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諦めきれない  作者: 秋月
8/8

カインとゼノ

「キリヤ将軍が探しておられたわよ。また軍議をさぼったみたいね」


リズが声をかけると、ゼノは


「久しぶりだな、リズ。同じメンツで同じ話ばっかりしてんだぜ。軍議なんかまじめに出てられるかよ。」


と開き直って答えた後、少しトーンを落としてリズに尋ねた。


「・・・親父怒ってたか?」


「相当ね。帰りは馬車に乗せないから走って帰れと仰ってたわよ。大変ね、頑張って。」


リズがしらっと答えると、ゼノは驚いた顔をした後、リズに泣きついてきた。


「走れって、帰るまでどんだけかかるんだよ。勘弁しろよ。・・・リズちゃん、お前んちの馬車乗せてってくれよ、お願い。」


「天下のキリヤ将軍がお決めになったことに逆らうようなこと、できるわけないでしょう。自業自得なんだから、走って帰りなさい。じゃあね。」


リズが取り合わずに冷たく返し、馬車に乗り込もうとすると、

ゼノは幼馴染に対して冷たすぎるだの、鬼だの、可愛くないだのと騒いで、リズの行く手を阻んだ。


子供のようなゼノの行動にリズは呆れて彼を見つめる。

良く日に焼けた肌と、鍛えられた体躯。たなびく赤い髪と黄金の瞳。

キリヤの一人息子ということもあり、社交会では人気があるようで、噂ではかなり派手に遊び回っているそうだ。


昔はヒョロヒョロだったのにな、となんだか時の流れを感じて一瞬感傷めいたさみしさが胸にわくが、ぐいぐいと押し戻される痛みにすぐにその気持ちは消え失せる。

リズは気を取り直して言った。


「馬鹿なこと言ってないで早く退きなさいよ。邪魔よ。」


「乗せてくれるまで退かない。お前しかいないなら余裕で俺の席もあんだろ。ケチなこと言うなよ。」


ゼノも負けじと応戦してくるが、リズも譲る気はなかった。


席があろうが無かろうが関係ない。

なぜリズがゼノを乗せてやらなければならないのだ。

嫌だ。面倒くさい。



暫くゼノと言い合っていると、リズは馬車越しに王宮から見慣れた人影が出てくるのを発見した。

カイン様だ。



「と、思ったけれど、よく考えたら走って帰るなんて可哀想ね。是非うちの馬車を使って帰ってちょうだい。じゃあまたね。」


リズは一転して早口でゼノに畳みかけると、リズの言葉に呆然とするゼノを馬車に押し込み、カインの方に駆け寄った。


「カイン様。昨日はありがとうございました。とても楽しかったです。・・・実は、馬車を人に貸してしまい、乗って帰る馬車がなくて。よろしければ・・・」


一緒に乗せて行っていただけますかと言いかけてリズは口をつぐんだ。

先程まではちょうどカインの陰で見えなかったが、カインの後ろにアリスの姿を見つけたからだ。


昨日リズとあんなことをしたのに、その翌日にはアリスと会っていたのか。

リズはその事実に打ちのめされる。


今回は毒が弱すぎたようだ。

今度からもう少し強いものを使おう。


リズはそう心に誓いながらアリスに話しかける。


「アリス様もご一緒でしたのね。お体のお加減はもう大丈夫ですの?」


アリスはまだ少し青白い顔をしていたが、リズに向かってにこりと笑いかけてきた。


「はい。心配して下さってありがとうございます。」


3人の間に沈黙が落ち、リズがちらりとカインを見ると、カインはどこか所在なさげにしていた。

彼なりに一応気まずい気持ちはあるようだ。



「なんだ、カインか。何してんだ?」


そこに無遠慮な声が割って入ってきた。


見るとゼノがこちらに向かって歩いてくるところだった。


流石に3人で馬車に乗る事態になるのは避けたかったので、リズはゼノが来たことに少し安堵した。


ゼノを見て、カインも少しほっとした様子で、


「ちょっと人と会う約束があってな。」


と答える。


カインとリズ、ゼノは幼馴染で、通っていた学校が同じだったこともあり、なんだかんだと幼い頃は一緒に過ごすことが多かった。


キリヤ将軍と宰相は険悪な仲だが、息子同士の相性は悪くないようで、成長して3人で過ごすことはほとんどなくなったが、カインとゼノはそれなりに仲の良い付き合いを続けているようだった。


