表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/92

72 異界流転 四-1 (改訂-5)

【異界流転 四-1】をお送りします。

 宜しくお願いします!





 ヒロトは書類仕事が山積みだった。


 兵站の調整や食料物資の調達にライフル銃の増産、国境周辺の部隊編成にまで着手している。

 皇國の軍事と物流システムを丸ごと変革させているのだ。

 徹夜続きの為、テーブルにうつ伏せて目を閉じている。


「あ〜あぅぅ……疲れた」


「かなりお疲れですね〜」

 マーリンがヒロトの肩を揉む。 



「お! ありがとう! きくな〜」



「風呂にでも入ったらどうじゃ? 沸かしておるぞ」

 妙に気が利くな。



「本当に? ありがたい。入って来ようかな? 」

 正直、あの風呂のデザインは苦手だな〜



「そうしろ。疲れが溜まっておるのじゃ」

 ヒロトはのそのそと動き出して風呂に向かった。

 疲れには勝てないらしい。



 この屋敷の風呂は、以前住んでいた騎士家の主人が自分の趣味を詰め込んだ変わった作りをしている。

 風呂はニ階にあり銭湯の様な脱衣所がある。入り口を潜ると広い洗い場と大きな浴槽がある。また広々としたバルコニーに出られる作りだ。

 問題は……

 浴槽とバルコニーとの間にベットが設置させている事だった。


「なんでベットが……」



「子作りの為に決まっておろーが」



 そう言ってマーリンがヒロトの背中を下から上へ指で撫で上げる。


「ひぃ〜ぃぃ!? 」 

 思わず声を上げるヒロトを妙に艶っぽい上目遣いで、


「そんなに驚く必要はないぞよ」

 そこにはタオル一枚を巻いただけのマーリンが立っていた。



「ななななんで?!? 」 



「だから、こ づ く り」



「だだだめめめ……」



「そんなに慌てなくとも良いではないか。運命なのじゃ」

 マーリンが寄りかかってくる。そしてタオルが床に……

 どう見ても中学生にしか見えないので、頭に18禁の文字が浮かび上がる。



「なにが運命なのじゃ? 」

 湯船の中から九郎が話しかける。



「ぎゃ〜」

 タオルすら巻いていない身体を、手で必死に隠そうとするが無理だろう……



「失敬だな。勝手に全裸で入ってきて何を驚く? 」


「なななんでお前がおるのじゃ! 」



「それこそお前だけの風呂では無いだろ? 」

 そう言いながら九郎は湯船を泳ぎ始める。



「お前のケツなど見たくないのじゃ! ヒロトのケツが見たいのじゃ! 」



「嫌われたもんだな。ヒロト! 指名だぞ! 」

 当の本人の姿は既に無い。さっさと逃げたようだ。九郎は今度は背泳ぎし始めた。股間は丸見え状態で。マーリンの手の平から氷の結晶が溢れ出している。



「ままて! 何をする気だ? この妖術女! 」

 凄じい冷気が風呂場を包み込み天井、床と氷結し始め、風呂の湯が結晶化して雪にかわっている。



「永久凍土に漬け込んでやる! 」

 次の瞬間、風呂場が爆発的な冷気に包まれて、実際に空気が爆発した。


 



「はっはっはひぃいは!! 」

 武蔵は思いっきり腹の底から笑った。



「それで氷漬けにされたのか? クックック」

 九郎はぶっすーっとした顔を真っ赤にして不貞腐れてる。



「ジャンヌ殿が居られて助かったな。うふぅ……」



「笑い過ぎですよ! 」


 (もうこの世界に慣れた感じだな? )

 いや元々神経が強いのだろう。

 ヒロトもなんだか心が軽く感じた。

 この世界に来て6ヶ月が経つ。

 災厄の渦の先方偵察隊は、グランパス氷河に入った。

 グランパス氷河に隣接するライアット公国に友好国のパルミナ連合王国軍の先発隊が出立したとの報告があった。

 来週にもビリー率いる銃士大隊が到着するので、編成が済み次第、各軍を纏めて出立する手筈だった。

 ただライアット公国に入るには途中でパルミナ連合王国を通る必要があるが、現在パルミナの隣国であるゴドラタン帝国がパルミナ国境に集結中でかなり不穏な動きをしている。場合によってはゴドラタン帝国軍と一戦交える必要があるかも知れない。先にゴドラタン帝国軍に楔を打ち込むか。帝国も本気でアリストラス皇國と事を構える事はしたく無いだろ。誰が味方で誰が敵かをはっきりさせる必要があるな……

