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03.魔法




数週間後。


本日も兄弟三人で魔術の練習をしている。


少し前から魔術の練習は家の庭でやるようになった。


俺が一度、魔法を暴走させて部屋を水浸しにしたからだ。


あの時は母さんにこっ酷く叱られた。



「『"清き清流よ、現出せよ" スプリングウォーター』」


杖の先に意識を集め呪文を唱えると、空中に拳大の水が現れた。


集中して、その水球を保つように意識を向け続ける。


・・・・・・バシャッ


しばらくは空中に漂っていた水だったが、まるで水風船が割られたかのように落ちてしまった。


「ハァ、ハァ」


極度の集中力を擁する作業に荒い息を吐く。


おい、魔法を使ってもMP消費しないって言った奴出て来い。


めっっっちゃ疲れるじゃねえか。


「13秒。新記録じゃないか?」


俺の魔法を監督していたレックスが声をかけてきた。


こんな感じでなんとか初歩的な魔法は使えるようになったものの、暴走したら危険な魔法とかはまだ練習すらできてない。


それに、この世界では呪文の省略や無詠唱魔法は割と一般的なものらしく、最低でも『スプリングウォーター』で発動させなければ魔術師とは名乗れないらしい。


因みにそれを俺がやるとどうなるのかというと・・・・


「じゃあ、今度は前半の詠唱を無しでやってみようか。」


「うん。

・・・・・・・・『スプリングウォーター』」


「っ!」


「うおっ!」


詠唱した瞬間、杖の先から消火栓並みの勢いで水が噴き出し、庭の花壇を薙ぎ払った。


「やっべ。」


それを見たラプターがいそいそと荷物をまとめ始め、レックスも青い顔をしている。


騒ぎを聞きつけた母さんが何事かと呼ぶ声が聞こえた。


あ・・・・詰んだ。


その後、俺とレックスが母さんのお説教から解放されたのは、太陽が西に傾き夕方になってからだった。



俺の魔法の暴走の原因は依然として分からないままだったが、とにかくあれを何とかしないと魔法が使えない。


レックスやラプターにも相談してみてはいるのだが、魔法が発動しないのではなく逆に暴走してしまうパターンというのはなかなか考えられないらしい。


今日の夕飯の時に親父と母さんにも聞いてみたが特に新しい情報は無く、打開策は見つからないまま時間が経っていた。


こうなったら自力で何とかする方法を見つけ出すしかない。


現状、威力の加減が出来ないだけで魔法自体は使えているのだ。


だから、後はなんとかして威力を弱めるか、もしくは方向性だけでもコントロールできれば今日みたいに意図しない場所に魔法が飛ぶってことにはならないだろう。


何かいい方法はないだろうか?


