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海斗くんが高校生になると、また会う頻度が減るだろうと思っていたけれど海斗くんは高校では部活に入らず勉強に専念していた。
私と七菜波と渉は全員同じクラスになって修学旅行も体育祭もすごくいい思い出ができた。
部活では、個人の部で県3位になって近畿大会に出場した。そして、近畿では5位になって引退した。
部活を引退すると受験勉強が始まって4人で集まるときは勉強会をするようになった。
お兄ちゃんと恵那ちゃんの出身校で海斗くんが通っている県内トップの進学校を志望している。七菜波と渉も同じ志望校だ。
志望校を合わせたわけではないけれど、自然と合った。
今は1月でこの前、公立模試があってその結果が出たばかりだ。
「七菜波、今回の模試どうだった?」
「数学がちょっと下がってた」
「私は社会。渉は?」
「俺は全教科100点」
「だよね」
渉は私たち3人の中で断トツで頭が良い。テストも基本的に満点だ。だから、テスト前はよく3人で勉強会をしている。休みの日は海斗くんも来て勉強を教えてくれる。
明日は海斗くんの家で4人で勉強会をする予定だ。
昼の1時からの約束だったので早めに昼食を摂って海斗くんの家まで佐川さんに送ってもらった。
最初のうちは毎回手土産を持っていっていたけれど、気を遣わないでほしいと海斗くんのお母さんに言われて最近は何度かに一度駄菓子を買って持って行くようになった。
家に着いてインターホンを鳴らすと海斗くんが扉を開けて出迎えてくれた。
「美久!寒くないか?」
「平気よ。佐川さんに車で送ってもらったから」
「そうか。今日は寒いからリビングのコタツで勉強しようって渉と七菜波と話してたんだ」
「寝ちゃわない?特に渉」
「寝たら七菜波に平手打ちされるから大丈夫だろ」
「そうね」
早速家にあげてもらった。
リビングにある小上がりの畳にコタツが置いてあって、渉と七菜はコタツに入って既に勉強を始めていた。
「渉、ここは?」
「ん?あ〜、これは………」
「なるほどね。渉って意外と教えるの上手だよね」
「意外は余計だ」
「余計じゃないわよ」
「うわ!美久!いつの間に来てたんだ?」
「ついさっきよ」
荷物を置いて渉の向かい側に座ると、海斗くんは私の隣に座った。私は海斗くんに勉強を教えてもらって七菜波は渉に勉強を教えてもらっている。
私は苦手な社会と英語を中心に参考書を進めた。
日が暮れる頃に海斗くんの3つ上のお兄さんである昴くんが帰って来た。
「みんなして勉強か?」
「昴!見て!私この大問全問正解なんだよ!」
「おお!七菜波、数学苦手なのに頑張ったな」
「俺が必死で教えたお陰もあるだろ?」
「感謝してるよ。けど、渉は褒めてくれないじゃん。私、褒めて伸びるタイプだから」
さらに日が暮れてきて勉強会を終えた。
佐川さんは今日は4時までの勤務だったので帰りは歩きだ。
渉と七菜波とはすぐに別れるから、暗い中帰らせるのが心配だという海斗くんが家まで送ってくれることになった。
行きは車で送ってもらったせいでコートしか羽織って来なかったから少し寒い。
はぁ、と小さく息を吐くと白くなった息が街灯に照らされた。
海斗くんは急に立ち止まって私にマフラーを巻いてくれた。
「ありがとう。でも、海斗くんは大丈夫?」
「俺は暑がりだから大丈夫」
「そっか。あったかい」
私の家が近づくに連れて海斗くんの歩く速さがだんだんと遅くなってきた。今さらだけど、分かりやすすぎてつい聞いてみた。
「海斗くんって、私のこと好きなの?」
てっきり、顔が赤くなって否定されると思っていた。けれど、海斗くんは笑って私の質問に頷いた。
「当たり前だろ」
「友達としてとか幼馴染としてじゃなくてだよ?」
「分かってる。俺は誰よりも美久が好きだよ。………自分できいといて驚くなよ」
「好きなんだろうなとは思ってたけど、そんな素直に言われると思わなかったから」
