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夏のある日

もし宜しければ読んでいただければと思いますm(_ _)m

 



 ……んっ



 全身に染み渡る甘い吐息。



 ……はぁ……



 至る所に零れ落ちる熱い雫。


 それは余りにも不可解な光景だった。

 薄暗い中電気もつけず、カーテンも閉めず、なぜ自分はベッドに裸で寝ているのか。

 そして……



 はぁ……はぁ……



 なぜ、女性が自分にまたがっているのか。


 理由も過程も記憶にない。

 ただ、もうそんなことはどうでもいい。


 大事なのは自分と女性が、そういう関係を持とうとしている事実だけ。



 んっ……んん……



 月明かりに照らされ、より一層の色合いを醸し出す長いブロンドの髪。

 俯くような体勢で、その顔は分からない。


 だが、ゆっくりと動くたびに漏れる吐息は、鼓動を大きくするには十分だ。

 いつの間にか、そのすらっとした腰に宛がっていた手にも力が入る。



 ……はぁ



 白く、レースがあしらわれた下着。

 見れば見るほど色っぽい腰つき。

 その動きに合わせて揺られる2つの桃。

 雑誌や画面の中でしか見た事のなかったものが、目の前に存在する。



 はぁ……んっ……



 部屋の温度なのか、自分の体温なのか分からない。ただ、全身が熱く体中に汗が噴き出る。

 それでも……それを拭く余裕なんてない。いや、拭く事すらもったいなかった。



 んんっ……



 こすれ合う肌と肌が熱くなる。

 その感覚を求めるように、幾度となく同じ動きを繰り返す。


 甘い吐息は段々と荒くなり、お互いの汗が混じり合う。

 何とも言えない高揚感が体中を覆い尽くす。



 ……アッ……



 そんな時だった。

 一線を越えた様な艶やかな声と共に、女性が少しのけぞり……その顔が露になる。

 美しく、長い髪の間から見える顔は……まるで人形の様に整っていた。

 綺麗というよりは可愛いといった方が当てはまる。


 初めての相手としては申し分ない。

 これこそが、自分が待ち望んだ光景そのものだった。


 鼓動が波打ち、一つ大きく息をのむ。

 視線の先には、女性の透き通るような緑色の瞳。


 朧げな表情も相まって、どこか引き込まれそうな感覚に襲われそうになった途端……



 不意にその唇が動いた。



 ……ちい……











「だぁぁぁぁっちぃぃぃぃぃ!!!!!」











 その悪魔の怒号が、一瞬に脳みその隅々まで響き渡る。


「うわっ!」


 上ずるような声が反射的に口から飛び出ると、一瞬にして辺りが鮮明に映し出された。

 あらゆるものが置かれた棚。

 真新しい机にパソコン。

 どこか見慣れた始めた光景。

 それだけで今の状況を理解するには十分だった。


(あれ? 俺もしかして寝ちゃってた?)

 そんな疑問を浮かべながら、ふと机に置かれたデジタル時計が目に入る。そこに表示されていたのは20:10。

 なんてことのない時間。なんてことのない数字。いつもならそうなんだろうけど、今の自分においてその10と言う数字は余りにも恐ろしいものだった。


(えっ……10分? 8時じゅ……)

 一瞬にして心臓が締め付けられる。

 まだ寝ぼけていた意識が覚醒され、全神経が研ぎ澄まされる。


「やっ、やば」


 そして、反射的に椅子から立ち上がろうとした時だった。


「ほぉ……休憩時間10分もオーバーとは……やるなぁ」


 背後から聞こえる……声。

 ここ数カ月ですっかり聞き慣れた声の主は、振り返らずとも誰だか分かる。


「10分……私の喫煙時間(リフレッシュタイム)が遅れた訳だ……」


 ましてやその声のトーンで、今現在どんなご機嫌状態なのかすら理解可能。


(これはヤバい。非常にヤバい。けど、ここは素直に……)

 体を駆け巡る緊迫した空気。ただ、このままずっと座って入れない俺は、ゆっくりと椅子から立ち上がると、恐る恐る後ろを振り向きながら……


「いっ、いやぁ。すいま……はっ!」


 誠心誠意の謝罪を口にしようとした瞬間、そのご尊顔が視界に入った。

 

黒ぶち眼鏡の中から光る眼光。

 その鋭い眼つきは機嫌が悪いという現れ。

 口にくわえた煙草が、それを物語る。


 恐ろしい……ただただ恐ろしい。

 冷たい何かが額を伝う感覚に襲われる。

 何とも言えない威圧感に、危険信号が頭の中に響き渡る。


(……ここは逃げろ!)

 その刹那、体が瞬時に動き出す。


「はっ……はは……てっ、店長! 休憩あがりまーす!」


 我ながら感心するような身のこなし。

 生命の危機に瀕した時、人はあり得ない力を発揮すると言うけど……まさにそれを身に持って感じた瞬間だった。


「ちょっ……」


 そんな声が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいだ。

 そう言い聞かせながらバックヤードの扉に手を掛けると、俺は力強く押し開いた。


(はぁ。なんか良い気分だったはずなのに……)




(気のせいかな?)




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