参観
咲久と結婚してもう12年。付き合ってからはもう20年だ。俺ももう37歳になった。咲久は日に日に綺麗になっていって俺は毎日咲久に惚れ直している。
「仁科先生、また奥さんの写真見てるんですか?」
「うん」
「相変わらず奥さんのこと好きですね」
「うん。大好き」
「俺、彼女と会っても好きとか全然言わないです。なんか、付き合ってからの方が好きって言うの恥ずかしくないですか?」
「まあ、照れるけど口に出さないと伝わらないから」
まあ、好きすぎてつい口に出ることも少なくはないけど。
~~~~~
それから仕事が終わって早めに家に帰ると玄関に入ったところでいい匂いがしてきた。
「ただいま~」
「あ、父さん。おかえり」
11歳の長男の白斗が出迎えてくれた。最近はあんまり遊ぼうと誘っては来ないけど早く帰ってきたときは毎回偶然を装ってこうやって出迎えてくれる。そういうところが可愛いんだよな、白斗は。
リビングに行くとちょうど咲久が夜ご飯の用意をしていて7歳次男の楓真と9歳長女の咲良が何かの紙を咲久に見せていた。
「あ、おかえり。真白、ちょっとこの2人を剥がしてくれない?ご飯炊けたのに動けない」
「うん。咲良、楓真、こっちで待ってよっか。」
「パパも来て!」
「え、どこに?」
「7月に授業参観があるの!家族についての作文書いて咲良が読むんだよ!絶対に来てね!」
「うん!絶対に行く!」
授業参観の紙を見せてもらうと1~2年生が1時間目、3~4年生が1~2時間目、5~6年生が3時間目。咲良と楓真は被っているけど咲良は2時間目に発表らしく全員見に行ける。
「お姉ちゃんズルいよ!お父さん!俺のクラスも来て!」
「うん。当たり前だよ。あ、白斗のクラスも見に行くからね」
「別に来なくていいよ」
白斗は少し嫌そうな顔をしてご飯の入ったお茶碗をテーブルに置いた。
「白斗は体育で保護者参加のドッチボールだっけ?私が行こうかな」
「母さん、手加減できるの?」
「ま、まあ」
「え~、咲久だけ~?俺は~?」
「別にいいけどパス以外で絶対に投げないでよ」
「分かった。楽しみだな~」
2週間後、仕事が終わって家に帰ると咲良が宿題をしていた。
「偉いね。何の宿題?」
「作文!だからパパとママはまだ見ちゃダメだよ。参観日まで内緒!」
「分かった」
~~~~~
さらに2週間後、参観日当日。
「緊張してきた」
「真白が緊張してどうするの」
「だって、楓真が小学生になって初めての参観だし」
「当の本人はめちゃくちゃ楽しそうだけどね」
咲久は笑って楓真の方を見た。確かに、朝からずっとテンションMAXで走り回ってるな。俺が緊張してたらダメだよね。楓真の晴れ姿をちゃんと目に納めないと。
「「行ってきます!」」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。私たちが後から行くからって忘れ物してないよね?」
「大丈夫!」
「うん!」
「気をつけてね」
「「は~い!」」
3人とも家を出ていってちょうど洗濯が終わったようで洗濯物を干してから家を出た。
「咲久、咲良の作文って家族について書くって言ってたけど誰のこと書いたか聞いてる?」
「ううん。教えてくれなかったから。真白のこと書いたんじゃない?」
「いや、咲久のことだと思う。俺のことなんて全く書いてないかも」
「それはないでしょ」
それから小学校に行って楓真のクラスにやって来た。楓真の担任の先生は白斗と同じく佐野先生だ。しかも、咲良の去年の担任も持ってたから佐野先生には家族皆でお世話になっている。
「楓真って家でも学校でも変わらないね」
「そうだね。まあ、イベント大好きだから参観ってことではしゃいでるのもあると思うけどね」
