02.鍛錬開始
近所の山に盛大に魔法をぶっぱした後、やらかした事態の重大さに怖くなった俺は一目散に家へと逃げ帰った。
村でも大騒ぎになっていたようで帰り道で親父率いる捜索隊とかちあった。
当然何があったのか問いただされたが、突然空から光が降ってきて気が付いたら山が無くなっていたと言ってごまかした。
流石にあなたの息子が犯人ですとは言えない。
すぐに家に連れ帰られたが、その後猛烈に叱られ、それからしばらくは家どころか部屋からも出してもらえなかった。
というか、山が消し飛んだことが相当大事になってしまったらしく、国から派遣された研究チームが村に来たり、とにかくいつバレるかと生きた心地がしなかった。
親父と母さんもその関係で王都に事情聴取に呼ばれたり、地形が大きく変わったせいで生態系が変化してひと悶着あったりと、色々大変だったようだ。
ホント、親不孝者の息子ですいません。
そんな訳で、俺は『エンゼルフォール』を封印することにした。
威力を落とせないのかとか、応用が利かないかとかホントはいろいろ試したかったが、実験のたびに騒ぎになってたらいつかはバレるかもしれない。
バレたら1000%面倒なことになるのは俺にだってわかる。
モルモットや戦争兵器にされるのは嫌だ。
かといって、俺の異世界チートハーレムライフを諦めるつもりはさらさらない。
チートスキルが使えなくなるのはかなりの痛手だが、まあしょうがない。
正攻法でダメなら搦手を使うまでだ。
こうして、俺の戦いはスタートした。
「オラッ、もっと打ってこい!」
「でやーっ!」
雄たけびを上げながら踏み込み、間合いを詰め剣を振りかぶる。
大上段からの一撃が気持ちよく空を切った。
「馬鹿野郎!そんな鈍間じゃ虫も殺せんぞ!!」
「グエッ」
渾身の一撃を躱され体勢を崩した俺の腹に親父の蹴りが突き刺さる。
うう、痛いよパパン。
親父としては怪我しない程度に手加減してやってるのだろうが、6歳児からするとそれでも相当のダメージが入る。
だが、これだけやられても軽く痣になる程度で済むのだから、大したもんだと思う。
「サウロ、大丈夫?」
俺たち兄弟は屋敷の庭で剣術の稽古をしていた。
親父の一撃を受けぶっ倒れた俺のところに兄貴が駆け寄ってくる。
サウロス・ルーデルというのがこの世界での俺の名前だ。
最も、言いにくいという理由でサウロスと正しく呼ばれることはまれだが。
じゃあ初めからサウロにしろよ。 と思ったが、それが名前なのでしょうがない。
親には親で何か考えるところがあったのだろう。
因みに今俺の腹をさすっているのが長男のレックス。
「よし、サウロは今日はここまでだ。 レックス、やるぞ。」
「はい、父さん。」
俺が生まれたのは片田舎の村に屋敷を構える騎士家、そこの三男だった。
騎士の家だから当然俺たち子供にも戦いの技術を教える。
将来自分の子供を騎士団か軍に入れられるようにするためだ。
もっと金のある、例えば武官系の貴族の家なんかだと専門の家庭教師を雇って教育するらしいが、そこは領地も持たない田舎の一代騎士、そんなもんを雇う金銭的余裕は無いため剣術も魔術も親父直伝だ。
おっと、言い忘れていたが、魔法がある時点である程度想像はできると思うが俺の転生した世界は剣と魔法のファンタジーだった。
まあ、俗にいうナーロッパって奴か。
レックスが踏み込んで突きを放ち、親父がそれをいなして防ぐ。
返す刀で今度は親父が切り込むとレックスが大きく後ろに飛んで距離を取った。
俺なんかはまだ完全に遊ばれてるが、親父もレックスが相手だと多少まともに打ち合えているように見える。
長男だし肉体的に成長しているのもあるのだろうが、素人の俺から見ても筋がいいのだろうと思う。
俺もあと数年であんな風になれるのだろうか。
レックスと親父が木刀を使って打ち合っているのを見ながら考える。
この世界で俺はハーレムを築くため、強くなる必要がある。
何故かというと、この世界にも冒険者というシステムが存在しているからだ。
異世界ファンタジーと言えば冒険者、こう言ってももはや過言ではないだろう。
ここで頭角を現し名を上げることによって転生者の地位は向上し、ヒロインとの接点も出てくる。
つまり、腕っぷし一つで富も名声も女も手に入れることが可能なのだ。
となればやるべきことは決まってくる。
