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諦めきれない  作者: 秋月
6/8

舞踏会とその翌日

その日の舞踏会で、カインはいつになく優しかった。


相変わらず二人の間で会話が弾むことはなかったが、

到着するなりその場に置き去りにされることはなかったし、

主催者に促されて一緒に踊ったダンスでは、目が合った際に舌打ちをされることもなかった。


・・・相変わらず微笑んでくれることもなかったが。


帰りの馬車でも、久しぶりのことの連続で心身ともに疲れ切っていたリズを気遣ってか、

カインは馬車が走り出すと、


「疲れているようだから、到着までゆっくり休むといい。」


と言って、そっけないけれど、リズにとっては十分優しく感じられる言葉をかけてくれた。


更に、驚くべきことに、別れ際にダメ元で誘ったリズの屋敷でのティータイムにも短時間ながら付き合ってくれたのだ。

お茶を飲み終えて颯爽と帰っていくカインの背中を見つめながら、リズは幸せだった。


行きの馬車で失言をしてしまったときにはどうなることかと思ったが、

結果として、リズとカインの仲は今日一日でかなりの改善が図られた。


改善・・・よね?

これは良い変化なのよね?

何となく、ちゃんと見なくてはいけない事実を置き去りにしている気がしていた。


リズは本来理性的で聡明な女性である。

なぜ今日はカインがリズに優しくしてくれたのか、その理由はリズ自身が一番良くわかっていた。


カインは単にリズが彼に与えたものの見返りとして、最低限の対価を払っていたにすぎないのに。

あんなに取り戻したいと望んでいた幼いころからの大切な関係は、

ほかでもないリズ自身の手で大きくゆがんでしまっていたのに。


リズは今日のカインとの幸せな時間を思い出し、見たくない自分の心に蓋をすることに決めた。



今日はいい日だった。

リズは、嬉しそうな彼女をみて色々と話しかけてくれるメイド達の質問に答えながら、

服を着替え、あたたかな食事を食べて、幸福な気持ちでベッドに入った。

カインが夢に出てくればいいのにという決して叶わない想いまで浮かび、リズはくすりと笑って、目を閉じた。




いつもの目覚めだった。頭が痛い。

今日は朝から父と兄と共に皇帝陛下に拝謁しなければならず、

リズは眠たい目をこすりながらメイド達が忙しく準備をしているのを眺めていた。


本来政治に関わりのないリズが父達にお供する必要はないのだが、

皇帝陛下が最も可愛がっている末の姫がリズを気に入っているため、

定期的にリズも王宮に顔を出すことになっている。


「今日は軍部の方達に会わなければ良いけれど」


リズは誰にともなくぽつりとつぶやく。


特に・・・と、特定の人物の顔を思い浮かべていると、


「侯爵様は、キリヤ将軍とは犬猿の仲ですものね」


リズの髪を美しく結い上げていたメイドが相槌を打つ。


父であるウェイルズ侯爵は、現皇帝からの信頼が厚く、

先代までは爵位は高いものの平凡な貴族の1つであったウェイルズ家に生まれながら、

一代で大きく権力を伸ばしている実力者だ。


この国では、軍部のトップであるキリヤ将軍と、宰相であるカインの父、アッシュベルト侯爵が皇帝に次ぐ権力を得ようと争っている状態にある。

キリヤ将軍とアッシュベルト侯爵は非常に仲が悪く、カインとリズの婚姻によりアッシュベルト侯爵と血縁関係となるウェイルズ侯爵も、当然の流れとしてキリヤ将軍率いる軍部との仲はよろしくない。


そのため、父と軍部の人間が王宮で出会うと、必ずと言ってよいほどくだらない諍いが起こってしまう。


今日は昨日の幸せな時間の余韻を楽しむため、用事を終わらせて早く帰りたいと思っているリズとしては、

軍部の関係者との遭遇は避けたい事態だった。


「まあ、なるようにしかならないわね。」


欠伸を噛み殺しながらリズはぼんやりと呟いた。



本日夕方に再度更新予定です。

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