・・・・・・・・・・分からん。


前世の記憶があっても魔法に関してはこっちの世界に来てからの知識しかないのだ。


年上であるレックスやラプターに分からないことがそう簡単に分かるわけもなく、夜は更けていった。



次の日も、また次の日も、同じように魔法をコントロールするための訓練として水の球をひたすら維持する。


因みにこの訓練はレックスが考えてくれたオリジナルのものだ。


日に日に水球を維持できる時間が伸びてきてはいるが、依然として詠唱を省略するとドカンとなる。


俺の横ではレックスとラプターがそれぞれ魔法の訓練に励んでいた。


優等生のレックスは言わずもがなだがサボり魔ラプターも魔法の才能はあったようで、無詠唱で石を空中に浮かせてはお手玉の様にくるくる回している。


因みに無詠唱魔法はレックスにも使えない。


万能タイプのレックスと魔法一点特化のラプターといったところか。


そして俺は落ちこぼれ・・・・っとと


本日7個目となる水球が足元のたらいの中に落ちた。


本当は発火呪文や浮遊の呪文も使ってみたいが、最悪暴走した場合に家が燃えたり飛んだりしかねないため禁止されている。


クソ、なんで俺だけできないんだ。


ラプターとは一つしか年も違わないのに・・・・はぁ。



それからさらにしばらくたったある日。


俺とレックスはいつものように親父と剣術の稽古をしていた。


いつも通りに型の確認から入り、丸太への打ち込み、俺と親父の手合わせとメニューが進んでいく。


そしてその後、いつもなら親父とレックスの手合わせをする時に、親父が俺とレックス両方を呼んだ。


「今日はレックスに強化術を教える。」


強化術というのは体や武器を補強する魔法で、これを使えると常人よりはるかに素早く動いたり、重いものを持ち上げたり、剣や服を強化することも出来るらしい。


よくある身体強化ってやつかな。


近距離の直接攻撃を主体とする戦士系の人にとっては必須のスキルらしい。


ただ、魔法は魔法でも強化術は少し特殊で、体の動きや敵の攻撃などに合わせて反射的に使用するため呪文は存在しないらしい。


「え?それってつまり無詠唱魔法ってこと?」


「そうなるな。」


親父の答えにレックスの顔が曇った。


「ただ、魔法の無詠唱とは少し勝手が違うからな。これが出来れば無詠唱魔法の参考にもなるだろう。」


「じゃあ、俺が呼ばれたのも魔法の参考にするためってこと?」


「そういうことだ。

サウロに強化術はまだ早いが、原理は魔法にも通じる部分があるからな。」


なるほど。


親父なりに俺たちのことを考えてくれてるってことか。


だからって、手合わせ中にマジで斬りかかってくるのはやめてほしいけど。


俺まだ子供だぜ?


「俺が最初に見本を見せる。」


親父はそう言うと、どこから運んできたのかいつの間にか庭に鎮座していた巨石に向き合った。


「フッ」


一瞬親父が消えたように見え、次の瞬間には轟音と共に岩が両断されていた。


うん、全く分からなかった。


せめてもう少しゆっくりやらないと何をしてるのか全く見えないぜ、親父。


「やってみろ。」


親父に促され、レックスが両断された岩の片割れの前に立つ。


え?今ので分かったの?マジで?


「っ!」


岩の前でしばらく息を整えていたレックスが、勢いよく岩に突っ込んでいった。


が、剣の振りが間に合わず正面から岩に衝突する。


おおう、これは痛い。


「違う!全くなってないぞ、レックス。」


俺には何がどうなってるのか全く分からなかったが、どうやらというかやっぱりというか今回のレックスは失敗だったようだ。


「だ、大丈夫?」


「・・・・・・だいじょう・・ぶ・・」


いや全然大丈夫じゃないじゃん、と思ったが、鼻血を垂らしながらもレックスが立ち上がった。


「レックス、お前のは足の強化に意識を向けすぎなんだ。そうじゃなくてもっと全身に力を配分しろ。」


なるほど。


さっきのは体に魔法力を集めてたのか。


まあ、どうせそんな簡単なものじゃないんだろうけど。


それに俺の場合は下手したら暴走して四肢がはじけ飛びそうで、怖くて試せないしな。


「それに力の使い方もダメだ。もっと、瞬間的に力を使わないと。」


「え?」


「ん?どうした、サウロ?」


「いや、親父今なんて?」


「だから、魔術とは違って瞬間的に魔法力を引き出すんだ。これが魔術との大きな違いだな。」


瞬間的に力を使う。


そうか、そうだよ!


何で思いつかなかったんだ。


強すぎる能力を使う時に、漫画とかだと定番じゃねえか。


「おい、サウロ。どうした!?」


俺の行動に戸惑う親父とレックスには構わず、家に飛び込み階段を駆け上がりレックスの部屋にある杖を引っ掴んでまた庭に飛び出した。


「レックス、杖借りるよ!」


「え?杖?」


杖を打ち込み用の丸太に向けて構え、神経を集中させる。


「『スプリングウォーター』」


呪文を唱えると、バケツ一杯分くらいの水が杖から飛び出した。


その拍子に手がぶれ、水は丸太の横に落ちた。


なるほど、瞬間的に水を発射するから反動が出るのか。


だったらその反動をしっかり体で受け止めてやればいい。


前世でやってたサバゲーのガスガンと一緒だ。


右手を軸に半身になって杖を構え、左手は右手の上から添えるように支持する。


照準は右眼だ。


再度丸太を狙い、魔法を行使する。


「『スプリングウォーター』!」


今度は桶一杯分くらいの水が杖の先から跳んでいき、丸太に当たって弾けた。


「よっしゃあ!」


思わずガッツポーズ。


「すごいよ、サウロ!ちゃんと魔法が使えたじゃないか。一体何をしたの?」


「魔法を一瞬だけ発動させたんだ。」


「なるほど。普通に魔法を使ったら暴走するとしても、すぐに打ち切れば結果的に出る水の量は少なくなるってことか。」


まあ根本的には何の問題も解決してないけど、少なくともこれを練習していけば魔法が暴走して大惨事になるリスクは抑えられるようになる。


これでようやくまともに魔法が使えるぞ。



こうして俺は、魔術師への第一歩目を踏み出したのだった。

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