「確かに」
廊下から教室の様子をうかがっていると楓真が廊下に出てきた。
「お父さんもお母さんも教室入らないの?」
「入っていいの?」
「うん!先生がいいよって言ってた!」
「じゃあお邪魔します」
俺たちが教室に入ると続々と保護者が入ってきて教室の後ろの方は保護者で埋め尽くされた。俺、去年は休みが取れなくて参観に行けなかったけどこんなに多いんだ。まあ、2人まで来られるから生徒の倍の人数がいるんだよね。
それから算数の授業が始まった。今はくりあがりの足し算を習っているようだ。
「じゃあ5たす8、分かる人」
「「はい!」」
「じゃあ、仁科くん書きに来てください」
「はい!」
「じゃあ、3たす9分かる人……」
「それでは答え合わせをします。5たす8は13。合ってますか?」
「「合ってます!」」
「3たす9は12。合ってますか?」
「「合ってます!」」
それから授業が終わって楓真は俺たちの方へ走ってきた。
「俺!全部合ってた!」
「すごいじゃん!さすが楓真。いつもテストも100点だもんね」
「うん!お兄ちゃんが宿題教えてくれるからテストも簡単!俺も、お兄ちゃんみたいに頭良くなる!」
「楓真ならなれるよ。次の国語も頑張って」
「うん!」
それから咲良のクラスにやって来た。咲久が手を振ると咲良は走ってきて咲久に抱きついた。
「ママ!」
「パパもいるんだけど」
「あ!真白先生!」
男の子の声がして振り返ると少し前まで骨折でうちの病院の整形外科に通っていた優翔くんが立っていた。
「優翔くん、足はもう平気?」
「うん!俺、先生のお陰でサッカーの試合出てシュート決めたんだぜ!しかも俺の決めたシュートで勝ったんだぜ!」
「すごいね!それに、俺のお陰じゃなくて優翔くんがリハビリ頑張ったからだよ」
「俺、サッカーも勉強も頑張っていつか、先生みたいな医者になる!」
「っ!応援してる。優翔くんならなれるよ」
「ありがとう、先生!」
優翔くんは嬉しそうに教室に入っていった。あんな風に言ってもらえるなんて嬉しいな。仕事柄、怪我でスポーツを続けられなくなった人をたくさん診てきて“医者なんだからどうにかして治して!”って言われたこともあったけど“医者になりたい”って言われるよはホントに嬉しいな。
「パパ、カッコいいね。優翔くんの足治したんでしょ?パパって魔法使いなの?ママは知ってる?」
「うん。魔法使いじゃないけど、優翔くんに夢をあげたからサンタさんかも」
「じゃああわてんぼうのサンタさんだ。まだ夏休み前だもん」
「そうだね」
咲久が笑うと咲良もニッコリ笑った。何この天使2人。ホント癒されるわ。
それからチャイムが鳴って号令が終わって作文の発表が始まった。出席番号順なので咲良はまだ先だ。ホント、誰のことについて書いたんだろ。
「次は仁科さん、お願いします。」
「はい!」
『私の家族
私の家族は、可愛いママとカッコいいパパとサッカーが上手なお兄ちゃんと仲良しの弟の5人家族です。
パパのお仕事はお医者さんで怪我をした人を治しています。パパはいつも疲れている筈なのに帰ってくるといつも笑顔です。パパにとってママや私たちは“宝物”だから疲れていてもすぐに疲れが飛んでいってしまうそうです。
ママのお仕事は新しい家具を作ったり考えたりするお仕事です。ばあばも同じお仕事をしていてママはばあばに憧れてこのお仕事を始めたそうです。ママはお仕事は忙しいけど、自分の作った家具を使って喜んでくれる人がいるから頑張れるそうです。
お兄ちゃんは、私の2つ年上でサッカークラブに入っています。お兄ちゃんは人気者で去年のバレンタインに段ボールいっぱいのチョコをたくさんのお友達から貰ってきて私に分けてくれる優しいお兄ちゃんです。