 そう言ってヒロトは手紙を書き始めた。この世界に来てから、何故かこの世界の言語が頭に流れてこんでくる。文字など分かる筈がないのに何故か手紙が書けるし、文書も読める。

 ヒロトの場合MMORPGのVR世界で使用する検索AIシステムまで、この世界でも使用できる。何故かその検索AIはこの世界の事柄までも検索出来るのだ。そしてこのAIにはクラウド上にデータを保存する機能もあり、ヒロトが集めたレアアイテムや武器も入っている。試して見たがこの世界でも取り出す事が可能だった。

 その中から1つ2つ鍛冶工廠に渡して作らせている物もあった。


「九郎。考えてくれた? 」

 ヒロトは九郎に話しかける。


「俺の戦の仕方は、兵達にとっては地獄だそうだ。前に弁慶(ベンケイ)が言ってた。弁慶はついて来れるが他の兵はそうはいかないと……」

 

 (確かに断崖絶壁を馬で駆け下りて平家を叩いてたよな)



「この災厄の渦は、人間が滅ぶかどうかの瀬戸際の戦だよ。地獄だろうと、なんだろうと問題ない。むしろそれぐらいでないと勝てないかも知れない」



 九郎も練兵に参加しているが、どうしてもやり過ぎてしまう。自分がやれる事をそのまま他人にも要求してしまう癖がある。総司の練兵は鬼だが、九郎の練兵は修羅だ。どっちもどっちだけど……

 武蔵に至っては人に教える以前の問題だ。



「そう言われると楽になる。正直、平家を倒した後、生きる意味を無くしてたんだ」



 ヒロトは知っている。九郎の運命を。

 この戦の天才の生き死にを。


「今度は2人して暗い話し? 」

 ジャンヌが話しかけて来る。九郎に興味深々だ。



「真面目な話しをしてるだけさ。強すぎるのも大変だって話し」



「わかるよそれ! 私なんか物心ついた時には天使見えたり声が聞こえたりで周りに気味悪がられて」

ジャンヌはやれやれと嘆いてみせる。



「俺と似てるな……源氏の子だと言われて忌み嫌われ寺に預けられて。源氏の為にと戦えば、やれ激し過ぎるとか、やれついて行けないとか。やになるな。だから兄に褒められた時、凄く嬉しかったんだ……」

 だから裏切られたと感じた時は全てがどうでもよくなった。



「あんまり暗い事考えてないで、晩御飯の心配とか朝ごはんの事とかもっと前向きにね! 」



「食うことばかりか? 」



「お腹一杯に食べられば幸せよ! 」

 ジャンヌはそんな事もわからないの?と言いたげだ。


「確かにな……」

 九郎は吹っ切れたようだ。切り替えも早いのだろう。


「ヒロト。部隊の事を教えてくれ。明日教練を見に行く。」

 このやり取りがアリストラス皇國史上最強の独立大隊の誕生になるとは誰も考えていない。




◆◇◆




 空に五芒星を指で描きながらふと思う。どこで間違えたのかと。祖国の為、帝の為、その身を顧みずに駆け抜けてきたつもりだが、この身の力を恐れた者たちに暗殺されかけた。だが何故か生きている……同じ同門に我が力を強制的に封印され、追い詰められた。半分諦めて、死を覚悟し、丹波の山中を彷徨って、力付きた。少しだけ眠るつもりで横になり、目が覚めたら見知らぬ世界に意識が覚醒していた。