ゼノはカインの言葉を聞き、


「ちょっとって何だよ?俺らには言えないようなことかー?」


と軽いがなんとなく棘のある口調で返した。


カインも声に含まれた棘を感じ取ったのか、少しむっとしたように、


「アリスを皇后陛下に紹介していたんだ。」


と短く答えた。


なるほど。

結婚後の根回しか。


リズはカインの言葉を聞いて大体の事情を悟った。


昨日舞踏会でアリスをパートナーとして披露できなかったこともあり、今日は無理をおして皇后との顔つなぎに来たのだ。


リズとの結婚後にアリスが社交会で肩身の狭い思いをしないように、後見人となって貰おうと考えたのだろう。



リズは皇后に嫌われている。

カインもそれとなくその事実を認識しているからこそ、彼女をアリスの後見人に選んだのだろう。


カインは時々とてつもなくリズに対して残酷だ。

リズは涙が出そうになって下を向いた。




「ゼノ様はリズ様と一緒にお帰りだったんですか?仲がよろしいんですね。」


リズが俯くと同時に、アリスから無神経な言葉がかけられる。


なぜ、リズが他の男性とリズの仲が良いなどと言われなければならないのか。


腹立たしさで涙がひいた。

言い返してやろうとリズが口を開くと、ゼノが先に吐き捨てるように言った。



「うるせえ、ど庶民が話しかけてくんな。貧乏がうつる。」



その口調のあまりの冷たさに、リズは驚いてゼノの顔を見た。


ゼノは冷たい目でちらりとアリスを見た後、リズにむかって何事もなかったかのように話しかけてくる。


「カインの馬車に乗るのは難しそうだし、早くリズの馬車で帰ろうぜ。さっき乗ってっていいって言ってたもんな。」


リズが何も言えずに黙っていると、カインがゼノに食ってかかった。


「何故お前はいつもアリスにそんな態度をとるんだ。いい加減にしろ。」


リズはゼノとアリスが同じ場にいるのを初めて見たが、ゼノはいつも彼女にこんな失礼な態度をとっているようだ。


ゼノにもいいところがあるわね。

リズはそう思いながら、2人が言い争うのを聞いていた。


「それにアリスの父は男爵で、アリスは俺達と同じ貴族だ。庶民ではない。」


同じだなんて心にもないことを。


カインの言葉を聞き、リズは少し白けた気持ちになる。


ゼノも同じ気持ちだったようで、馬鹿にしたようにカインに言い返す。


「同じ貴族って、ほんとに同じだと思ってんのか?ならアリス嬢と結婚してやれよ。身分が同じなら簡単だろ。」


カインが口籠るのをみてゼノは更に続けた。


「そんなことできないよな?なんでだ?身分が違うからだろ。あんまふざけたこと言ってんなよ。お前もその女と同じ馬鹿だと思われるぞ。」


「馬鹿だなんて・・・」


ゼノの言葉を聞き、アリスが泣き出す。


「もういい。お前とはこれ以上話していたくない。・・・行こうか。」


アリスが儚げに涙を流すのを見たカインは、優しくアリスを慰めながら、踵を返して去っていく。


それを見たゼノは、


「それじゃ俺らも帰ろうぜ!」


とリズににっこりと笑いかけた。


リズはゼノを無視して、カインが機嫌を直して戻って来ないかしらと、しばらく彼の姿を目で追っていた。


カインは彼の馬車に乗り込む際にちらりとこちらを見たものの、すぐに目線をそらし、その後は、馬車が動き出すまでもうこちらを向くことはなかった。


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