弟の楓真はいつも一緒にテレビを見たり鬼ごっこをしたり、ひいお祖父ちゃんのところで合気道を習ったりします。たまに喧嘩もするけどママの妹の莉久ちゃんからもらったお菓子を食べたらすぐに仲直りできます。
私の家族は皆仲良しです。この前も、パパがママに行ってらっしゃいのチューをして私もママにしようとするとパパが止めました。ママがお仕事に行ったあと、パパが
「咲久の口にキスをしていいのは咲久のことを世界で一番愛してる俺だけって決まってるの。だからたとえ娘の咲良でもダメだよ」
って言って指切りをしました。そのあと、「咲良も世界一好きな人ができたら分かるよ」と言っていたので早く世界一好きな人に会いたいです。
そして、世界一好きな人に会ってママとパパみたいに仲良しになりたいです!』
咲良が笑って原稿用紙を閉じると拍手が聞こえてきた。咲久の方を見ると両手で顔を覆っていた。
それから咲良のクラスの授業が終わって中休みに入った。すると先生が俺と咲久のところにやって来た。
「あの、咲良って他にも作文に何か書いてましたか?」
「いえ、さっきのもアドリブで付け足したのだと思います。私が確認したときは書かれてなかったので」
「だって。咲久、咲良があんなちゃんとした文章をアドリブで言えると思う?」
「ううん。咲良、国語苦手って言ってたし」
「だよね。先生、ありがとうございます。咲良!俺たち、白斗のクラス行ってくるからね!」
教室にいる咲良に手を振ると、咲良は慌てて教室から出てきて俺の手を掴んだ。
「咲良も行く!」
「え~、咲良は咲久と俺に意地悪したからどうしよっかな~」
「違うもん。お兄ちゃんが昨日の夜にこの紙くれたから読んだだけだもん。パパとママが喜ぶよって言ってたの」
「やっぱ白斗か」
咲良を抱き上げて白斗のクラスへ向かうと白斗は体育館にいるとクラスメートの子達が教えてくれた。
それから体育館に行くと体操服を来た白斗が友達とバスケットボールをしていた。白斗は俺と咲久に気付くと慌ててボールを俺に投げた。まあ、このくらいのボールはキャッチできるんだけどさ。
「なんで来たの?咲良、昨日のやつ読んでないの?」
「読んだけど、パパもママも全然喜んでないよ。お兄ちゃんの嘘つき!」
「母さんは喜んだでしょ?」
「……まあ、ちょっとは嬉しかったけど。てか、白斗はいいの?」
「何が?」
咲久が答える前に白斗の友達が白斗の肩を叩いた。
「俺の弟さ、白斗の妹と同じクラスなんだけど、白斗のお母さんとお父さんってめっちゃ仲良いんだな」
「は、」
「行ってきますのキスしてたんだろ?」
「~っ!」
白斗は真っ赤になって友達から逃げ回っていた。幸い、というのも変だけど、俺と咲久はつい最近までSNSを続けていて人前でキスをすることに多少は慣れている。咲久も知り合いの前で言われるのは恥ずかしいだろうけど配信を見てくれていた人もいるからすぐに落ち着いたようでいつも通り笑っている。
「白斗、そんなに来てほしくなかったの?」
「……別に。ただ、珍しく母さんがいないところで照れるような台詞言ってたから母さんに聞かせたら喜ぶかと思って。一番不自然にならないかと思って」
「てことは白斗も聴いてたのか。結構恥ずかしいな。」
「まあ、俺に返ってきたからもうしないけど」
白斗は反省したようにため息をついた。それから授業が始まる5分前になって咲良は教室に帰っていった。咲久はというと、他の保護者さんと喋っていた。
「父さんも、バスケする?」
「俺も出ていいの?余裕で勝っちゃうけど」
「皆がダンクしてほしいって言ってるから」
「出来るかな」
白斗からボールを受け取ってダンクシュートをしてみた。小学生の高さだからか普通に出来てしまった。
「白斗の父さんやるな!」