「南十字星の様な星座だが、やはり違う」

 この私が転移結界に気付きもしなかったとは……人の術では無い。もっと崇高なものだ……



「私の知らぬ術を、蘆屋道満(アシヤドウマン)にかけられた訳ではないな」

 かつての同門の名が浮かぶ。少し弱気になっているのかも知れない。素早く印を結ぶ。



「オン アビラ ウンケンソワカ」

 すると指先が光はじめる。術は使える……だが発動の力が普段よりも強い……



「別の世界に飛ばされたか……地獄界でも神界でもない。先ほどの様な魔物がいるところを鑑みると、人間界ではあるが精霊や妖精の類が混じり合う世界か……」



 男は冷静に自分の置かれた状況を分析していた。

野原で世界に思いを馳せていると、その側を何処かの軍隊が通り過ぎていく。

 それを眺めながらふと考えが纏まった。あんな軍が存在するなら集落や都もあるか……



「街へ行くか」



 懐から紙を取り出して何やら文字を書き殴ると、その紙を宙に放つ。

 すると紙が鳥の姿に変わり飛び上がる。そしてその鳥は先ほどの軍隊の上空をゆったりとついて行った。



「案内して頂こう」





 軍の先頭の馬上にビリーがだらしなく乗っている。落ちそうで落ちない。絶妙なバランス感覚だ。ビリーは夜空の星を眺めるのが好きだった。グランドキャニオンで仲間達と焚き火をしながら、星々を眺めて眠る。そんな日々が毎日続けばいいと本気で願っていた事もある。



「星が綺麗だなゃ〜」

 紙巻きタバコを咥えながら、夜空を見上げて呟く。流れ星を何度見ただろう?



「向こうの夜空と、かわらんな〜」

 かなり夜目がきく様だ。



「夜空はおんなじですか? 」

 副官のメイデルは同じ様に馬上から夜空を見上げる。


「星座は違うけどにゃ……」 



「…………」



 ビリーが目配せする。メイデルも目配せで答える。

そして小声でボソボソと話しかける。



「ありゃ〜いつもの監視とは違うな」 



「魔導士ですか? 私にはわかりませんが……」



「どこかこの国の魔導系統とは違うな……昔アパッチの精霊術師(シャーマン)が使った術に似た雰囲気だが、それも少し違うだなや〜」

 ビリーにも魔術の素養があるのかもしれない。



「皇都に入る前に出来れば拘束したいが、術者が何処かわからんな……殺気もない。ただついて来ている事だけはわかる」


 ビリーの野生の勘と言うか、気配を察知する能力はず抜けているし、視力に至っては異常に遠くが見える。

だがそれでも探知出来ないと言う事はかなり遠隔から監視されているのか? もしくは透明人間か?





「気づかれた? 」

 男は信じられないと言う顔をした。

 普通の人間なら察知は愚か、気配もわからない筈。



「霊力の動きがわかる人間が居るのか? 勘が異常にいいだけか? 」

 だがこちらの位置まではわかっていない様だ。争いは避けたい。街にまで案内して貰うだけだ。普通に声をかければ良かったと後悔した。



「仕方がない。出て行くか」

 観念して出て行く事にした。

 拘束されても最悪はどうとでもなる。

 何枚かの紙にまた何やら書き連ねて懐に忍ばせた。





 ビリーとメイデルが皇都ロイドヘブンに到着したのは次の日の正午だった。街道から城門を潜ると大歓声に出迎えられた。 


「こんなの初めてだなゃ〜」



 正直むず痒かった。

 生まれてこのかたこんな歓迎を受けた事がない。



「手を振って下さいよ」

 メイデルに促され仕方がなく手を振る。


「ほらほら。もっと手を振って! 」

 昨日合流した男がビリーをさらに促す。


「なんでお前に言われなあかん? 」

 一眼みてヒロトと同郷人だとわかった為に召喚者だとすぐに理解した。あらましを伝えて拘束する事はやめにしたが、この馴れ馴れしさはどうだろう?