レベル上げだ。
まあ、剣術に関しては見ての通りまだまだだが、それでもコツコツやって行けば体力はつくだろう。
問題は魔術だ。
『エンゼルフォール』が使えないことが分かったため、これからは既存の魔術を極めるしかない。
ということで魔法の勉強だ。
まず、この世界には大きく分けて二つの魔術が存在する。
一つが一般魔法。
これが一番基礎的な魔法で、その内容は戦闘にも使えるものから炊事洗濯用の魔法まで多岐にわたる。
また、ナーロッパでありがちな属性や階級みたいなものもなく、水の魔法が得意だからと言って火が使えなかったりすることはない。
また、魔法の難易度は個々の術式によって変わるみたいだ。
雰囲気としてはどっちかというとハリポタの魔法に近い感じがする。
そして、もう一つが系統魔法。
これは戦闘系の魔法であることが多く、大体は魔術の流派の奥義になっている。
こっちの方が俺の魔法のイメージには近くって、例えば水系の系統魔法なら『水球』『水刃』『水壁』『爆水』といった具合に水に関する魔法がいくつも継承されていて、技ごとに難易度や効力でランク分けがされてたりするらしい。
ちょっとカッコいい。
後々のことを考えると是非とも使えるようになりたいところだ。
後、俺的に驚いたのはこの世界の魔法がMP制じゃなかったこと。
この世界にも魔法力という概念自体はあるものの、これは魔法を使うためのガソリンみたいなものではなく、あくまでどの程度の魔法を使える資格があるかどうかというような意味らしい。
中には自分の体力を削って撃つような特殊な魔法もないことはないらしいが圧倒的少数だという話だった。
この辺りの基礎理論は家にある入門書のザックリ説明じゃよく分からなかったけど。
とにかく、魔法を使いまくったからぶっ倒れてそれ以上無理すると死に至る、なんてことはめったに無いらしい。
そんなことを考えながら最後に軽く型の確認をして、剣術の稽古は終わりになった。
午後は魔術の勉強だ。
と言っても、魔術はまだ親父からは教えてもらえない。
本格的な魔術の稽古を受けているのは年長者のレックスだけだ。
だから俺はレックスに頼み込み、午後の空き時間を使って魔法を教えてもらうことにした。
「サウロ、入門書は読んできた?」
「うん。借りた本は読み終わったよ。」
「じゃあ、取り敢えず一番簡単な灯の呪文をやってみようか。」
そう言うと、レックスが杖を取り出して構える。
「『"光よ、闇を退け我を導き給え" トーチ』」
レックスが唱えると杖の先に電球程度の明かりが灯る。
「じゃあサウロ、やってみて。」
レックスから杖を受け取り、真似をして構える。
早い話がルーモス光よ、をやればいいわけだ。
「『"光よ、闇を退け我を導き給え" トーチ』」
呪文を唱えると、なんとなく杖の先に力が集中していく感覚がある。
ぼんやりと周りの空気がそこに引っ張られているような感じ。
と、突然その感覚が引き込まれるように強くなった。
瞬間、杖の先からフラッシュ並みの光が走る。
「うわっ!」
思わず杖を取り落としてしまった。
「おい。何やってんだよ。それじゃあ明かりっつうより目潰しだろ。」
俺が腰を抜かしていると、次男のラプターが文句を垂れながら部屋に入ってきた。
丁度部屋のドアを開けた時にフラッシュの直撃を受けたらしい。
基本的に剣術の稽古には顔を出さず、普段から部屋に引きこもりがちなこいつも魔法には興味があるようで、この時間になると部屋を出てくるのだ。
「びっくりしたな。
でも初めてだとうまく発動させられないことが多いのに、逆に強く光るなんてサウロには魔法の才能があるのかもね。」
「デカい魔法とか使わせたら暴走させそうだけどな。」
唯一自信のある魔法で俺に負けそうになって、ラプターはご機嫌斜めのようだ。
見たか。万年引きこもりのお前とは出来が違うんだよ。
とそんなことはどうでもいいとして、やっぱりこれは『エンゼルフォール』の影響なのだろうか?
そのせいで全ての魔法がコントロールできなくなってるとか?
だとするとまずいな。これは早急になんとかしないと。
「まあ、だんだんと加減を覚えていけばいいよ。」
レックスの言葉にうなずく。
まあ、初めてやったことなんて、大体失敗するもんだろ。
これからコツコツ勉強していけば、俺だって魔法も剣も上達するはずだ。
・・・・・・多分。