「かっけえ!」
「白斗の父さん、センターラインからシュート打ってみて!」
「分かった」
言われた通りセンターラインに立ってシュートを打ってみるとたまたま入ってしまった。
「すげえ!」
「白斗の父さんカッコよくて羨ましい!」
「そうか?俺は母さんの方がカッコいいと思うけど」
「それは俺も思う。咲久は中身がイケメンすぎる」
咲久の方を見るとまだ楽しそうにお喋りをしていた。
それからチャイムが鳴ってドッチボールの前に鬼ごっこをすると言われて鬼は保護者5人で逃げるのが生徒25人だ。じゃんけんに勝って俺も咲久も鬼になってしまった。
子供たちはバラけて笛がなって保護者チームが走るんだけど、俺と咲久以外の人が思ってたより体力ない人でそもそも年齢が俺と10歳くらい離れてるからそれもそうか。
「白斗の父さん来たぞ!」
「早っ!」
「白斗の母さんの方逃げようぜ!」
「いや、それはやめた方が、」
白斗の友達が咲久の方へ行くと咲久は次々にタッチしていって残りは白斗1人になった。白斗1人ってことで大人げないとは思いつつ本気を出してすぐに捕まえた。
「ドッジボールは事前に決めたチームに分かれて保護者の皆さんはお子さんのチームに入ってください」
「白斗、俺より先に当たらないでね。俺、大人ながら1人で残りたくないから」
「父さんこそ、序盤で当たったりしないでよ」
「安心しなよ。俺、咲久の前でダサいところは見せないから」
それから先攻が向こうでドッジボールが始まった。
だんだんと中の人数が減ってきた。すると、向こうのチームにいる男の子が固まって逃げていた女の子たちを狙って結構早くボールを投げた。
「っぶな~。大丈夫?」
咲久がボールをキャッチして笑うと女の子たちはコクコクと頷いていた。ま~た、咲久はファンを増やして。
「こんな強いボール当たったら痛いよね。できるだけボール取るから安心して逃げてね」
「「は、はい」」
咲久は外野にパスをして俺の側に来た。
「パスならしてもいいんだよね?」
「俺に訊かれても。まあ、いいと思うよ」
それから俺と咲久と白斗ともう1人の女の子だけになった。向こうのチームは全員で7人いる。しかも、男の子5人とお父さん2人だ。
「白斗、俺投げるけどいいよね。絶対当てるから」
「もう投げてるし」
お父さんの1人の足元を狙ってボールを投げた。見事当たって向こうは6人になった。
「父さん、狙われてるけど」
「ボール1つしかないのに当たるわけないよ」
「それで当たったらダサいよ」
「当たらないってば」
そうして話しながら4人を当てて向こうはこっちよりも1人少ない2人になった。外野から飛んで来たボールをキャッチして白斗に渡した。白斗はボールを受け取って1人を当てた。
向こうからのボールを受け取って白斗がボールを投げた。向こうもキャッチして投げてきたボールを白斗がキャッチする。その繰り返しを何度かして白斗はこっちに残っていた女の子にボールを渡した。
「絶対無理だよ。残ってたのも仁科くんのお母さんのお陰だし」
「大丈夫だよ。あいつ、油断してるから思いっきり投げて」
女の子はしぶしぶボールを受け取って向こうの子に向かって投げた。しかもめちゃくちゃ高くあげて。向こうの男の子はボールを掴もうとして滑らして落としてしまった。
「やった!1回戦勝った!」
白斗は小さくガッツポーズをして喜んでいた。けれど同じチームの女の子たちは勝ったのにあんまり嬉しくなさそうだった。
それから参観が終わって咲良と楓真のクラスに2人を迎えに行った。
「咲良、3時間目にフルーツバスケットしたんだよ!」
「楽しかった?」
「うん!」
「よかったね」
咲良は咲久の手を握って頷いた。すると、楓真も咲久の手を握った。