「あら。ビリーといい勝負ですよ」

 メイデルが茶化す。



「同じ異世界からの来訪者。仲良くやりましょうよ」

この男の理解力も凄じい。



 ビリーとメイデルの話しを聞き全て理解した様だ。

またこの世界の魔法とも、マーリンが使う魔法とも、別体系の魔法を使う。

 中央にまで差し掛かると右に道を折れて駐留軍の屯所に向かう。別の新たな部隊も屯所の反対側から入ってくるとこだった。 


「全体! 整列行進! 乱れた行進をすると他の部隊に笑われるぞ!気合いれろ! 」


 メイデルが勝つを入れる。

 ビリーはのほほんとしてる。



「銃士大隊の初披露だぞ! 見せつけるつもりでやれ! 遅れた分隊は腕立て伏せ三百回! 」

 一糸乱れず大隊が進んでいく。大通りの見物人から歓声が沸く。



「この世界の軍隊は凄いですね。こんな行進は見た事がない」

 男は満面の笑顔で皇都の街並みを見渡しながら言う。



「この大隊は特別です。ビリー隊長の世界の軍隊のやり方を導入していますから。それに全員が銃士です。世界にこの部隊だけですよ」

 メイデルも嬉しいそうだ。



「メイデルさんの訓練の賜物ですよ。メイデルさんの厳しさと美貌のお陰ではないですかね〜」

 この男は人を褒めるのが妙に上手い。



「いやですわ〜。揶揄わないで下さい」



「いえいえ。本当の事ですよ! 」

 他の部隊と並走しながら屯所の中央に整列させる。

黒豹騎士団と銃士大隊が待機する広場にヒロトと武蔵が待ちかねていた。


「ビリー。ご苦労だったね。大したもんだよこの大隊は! 」



「おまたせ〜。メイデルちゃんが優秀だからなんとかね〜」

 馬から降りてビリーが連れの男を紹介する。



「えーっと召喚されたセイメーさんです」



「? セイメー? 」

 見ればまた日本人だ。でもこの服装は神主か?


「えーっと。私、アベノはるあきらと申します」



「安倍はるあきら?? 」



 どこかで聞いた名だ。どこで? どこ……

 はるあきら……晴……明……



安倍晴明(アベノセイメイ)?? 」



「はい。ご存知ですか? 私も有名になりましたね〜」

ステータスを確認すると レベル98 大妖術師(アークソーサラー)と表示される。



「日本最強の陰陽師(オンミョウジ) 安倍晴明? 」



「そんな呼ばれ方は初めてです。でも貴方も相当の使い手ですね。我が師匠よりもお強い」



 安倍晴明。晴明をハルアキラとも呼ぶ。陰陽師加茂忠行の元で陰陽道、天文道を学び、遣唐使として唐の都で白道上人から仙術の奥義を学び、さらに古神道、密教の奥義と合わせて陰陽道を完成させた。当時の朝廷の暦の作成、祭り事の日時など全てを取り仕切る。

 蘆屋道満との呪術合戦は伝説である。一族は昭和まで、土御門一門として天皇家を支えて、霊的に帝都を守護し続けた。日本最大の妖術師。



(すげ〜。安倍晴明なんてアニメかRPGの中だけのキャラだと思ってた……中学生の頃に和風RPGのラスボスだった様な気がするな……)



「随分とヒョロヒョロした男だな」

 武蔵は正直だ。思ったままを言う。



「貴方は随分と殺気が強いですね〜漏れ出してますよ」



「おっとこれは失礼」

 武蔵は悪びれた風もなく笑顔を向けた。



 ビリーが思わず身構えたほどのさっきまでの殺気は嘘の様に晴れている。これで八人目か……



「銃士大隊は壮観だね。総司と九郎の大隊も後で到着する」



「クロウ? 」



「ああビリーは初めてだね。このオッサンと一緒に来た召喚者だよ」

 オッサン呼ばわりされた武蔵を見てビリーは、



「このオッサンと同じ様にそのクロウとかも化け物なのかにゃ? 」



「オッサンではない。武蔵だ」

 顔に似合わず意外と気にしている様だ。



「どっちもどっちって感じかな。オッサンの戦闘力は八人の中では一番だろう。九郎はこと戦に関しては天才だから。比べ難いな」



「どっちにしても化け物って事だな。くわばらくわばら」

 何処で習ったんだそんな言葉? 



「平安の陰陽師と未来人の取り合わせか」

しみじみと武蔵が感慨深いという顔で口にする。



「未来人?! ヒロト殿が? 」



「ああ。確かお主とは千年ほど時代が離れておる」

 


「千年!! 素晴らしい! 千年も差があるとどれほどの事か?聞きたい! 聞きたい! 」

 晴明は興味が抑えられない様だ。













【異界流転 四-2】をお送りしました。


ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 8人目は安倍晴明。熱い展開ですね。銃も揃ってきたようで、武装が整っていくさまを見ているととても楽しい気分になります。登場人物同士のやり取りも軽妙な流れで素晴らしいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