154 終焉の地 (改訂-6)
【終焉の地】をお送りします。
宜しくお願いします。
VRMMORPGファイヤーグランドライン……
参加人口二億人を超える仮想空間ゲーム。日本サーバーが管理運営するストームスレイヤーの天空に浮かぶナン大陸。七つの国家が鎬を削るこの大陸でヒロトは数多のミッションを突破してきた。いまやこの仮想世界でも指折りのプレイヤーだった。大事な妹が倒れた事実と向き合う事が出来ずに逃げ込んだ場所でもある。だが今となっては懐かしい……大地を爽やかな風が渡る。
「……ここは何処だ?! 」
頭がふらつく……時貞は周囲をみわたしたが、自分の知識にはない場所だった。
「【MMORPGファイヤーグランドライン】ナン大陸の中央山岳地帯……ここは貴様の終焉の地だ」
ヒロトは哀しみをたたえた瞳で時貞を見つめる。考えればこの男も哀しい運命だ。だがそれと、この男が行った事とはまた別の問題だ。
「終焉だと? こんな空間はすぐに脱出して神と合流するさ」
時貞は亜空間魔法の高速術式詠唱を行う。
「……飛べん??! 何故だ? 」
「この世界では貴様の術式は全て通用しない……」
「馬鹿な?! そんな事があるか?! 我が術はどの様な異界、時代でも通用する」
さらに時貞は別の術式を試すが、やはり次元跳躍が出来ない。無効化されているのでは無く、出来ない。
飛べない……
「……この【ファイヤーグランドライン】は、日本、アメリカ、インドにある三台の量子演算システム【クリシュナ】によって作られた仮想世界だ。貴様の霊体はデジタル化されこの世界に封じらた……」
ヒロトは目の前にコンソールを表示し、サーバーとのリンク状況を確認する。
「デジタル化? 量子演算システム? どう言う事だ? 」
近代までしか転生した事がない時貞にはその単語の意味するところが判らない。
「デジタル化された貴様の霊体と意識が、このマシン言語とアセンブリ言語の支配する世界でリアルな魔法を行使することは永遠に無い……ファイヤーグランドラインのグローバルサービスが終了し、サーバーが解体でもされたら意識を無くせるかもな。虚なる神もこの世界に飛ばした。とりあえず貴様はただのNPCになって悔やみ続けろ! 」
ヒロトは時貞に背を向けて歩き出した。
「ま、待て! こんな何処に置いていくのか?! 貴様、許さんぞ!! 必ずこんな場所から脱出して貴様を殺す! いや呪ってやるぞ!! 」
「デジタル世界で呪いなど、何の役にも立たない……自分の行いを踏み止まる事は出来た筈だ、呪うなら貴様自身の愚かさを呪うがいい……」
ヒロトは哀しみを飲み込んで、アリストラス世界に跳躍した。
「……ぅぅぅぅあうううあああああああ!!!!! 」
今となっては自分の名など、どうでもいいと言い放った男の絶叫がこだました。
◆◇◆
アリストラス超帝国暦五千二十三年
アリストラス皇國暦千二百四十年
一夜経ってアヴァロンの甲板に各々が集まった。
「……別れだな」
ウィリアムが武蔵や総司と握手する。武蔵などは握手する文化が無い為、非常に照れくさい。
「……また呼ばれるかもだなや〜」
ビリーは至ってビリーだった。でも晴明が逝った事で、心の中で何かが変わった様な気がする。
「この世界の料理が食べれ無いのは残念ね」
ジャンヌもいつも通りだ。だが彼女の未来を考えたら昨日は寝つけなかった……結局、言葉に出来なくて皆に手紙を書いて渡した。読むか読まないかは自分次第だとだけ伝えた。だが現世にもどったらその記憶すら忘れるかもしれない。
グラウス陛下はやはりナターシャの為に残る事にした。
クレオパトラはヒロトからの手紙をその場で読んで、エジプトに帰る事にした。その心情はわからないが、顔には硬い決意があった。
マーリンは聖剣をアーサーの息子であるモルドレッドに渡す役目を全うする為に円卓の騎士達と戻る決断をした。昨夜はヒロトの胸で泣きじゃくっていたが、もう決意は固まった様だ。武蔵や小次郎、総司は手紙をその場で破り捨てた。全ては定めだそうだ。これが侍の思考なのかと思った。総司曰く、すでに近藤さんや土方さんに命は預けてあるからと。だがヒロトは諦めきれず、どうしても聞いて欲しいと、一人づつと話しをした。
九郎は、手紙をその場では読まなかった。先の楽しみにとって置くとか言い出した。九郎らしい。早く静御前に逢いたいそうだ。
ウィリアムは手紙を読んで、妙に納得していた。ビリーだけが最後まで迷っていた様だ。召喚英雄の内、天寿を全う出来るのは、ウィリアムと武蔵の二人だけだ。だからこそ何とかしたかった。
「ヒロト……また会えるよ。私、必ず亜空間魔法の術式を完成させてヒロトに逢いに戻ってくる」
昨夜、ヒロトから聞いた話しは衝撃的だった。もうすでにヒロトの肉体は現世で死んでいた。違和感はかなり前からあった様だ。現世に戻ればヒロトはその時点で消滅する。このアリストラス世界から離れられないのだ。いくつも見たユイの夢は、現世での走馬灯だったのかも知れない。確信は無かったがVRMMORPGファイヤーグランドラインのナン大陸に転移した際に、自分の意識と肉体との間のラインが繋がっていない事がわかった。
「……ああ、俺も待ってる。マーリン、必ず待ってるよ」
◆◇◆
東京都新宿区某所
「はっ! この時を、待っていた。七年越しの成就だな! 凄まじいエネルギー体が二つ、異界から転移されて来た。これからエネルギーの揺り戻しが起きる。ある一定の場所から同量のエネルギー体が、逆に向こう側へ転移される。その場所も特定出来ている」
青年はモニター越しに、そんな呟きをする。傍に居る別の男への呟きだ。
「メンバーは揃った。量子相転移システムのマーキングも完了だ。いつでも行けるぜマスター! 」
高価なスーツに身を包んだ黒人の男は、隣りに座る男をマスターと呼ぶ。
「まってろよ、直ぐにそっちに行くよ……ヒロトさん」
カズキは、MMORPGファイヤーグランドラインでのヒロトのプレイヤー履歴を全て分析していた。時には、自分自身のアバターで接触し、共にイベント攻略組としてパーティを組んだ事もある。その時のヒロトに対する感想は、素晴らしいの一言だった。膨大な魔導やオカルトに対する知識、軍事、戦闘センス。いつしか憧れの様な感情を抱く様になった。
「内調との情報共有は良かったのか? 」
「ああ、自動的に米軍にも話しが入るだろうさ。精々掻き回せばいい。その方が面白いだろ? 」
これ以上ない程の笑みを浮かべ、カズキは最終準備にはいる。
【終焉の地】をお送りしました。
(映画 ロストワールドを観ながら)