「俺も咲久と手を繋ぎたいんだけど」
「パパはいつも繋いでるからダメ」
「ダメ~」
「いつもじゃないよ。まあ、俺が一番多く手を繋いでるからいいけど」
「パパずるい~!」
「だって俺は咲久と付き合ってもう20年だからね」
「咲良もいっぱい手を繋ぐもん!」
「俺も!」
2人とも同じように頬を膨らませて俺を見上げた。ホント昔の咲久そっくり。可愛いな。あ、でも反応が可愛いからって煽りすぎると嫌われるかもだから気を付けないとな。
「じゃあ白斗のクラス行こっか」
「「うん!」」
白斗たちは体操服から着替えるらしいので少し帰りの会が終わるのが遅れるそうだ。だから、教室の側にある広いスペースで待っていた。
「あ!お兄ちゃん来たよ!」
「ホントだ」
白斗はこっちにやって来て荷物を俺に渡した。
「重いの?」
「そう。だから持って」
「白斗が甘えるなんて珍しいね。いいよ」
荷物を持って昇降口で靴に履き替えて家に向かった。咲久は咲良と楓真に引っ張られて走って先に帰ってしまった。
「……ねえ、白斗。友達がいじめられてたら自分でどうにかせずに相談していいんだよ。そうじゃないと自分も辛くなってその姿を見せて心配されるから」
「急になんだよ。というかそれ、経験談?」
「そ。経験談。」
頷くと白斗は驚いたように目を見開いた。冗談で言ってみたら本当で驚いたんだろうな。少し話が長くなることを見越して公園の東屋に行って座った。
「俺と咲久ってさ、1個差だから咲久が小6のとき、俺は中1で学校離れるじゃん?小学校の頃はさ、俺がずっと守れたけど学校離れたら無理でしょ?それで、その隙を狙って咲久に嫉妬してた子達が『咲久がぶりっ子して年上の男子と付き合ってる』とか『中学生の彼氏がいるから調子にのってる』とか『実は性格悪いとか』色々噂を流したんだよ。咲久は隠すのが上手だから俺も気付けなくて冗談みたいなノリで数ヶ月間言われ続けたんだって」
白斗はさらに目を見開いた。
「集団心理って怖いよね。咲久が何も言い返さないし別に冗談だしって思って平気で酷いことをしてたんだよ」
「父さんは、何が言いたいの?」
「白斗ならもう気付いてるでしょ?」
「……」
「ドッジボールで最後まで残ってた女の子、他の女の子たちから距離置かれてるでしょ?だから、ドッジボールも全然ボール触れなくて最後ボール渡したんでしょ?」
「……俺の、せいだから。」
白斗は苦しそうに言葉を吐いて視線を足元に落とした。
「桜木って言うんだけど、元々頭が良くて、ピアノが上手くて嫉妬されてたっていうのもないとは言いきれないけど。」
「うん……」
白斗は深呼吸をして話を続けた。
「俺、男子といる方が気楽だからあんまり女子と話さないけど、桜木が持ってきてたクイズの本を一緒に読んだりしてたら女子が自分達も今度一緒に遊びたいって言ってきて」
「うん」
「桜木が友達作るチャンスだと思って俺は行かないって言ったら『付き合ってんの?』って。俺も桜木もただの友達って言っても嘘だって言われて。この前、桜木が女子たちに呼び出されてて心配してこっそり見に行った」
* * *
バンッ!と大きな音がして階段の下から話し声が聞こえてきた。
「桜木さん、分かってる?白斗くんと全然釣り合ってないよ」
「私は別に、仁科くんが好きなわけじゃ……」
「嘘ついてんじゃねーよ。白斗くんのこと脅して付き合ってんでしょ?」
「付き合ってないよ。仁科くんは友達だよ」
「頭いいくせに男女の友情ってないって知らないの?言っとくけど、うちのクラスの女子みんな、白斗くんが桜木さんと付き合ってるの反対だから。」
「そうだよ。付き合ってないって言うんならもう休み時間に白斗くんと話さないで」
* * *
