155 ありがとう (改訂-6)
【ありがとう】をお送りします。
宜しくお願いします。
エレクトラが跪き祈りを捧げる。エレクトラの目の前に天から光輝く人の形をしたものがゆっくりと降りてきて、目の前で顕現する。ケルン神がゆっくりとエレクトラに話しかけて来た。
「世界の歪みを正した様ですね」
「はい。全て終わりました」
「ならば、約定に従い各自の願いを叶えよう」
そう言って女神が纏う銀色に輝くエネルギーを周囲に広げてゆく。暖かい波動が世界を包み、さらに別次元にまで及ぶ。世界に光の粒子が広がり人々に降り注いだ。皆が心の中で願う願望が朧げに形造られてゆく。ビリーは晴明やアーサー王、そしてエレクトラの兄の魂の再構築を願ったが、人の魂を元に戻す事は出来ないそうだ。
それぞれが跪き、強く願った。光の粒子の中に、一際輝く力が、各々の願いに向かって飛び立ってゆく。
「ヒロトお別れじゃ。妾はやはりエジプトを切り捨てる事はできぬ。ローマに対して足掻いてみせるよ……お主との時間、悪くなかったよ 」
クレオパトラの身体も光の粒子にかわってゆく。とても清々しい顔だった。
「いままで有難う……陛下の存在に救われました」
「よい。妾こそじゃ! 」
(最後まで名では呼んでくれなんだか……でも充分じゃ)
総司や武蔵、ウィリアム、九郎、ジャンヌ、小次郎、そしてビリー。
みな光の粒子になって消えてゆく。みな満ち足りている。
「隊長! 今まで有難う御座いました! 隊長と歩んだ日々、絶対に忘れません! 」
メイデルは涙を流すまいと決めていたが、どうにもならなかった。
「ヒロト、主は必ず見守っているわ。また必ず何処かで! 」
ジャンヌも手紙をその場で呼んで、自分の運命がジル・ド・レが言った事が正しいと知った。それでも戻る決意をする。それが主の、与えた試練ならばと……
「ああ……」
「ヒロト、妾は必ず戻ってくる」
マーリンはもう泣かなかった。必ず逢えると信じている。マーリンの体も消えてゆく。皆の光が緩やかに天に登ってゆく。
「いつまでも待っているよ。ゆっくり世界を観て回ったら時間なんかすぐさ! 」
ヒロトはグラウスやエレクトラ、リプリスと挨拶してアバロンを降りる事にした。
「ヒロト、ありがとう。兄に別れが言えた。貴方のおかげです……ほんとに行くのですか? 貴方さえよければ、皇國にずっと居て頂きたい」
「世界を! 世界を見てみたいんです。また会いに来ます……」
「かならず! 必ずですよ! 待っていますから」
「ご主人様、いつでもエルフの里に来て下さい。私もお待ちしています……」
リプリスに踵を返して、ヒロトはゆっくりと歩んでいった。ヒロトは自分が願った事が叶ったのか自分の目で見たかったが、仕方がない事だ。
「ユイ……生きろ」
そう言って、ヒロトはグランパスに入っていった。
◆◇◆
西暦2140年7月25日 東京、広尾某所の病院
「お父さん……わたし……見て」
ユイがゆっくりベットから身体を起こし、両足を床につける。そのまますっーっと、立ち上がった。
「ユイ! おまえ立てるのか? 」
「うん……それに何故かわからないけど、血の病気も治っているの。検査の日の前、お兄ちゃんが夢に出て来たその朝に、検査したら治ってるの」
ユイの頬を涙が伝う。
「?! なんと……ほんとか? 」
「……お兄ちゃん……」
窓の外は星空がとても近かった。
◆◇◆
西暦1881年7月14日 アメリカ、ニューメキシコ
少し深酒しすぎた、見上げると星空がとても近かった。馬屋に向かって歩き出した男の後をつける者がいる。
「……だれだにゃ? 知り合いか? 」
近づいて来た男に見覚えがあった。
「パット・ギャレット保安官……なんかようか? 」
そう声をかけた途端、ギャレットと呼ばれた男は腰の銃を抜き、目の前のビリー・ザ・キッドに向けて二発の弾丸を発射した。その弾丸がビリーの胸に着弾。ビリーは崩れ落ちた。
「貴様にようはない。ようが有るのは貴様にかかった賞金だ」
そう言って男はその場を立ち去る。
「……行ったか? ……ぶっふぁ〜。死ぬかと思った……」
そう言ってビリーは胸のあたりを抑えて、懐から四角い鉄板を取り出して脇に放った。二発の弾丸がめり込んでいる。
「いや〜。ヒロト様々だなゃ〜一日中、鉄板を入れてたから肩が凝っただよ」
そう言いながらもう一度夜空を見上げた。
◆◇◆
アリストラス皇國暦1400年
災厄の渦から、160年後の春
アリストラス皇國より北に五百デルにある小さな村。災厄の渦から百六十年が経過している。二ヶ月前にこの地に辿り着き、村で魔法を使った治療を行なっていた。村の一角を借りている処に近隣の村々から来た病人で列が出来ていた。お金を取らずに魔法治療を行う男の噂で人の出入りが後を絶たない。その列を縫う様に前に進む人影がある。
「……順番です。申し訳ないが列にならんでくれ」
その者の顔を見ないで言葉をかける。
「……妾も手伝うぞよ、ヒロト」
その声を聞いてヒロトは顔を上げた。頬を涙が伝う……その涙を美しい指がすくいと取る。
「……ああ、頼むよ」
今日の夜空は綺麗だろうと思った。
◆◇◆
「準備OKだ」
無機質な壁に囲まれた広いスペースに、幾つものカプセルがある。そのカプセルの中で、カズキは早くこの狭い空間から飛びたいと願った。自らが設計した【MMORPGファイヤーグランドライン】の世界すら狭いと感じる。まだ見ぬ新天地へ飛ぶ為に七年準備した。
「量子マーカー正常。いつでも行けます」
「じゃあ、始めるか! 皆、同じ場所に全員が転移するとは限らない。合流を最優先。いいね? 」
「了解だ、マスター」
「じゃあ、リンクする! 」
その瞬間、意識は【ファイヤーグランドライン】ナン大陸の中央山岳地帯に飛んだ。
山岳地帯に隠された様にある窪地にメンバーが構成された。
各々の自分の装備を確認する。あらかじめ自分に合った装備を装着している。
「ここに、異世界から来る何者かと、俺たちは入れ替わるのか?
……」
東堂詩織は誰にともなく呟いた。
だが直ぐに空に黒い渦が発生し始めた。稲妻が放電し、大気がイオン化している。
「さあ! 俺たちを連れていけ! 」
カズキは歓喜に打ち震えた。
【ありがとう】を、お送りしました。
いままで有難う御座いました。これにて【アリストラス戦記II 〜災厄の渦】は完結です。
そして正当なる続編であり、本編となる真なるストーリー【アリストラス戦記Ⅲ〜欲望の空】
クラインの運命を描く、災厄の渦前日譚【アリストラス戦記Ⅰ 〜絶望への架け橋】
宜しくお願いします。
(映画 明日に向かって撃てを観ながら)