海斗くんのこいうところは本当に尊敬する。自分の気持ちを言うのは怖くいはずなのに海斗くんは言葉にできてしまう。これは海斗くんのかっこよくて尊敬できるところで好きなところ。
私も海斗くんのことは好き。だけど、渉と七菜波も同じくらい好き。自分の気持ちが海斗くんと同じ気持ちなのか分からない。
海斗くんの顔を見上げると仕方なさそうに笑って私の目を見つめた。
「困らせてごめん。けど、俺が美久のことを好きな気持ちを否定したくないんだ。受験終わるまではこの話は一旦忘れてくれていいから」
「忘れは出来ないと思うけど、今まで通りでいいってこと?」
「ああ」
「分かった」
「ありがとう」
家の前まで送ってもらってマフラーを返して家に入った。
とりあえず、今は受験に集中しないと。
2ヶ月後、私も七菜波も渉も無事第一志望の高校に合格して中学を卒業した。春休みには卒業祝いと合格祝いを兼ねて4人でお花見をすることになった。
電車で少し遠くに行ってハイキングがてら山を登るとその頂上に大きな桜の木があった。
早速レジャーシートを広げてそれぞれ持ってきた食べ物を取り出した。
私はいつも食事を作ってくれている料理人が用意してくれた巻き寿司、七菜波はお母さんが作っただし巻き卵、渉はスーパーで買った駄菓子、海斗くんは近所の老舗和菓子屋さんのお花見団子を並べた。
「今日は天気もいいし花見日和だな」
「桜、まだほとんど咲いてないけどね」
七菜波はため息混じりに桜の木を見上げた。予定を立てたときには8割くらいは咲いている予定だったけれど、先週寒さがぶり返して桜の開花時期が遅れたそうだ。
「まあ、ピクニックってことで」
「そうね」
「それじゃあ、」
「「いただきます」」
巻き寿司もだし巻き卵もすごく美味しい。七菜波のお母さんの作るご飯は全部美味しくて好きだ。私のお母さんは一切料理はしないから時々七菜波のお母さんに料理を教えてもらうことがある。調味料とかを計らずに入れているところはさすがだなと感心した。
「美久って本当に美味そうに食べるよな」
「だって、本当に美味しいんだもん」
「俺、美久の食べてるときの笑顔好きだよ」
海斗くんが微笑むと渉と七菜波は驚いたように私と海斗くんを見た。私だって驚いた。こんなサラッと告白されるなんて思ってなかったから、ドキッとしてしまった。だけど、海斗くんは告白のつもりではなかったらしく平然としている。まあ、告白でも平然としてたけど。
「どうしたんだ?3人とも」
「「なんでもない」」
お花見、とも言えないお花見が終わって山を下りて電車で帰った。駅からは歩いて帰って、途中で七菜波と渉と海斗くんと別れて1人で帰った。
みんなと別れてすぐ、後ろから誰かの走る足音が聞こえてきて振り返ると海斗くんが紙袋を持って走って来ていた。
驚いて駆け寄ると、海斗くんは少し息を整えて紙袋を手渡した。
「なに、これ」
「合格祝い。渉と七菜波には内緒な」
「見てもいい?」
「ああ」
紙袋を覗くと、透明のビニールにラッピングされた春らしい温かみのある淡いピンクのポーチと桜の香りのハンドクリームが入っていた。すごく私好みのデザインとプレゼントに少し驚きながらもありがたく受け取った。
「ありがとう、海斗くん。大切にするね」
「どういたしまして」
海斗くんに家まで送ってもらった。
家に着いて、海斗くんが帰ろうと背を向けたとき、慌てて引き止めた。
「ねぇ、明後日空いてる?」
「空いてるけど」
「お礼したいからどこか行かない?」
「デート?」
「まあ、デートって言えなくもないけど」
「じゃあ、水族館!」
「分かった」
「一応確認だけど、夢じゃないよな!?」
海斗くんの頬を引っ張って離すと、海斗くんは頬をさすった。
「楽しみにしてる!またな!美久!」
海斗くんは見るからに浮かれて走って帰って行った。
部屋に戻ってそのままソファにダイブした。
ああ、心臓の音がうるさい。私、ちゃんと平然装えてたかな。
いつから、海斗くんのこと好きだったんだろう。というか、なんで急に気付いたんだろう。