「って言ってるの聞いて、怖くて助けられなかった。なあ、父さん。俺、男だから桜木とは友達になれないの?桜木と仲良くしたらダメなの?」
「そんなことないよ。だって、咲久と亮太は友達だから2人で出掛けたりするでしょ?まあ、大体は千花ちゃんへのプレゼント選びみたいだけど、趣味が合うから時々映画を観に行ったりもしてるし」
すると白斗は真顔で顔をあげた。
「父さんって五十嵐選手には嫉妬しないよね。千花さんにはめちゃくちゃするのに」
「千花ちゃんは咲久と異常なほど仲良しだからね。白斗は知らないだろうけど、家建てるとき、近所に建てたらお互い助け合えるって言って隣に並んでる土地探してたんだよ?まあ、無かったから20m先だけど」
確かに咲久のご両親と湊くんたちの両親は近所に家を建てていたけど、普通に考えるとそもそもそんな広い土地空いてないよね。まあ、今となっては近所だからこそ助かることも多々あるけどね。
「まあ、とりあえず友達には性別は関係ないよ。あるって考える人もいると思うけど、それも間違ってないと思う。けど、白斗がそれに合わせる必要ある?」
「ない」
「でしょ?その話をしたかったんだけど白斗は咲久に似て頑張って隠そうとして素直に話してくれないからさ。でも、どうせ俺にはバレるんだから話してよ。もし無理なら咲久とか亮太とか千花ちゃんとか、白斗の周りは信用できる大人がたくさんいるんだから話してほしい。父親としては俺に1番に相談してほしいけど」
白斗の髪をくしゃくしゃとすると珍しく俺の手を振りほどかずに小さく頷いた。
「あ~!仁科先輩だ!」
「白斗もいる!あ、参観帰りか。」
「噂をすれば」
「何の噂ですか!?昔話!?」
千花ちゃんは駆け寄って白斗の隣に座った。
「はい、アイス。」
「ありがとう」
「亮太たち、コンビニ寄ってきたの?子供たちは?」
「うちはそのまま車で送っていってバスケクラブ行ったからその帰りにコンビニ寄ったんだよ。パパとお兄ちゃんが遅いって咲良から連絡来てついでに探そうと思って公園来たらいたから驚いた」
「何か話してたんですか?」
「「内緒」」
亮太たちに車で送ってもらって家に帰った。
「遅い~!」
「何してたの~?」
「真白も白斗もおかえり。早く手を洗ってきて。ご飯できるから」
「うん」
白斗と荷物を置いて洗面所に向かった。
「母さんに怒られると思った」
「多分気付いてるからね」
「え、マジ?」
「多分ね」
手を洗ってリビングに行くとサラダうどんが並んでいた。俺はお皿を運び終えた咲久にキスをした。
「咲久、ただいま」
「おかえり、真白」
「ちょっと照れてる?」
「照れてない。温くなる前に早く食べよ」
「そうだね」
それからご飯を食べて皆でお昼寝をした。
* * *
父さんと公園で話した翌日の中休み。いつもはおにごをするために校庭に行っていたけど今日は断って、本を読んでいる桜木の席の前まで行った。
「桜木、あのさ、」
「ずっと避けててごめんなさい」
「いや、俺の方こそごめん。俺、男だけど桜木と友達でいたい。次なんか言われてたら庇うからまたクイズ一緒にしたりしてほしい」
「ありがとう。でも、仁科くんに迷惑かけるのは」
「迷惑なんて思ってない。俺、クイズ好きだけど桜木みたいに難しいクイズ知ってる友達いないからまた面白いのあったら教えてよ」
「うん」
それから一緒に図書室で借りたクイズ本を解いた。
~~~~~
「ただいま~」
「おかえり。……あのさ、桜木と仲直りっていうかちゃんと話して休み時間に一緒にクイズした。……父さんのおかげ、ありがとう」
「どういたしまして」
「晩御飯もうすぐできるって」
「じゃあ早く手を洗わないとね」
父さんは俺の髪をくしゃっとして洗面所に向かった。もう子供じゃないっていうのに。