗くんからは七菜波と渉を紹介された。
「渉と七菜波は小4だから美久と同い年だな」
「海斗くんは2人と違う学年なのにどうして仲良しなの?」
「保育園から一緒の幼馴染だし、親同士が仲良いからな」
「いいな。私、幼馴染っていないから」
「美久も今から大人になるまでずっと仲良くしてたら幼馴染になるだろ」
海斗くんがそう言って笑うと、七菜波も渉も頷いた。会ってまだ数分しか経ってないのに、なんかこの3人とは大人になってもずっと一緒にいるような気がした。
それから日が暮れるまで色んな遊びをした。バドミントンをしたりかくれんぼをしたり、ちょっとした町探検もしたり。
日が暮れて、お迎えが車でベンチで座って休んだ。
「楽しかった。私、学校だとお友達と習い事の都合が合わないことが多いからこうして休みの日に遊んだことないの。だから海斗くん、今日は誘ってくれてありがとう。七菜波と渉も一緒に遊んでくれてありがとう」
「また絶対に遊ぼう!」
「うん!」
それからはお兄ちゃんの持っていたガラケーから恵那ちゃんを通じて海斗くんと予定を立てては休日に遊ぶようになった。
だけど、海斗くんが中学に上がって部活に入ると中々予定が合わなくなり自然と渉と七菜波と私だけで遊ぶようになった。
進級テストが1ヶ月後に迫ったある日、いつも通り迎えを待っていると近くの中学校の制服を着た女子生徒たちが前を通り過ぎていった。私はいつも帰りは車で迎えに来てもらっているけれど、あんな風に友達と喋りながら歩いて下校するのに憧れていた。
私の友達はみんな電車通学か寮生活をしていて駅と私の家は反対方向にあるせいで一緒に帰ることができない。公立中学なら、同じ方向に帰る人も少なからずいる筈だよね。
家に帰って、お父さんが帰ってくるのを待った。
いつも通り11時過ぎにお父さんは帰宅して、私はリビングに行った。お父さんとお母さんは仕事の話をしていたけれど私に気が付くと早く寝るように注意した。
「話したいことがあるの。今、いいかな?」
「休日じゃ駄目なのか?」
「うん。なるべく早く言わなきゃいけないことだから」
「座りなさい」
お父さんとお母さんと向かい合ってソファに座った。
「私、公立中学に通いたい」
「それは何故だ?」
「友達と一緒に登下校したいから。今は同じ方向の友達がいないから車の登下校なのは仕方ないけれど、私も帰り道に雑談をしながら友達と登下校したいの。だから、公立中学に通わせてください」
「………後悔しないか?」
「絶対にしない」
「分かった。進級テストは断っておく」
「ありがとう、お父さん」
お兄ちゃんは菖蒲学院の中等部まで進んで高校は公立高校へ進学した。だから私も中等部までは菖蒲学院で高校からは好きなところを選べば良いと言われていた。きっとそれは高校からなら公立へ行っても馴染みやすいからというお父さんなりの気遣いなのだろう。
翌日の朝にお父さんが電話をしてくれたらしく、昼休みに先生に確認をされて手続きをしてもらうことになった。
「美久ちゃん、先生の何の話をしていたの?」
「私、中等部には進まずに公立中学に進学することにしたから進級テストを受けないって話してたの」
「え、美久ちゃん、外部進学なの?」
「うん。あと1ヶ月もないけどそれまでよろしくね」
「うん!けど、寂しくなるわね」
それからあっという間に春休みに入った。私の学校では9割以上の生徒が内部進学をするため卒業式はなく通常の終業式があるだけだ。もちろんアルバムもない。少し寂しいけど、会おうと思えばいつでも会える。特に、お父さんの会社と取り引きをしている子達ならパーティーなどで顔を合わせることはあるだろうからそこまで寂しがる必要もないのかもしれない。
春休みに入ると制服の受け取りに行って、学校までの道を確認したり、指定バッグがないためリュックを選びに行ったりしている間に春休みは終わった。
入学式当日、クラス発表を見て1年4組の教室へ向かった。既にクラスメートの半分は来ていて、同じ小学校出身同士なのか楽しそうに話していた。出席番号1番の私は左端の席に座ってドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせるためにゆっくりと呼吸をした。
「美久!」
「なんでいるんだ!?」
不意に名前を呼ばれて教室の前の扉に視線を向けると七菜波と渉が立っていた。
進級テストの勉強で忙しくて春休みに入ってからも予定が合わなかったから顔を合わせるのは約2ヶ月ぶりだ。まさか同じ中学だなんて思っていなくて驚いたけど心強い。
「私、中学からは公立に行きたいってお父さんに頼んで通わせてもらえることになったの」
「マジで!?てか、ちゃんとクラス表見てないだろ?俺も4組なんだけど」
「そうだったんだ。知り合いいないと思ってたから自分の名前以外探してなかった。私、有馬だから一番だし」
「確かに」
七菜波は『渉だけズルい!』と言いながらも久々の再会を喜んでくれた。
翌日には一緒に登校する約束をした。中学までは私の家からは徒歩10分ほどで2人よりも近く、2人の通り道にあるため私の家の近くで集合して一緒に学校へ向かった。着慣れないセーラー服のせいか少し落ち着かない。
「そういえば、海斗くんも西中なの?」
「そうだよ」
「けど、面白そうだから海斗が美久に気づくまで黙っとかね?」
「そうだね」
2日目は新入生歓迎式とロングホームルームで委員会や係を決めて終わった。明日は部活動紹介と体験入部が始まる。
「美久〜、何部行くの?」
「私はバドミントンかな。七菜波は?」
「私は部活紹介見てから考える。渉はサッカー?」
「いや〜、バスケと迷ってる」
「バスケだったら海斗と一緒じゃん」
「え、海斗くんってバスケなの?」
「そうだよ」
知らなかった。なんとなくイメージでサッカーかと思ってた。
早く、明日になってほしいな。体験入部楽しみ。